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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか

真実の愛という揮発性物質

作者: マンムート
掲載日:2026/05/27



 離宮で開かれた貴族たちがつどう夜会。



「王太子である私フィリップは、バラード侯爵令嬢アーシュラに婚約破棄を宣言する!」



 フィリップ王太子は、アーシュラに宣言した。



 アーシュラは、王太子の隣に立つプルシアを見た。


 名もない弱小男爵家の娘。


 彼女は、恋の情熱に輝き、ただでさえ可憐なのに、さらに美しく見えた。



 アーシュラは思った。


 ああ、無知ゆえだとしても、わたくしには無理だわ。



 フィリップは、唇をにたり、とゆがめ、


「アーシュラ! お前の――」


 それを遮ったのはプルシアだった。


「アーシュラ様、いえ、バラード侯爵令嬢様……こんなことになってしまって申し訳ありません……何度も忠告をしていただいたのに……」


「いいのです。貴女がわたくしをあしざまに仰っていないことは判っております」


 そして心の中で付け加えた。


 貴女が、物語に出て来る泥棒猫のような女だったら。


 わたくしは、侯爵家の力と、全ての権謀術数を駆使して貴女を破滅させたでしょうに。



 プルシアは、大きく息を吸い、会場中に響く声で告げた。


「ここに改めて言わせていただきます。面白がって噂している方々! バラード侯爵令嬢はわたしをいじめてなどおりません!」



 フィリップとフィリップの側近達が、顔色を変えた。



 アーシュラは知っていた。


 彼らが『被害者』と『加害者』を用意していたことを。


 愚かな。


 被害者にするはずのプルシアがここまで明快に「なかった」と言ったら、冤罪が成立するはずがない。


 それに殿下達は判っていない。


 プルシアという少女が、そんなことを認めるわけがないということを。


 

 フィリップが気を取り直し、取り繕うように、


「そ、そうだ! これは真実の愛ゆえである! アーシュラには何も落ち度はない!」


 


 本当に真実の愛でも、そうでなかったとしても、彼女らの未来は……


 アーシュラは、その思いを胸の奥底に押し込めると、高位貴族の令嬢らしい見事なカーテシーをフィリップ、いやプルシアに対して示した。



「婚約破棄、了解いたしました。おふたりに……本当の真実の愛がございますように」



 そして、くるり、と踵を返すと、その場を立ち去った。



 背後から喜びの声が追いかけて来る。


「プルシア! これで私達は結婚できる!」


「フィリップ様のお嫁さんになれるなんて嬉しい! 夢みたい!」



 アーシュラは足を止めず、ちいさく呟いた。


「さようならプルシア嬢……せめて真実の愛があることを祈っております」



 泣きそうになったが、泣かなかった。



 三日後。



 王家から、フィリップとプルシアの病死が発表され。



 フィリップの側近達の姿は、王都から消えた。




 人々はますます確信した。


『真実の愛』などないのだと。




      ※      ※      ※




 フィリップの父である国王は、筆頭魔法使いに尋ねた。


「どうだった?」


 期待していない声だった。


 筆頭魔法使いは恭しく、


「あの場ですぐ採集できたことがよかったようです」


「なんとまことか!?」


「状態も非常によく純度も高かったです。離宮に施設を作っておいた甲斐がありました」



 フィリップとプルシアは、あの後即座に殺害されていた。



 離宮の一室で待つように言われ。


 ふたりきりになり、見つめあい、唇を近づけ、キスしようとした瞬間。


 魔術的結界が作動した。


 極低温の冷気が結界を満たし。


 ふたりは近づきあう姿勢のまま瞬時に凍結。


 彫像と化したふたりの唇は一瞬重なり。


 ガラスが砕けるのに似た音を立てて砕け散った。


 舞い散る破片は金剛石のようにきらめいた。


 結界が、鎮魂歌を思わせる音を響かせる中、破片は一斉に揮発し七色の雲となり。


 天井の穴から吸い込まれていった。



 真実の愛。


 それはうつろいやすく。


 疑念や利己心ですぐ劣化し消滅してしまう。


 それゆえ作られた施設だった。



「ふたりから採集できたとなれば、その量も――」


 筆頭魔法使いは小さく首を振った。


「女の方からだけでした」


「そうか……息子からは取れなかったか……」


 国王は、溜息をついた。


「若い男にありがちな性欲と愛の混同にすぎなかったか……よくあることだな」


「だと思われます」


「あの娘……単なる泥棒猫だと思っていたのだがな……まこと純情な娘であったとは……」


「遺族はどうされます?」


 王は顔色も変えずに告げた。


「族滅だ」


「では、そのように」



 極低温を維持する装置がついたフラスコが運ばれて来た。


 周囲には白い冷気が漂っている。


 そのフラスコの中に、キラキラと七色に光る気体が揺らめく。



「これが真実の愛か……きれいなものだな」


「触ってはなりませんぞ」


「ああ、わかっている……だが、ひどく心惹かれるものだな」


「どんな宝石より貴重な、真実の愛ですから」


 そう会話しつつも、国王も筆頭魔法使いも七色のきらめきから目が離せない。


「この極低温のフラスコから出せば一瞬で揮発するのだったな……まことにうつろいやすきものだ」



 脇に控えていた筆頭神官が、


「これで王国は当分安泰です。王都及び国王直轄地を防護する結界を30年間維持してなお余りある分量ですから」


「今の残量は?」 


「あと3年分でした」


「余りあると申したが、侯爵家への賠償として何年分回せる?」


「侯爵領の結界を15年は維持できる分量が」


「ではそれを賠償の代わりとしよう……だが、こうして見ても未だに信じられん……ほんとうに真実の愛はあるのだな」


「ええ、10年間に1度か20年に1度しか現れませんが……」



 王は改めてフラスコを見た。


 フラスコの中で、真実の愛は虹色に輝いてゆらめいている。



「この国は真実の愛ゆえに、保っているというわけか……」




たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。


最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。


少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、


評価や感想をいただけるととても励みになります。


なおこのお話には姉妹編『有能令嬢ですが、真実の愛(物理!)には勝てませんでした』ありまして。こちらは、真実の愛にはミラクルパワーがあって、そのパワーを真実の愛のバカップルが考えなしにやりたいほうだい振り回してしまったらどうなるか、というお話です。

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― 新着の感想 ―
プルシアが哀れなんだか、それと気づく間もなく死んじゃったんだから幸福なのか…… あ、王子は下半身野郎だと判明したのでどうでもいいです
とても面白かったです。 なーろっぱ世界の短編シリーズ、どれも面白くて好きですが、このお話は特に儚い美しさがあって好きです。
おとぎ話の本質《残酷で美しい》を地で行く作品ですね 儚く脆く美しい ー触れてゎいけないけれど…魅了されるー >『「この国は真実の愛ゆえに、保っているというわけか……」』 ↑↑↑恐ろしくも哀しい王様…
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