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記念作品シリーズ

投稿総数200作記念作品「どんなことも」

作者: 尚文産商堂

中学生の時、僕は初めての恋をした。

その恋は、高校で別々の道を選んだことで、終わりを告げた。


高校に入り、俺は別の女子に恋をした。

だが、それも短期間で終わった。


そして、大学に入った。

でも、恋は、どうしてもしてしまうものらしい。

自分は、ふとしたきっかけで出会った子と親しくなった。


ふとしたきっかけといっても、些細なことだ。

車道へふらふらと出て行っていた彼女が、車に轢かれそうになった瞬間に、身を挺して助けただけだ。

その時は知らなかったが、彼女は、同じ大学であり同じ学部で、そして同じ学科だった。

なので、同じ教室になったり、学食で横になったりした。

挙句の果てには、同じ研究室に配属されるところまで来た。


「なあ、これってどういう状況だと思う」

学食で、周りに彼女がいないことを確認して、自分は、友人に話した。

「そりゃ大変だな。まあ、周りに女どころか人一人寄り付かない状況よりかはましだろ」

「まあな」

目の前の友人は、アナグラと呼ばれている変わり者の教授の研究室に入っていた。

そのおかげで、妙な知識は増えて行っていたが、友人は一人も増えていなかった。

そんな貴重な彼の友人が、自分なわけだ。

ちなみに、アナグラのあだ名は、その研究室がスペクトル分光器をつかうため、暗い部屋だというのが元だという話を聞いたことがある。

「それで、彼女とは仲良くしておきたいのか?」

「今のところはな。でも、これからのことを考えると、どっちなんだかわからないんだ」

「見た目ストーカーもどき、だもんな」

友人はそう言って、カツ丼をかき込んだ。


自分は友人との昼食会を終えると、研究室へ戻った。

俺が所属している研究室は、プログラミングを使って、新しい分析装置を作るというのに主眼を置いていた。

その分析装置というのは、ある写真の人物が別の写真の人物と同一人物かどうかというのを調べるためのもので、警察もちょくちょく顔を出していた。


研究室は、12畳ぐらいの小さな部屋で、パソコンが6台、ディスプレイが10台、教授がどこからか盗ってきたスーパーコンピューターが1台あった。

ただし、スーパーコンピューターは、自分がいつも使っている部屋ではなく、その隣にある同じ大きさの部屋に鎮座している。

「こんにちは」

自分がそんな研究室のドアを横に滑らせると、すでに彼女が座ってパソコンで何かをしていた。

「こんにちはー」

「何してるんだ」

自分は荷物を、いつも置いている机の上において、椅子に座ってから彼女に聞いた。

「プログラムを組んでるの。あまりうまくはないけどね」

タハハと苦笑いしながら、俺に教えてくれた。

「そうか。まあ、卒論までにできていればいいみたいだし、のんびり頑張れ」

そう言って、自分もパソコンをつけて作業を始める。


カタカタと単調なキーボードをたたく音だけが、研究室に響いていた。

30分ほどすると、彼女も疲れてきたようで、背伸びをして自分のところへキャスター付きのイスを転がしてきた。

「どう?」

「まあまあだな」

自分はそういうと、プログラミングをしていた手を休め、研究室に常置しているポットからコーヒーを入れることにした。

「飲むか?」

「飲む」

「砂糖とミルクは」

「いつも通り」

彼女はいつもと同じことを繰り返し言った。

つまり、砂糖はスティックタイプの粉砂糖1本、ミルクは少し、コーヒーは濃いめということだ。


コーヒーを入れている間、彼女に聞いてみたい事を聞いてみた。

「なあ、なんでこの研究室に入ったんだ?」

「なんでだろうね」

はぐらかされる。

「はぐらかさずにさ」

「うーん…わたしね、昔から作るっていうのが好きだったの。それで、パソコンのソフトとかも作りたいって思って、それでここに来たんだと思う。あ、あの事も関係はしていると思うけどね」

「あの事って、自分が助けたことか?」

「そうそう」

うなづきながら、彼女は言った。

「あれがあったからこそ、私は今、ここにいれる。いくら感謝してもしきれないほどだよ」

彼女のそういっている表情は、どこかしら幸せという感覚であふれているように見えた。


翌日、再び友人との昼食で、俺は昨日のことを話してみた。

「なるほどな」

「で、どう思う」

「そりゃ、こんな良好な関係のままでいたいんだったら、このままだし。親密な関係になりたいんだったら、告白をするべきだろうな」

友人は、親子丼を食べながら言った。

「…自分は、どっちがいいんだろうな」

「それは、お前が決めることだよ。俺は、お前の人生に口出しをするような野暮ったい奴じゃないんでね」

だが、俺は決心がつかなかった。


そのまま、ずるずると友人以上恋人未満のような関係が続いてしまった。

俺は告白をすることなく、大学の卒業式を迎えた。


卒業式といっても、自分自身は院に進むことが決まっているため、あまり実感はなかった。

彼女はというと、無事にゲーム会社に就職することが決まり、今日でお別れということになった。

「ねえ、ちょっといい?」

卒業式が終わり、研究室に戻る途中で彼女に呼び止められた。

そのまま、着ているスーツの袖口を引っ張られながら、近くの誰もいない空き教室まで連れてこられた。


「ねえ、どう思う?」

「どうって、何が」

「わたしのことよ」

誰もいない教室で、自分たちの言葉だけが不気味に響いている。

「お前のことは、まあ、好い友達って言ったところか」

「好い友達から、一歩進めてみない?」

「ん?どういうことだ?」

俺は聞き返した。

「私と、一生一緒にいてくれる?」

「…つまり、結婚してくれっていうことか」

「そこまではいかないけど…まずは付き合ってみるところからとかは?」

「そのままゴールインしそうなんだがな」

俺は笑いながら言った。


翌日、アナグラから脱出を果たした友人にそのことを話した。

「そうか、おめでとう。俺も彼女を作りたかったんだがなー」

「お前のところ、女子いねーじゃねーかよ」

「そうなんだよ、ちっとばかし、ミスっちまったんだ」

そう言っている友人も、なにかうれしそうだった。

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