思惑
今はもう使われていない廃ビルの一室、誰もいないはずのそこに、鋭い声が響いた。 「地竜の一族の姫を捕らえろ。もしできないようなら、・・・分かっているな?」 「はっ。この命、いつでも陛下のために。」 「いい心がけだ。下がってよいぞ。」 「はっ。」 そう、ここは天竜と敵対する一族の本拠地。彼らは今、天竜を殲滅する為の策を練っていた。 「天竜の姫、日下遙。我が一族を滅ぼしたとでも思っているのか・・・?愚かな、次はお前達天竜の番だ・・・くくく・・・。我が夫、政也の仇、必ずとる・・・。」 独り言を言っているのは、天竜と敵対する一族の王、妖夜。彼女は、遙に討たれた夫の仇をとるため、もう何年も、遙を探し続けている。天竜を滅ぼすため、今度は、かつて天竜と敵対し、熾烈な争いを繰り広げた、地竜と手を結ぶつもりなのだ。捕らえるというのは、あくまでも誇張表現であり、実際はただ会って来るだけである。そうして緩やかな関係を築いていき、最後に同盟を結ぶつもりだ。地竜の姫、桜夜は、お人好しだが気の強いタイプである。そして自分の一族が他に狙われることを何より嫌う。この性格を利用すれば、同盟を結ぶこともそう難しくはないと妖夜は考えているのだ。交渉材料として、天竜を引き合いに出す。 人々が寝静まった静かな夜。世に災いを引き起こす種が、芽吹き始めていた。