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50年前へのタイムリープ


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#### **2. 50年前へのタイムリープ**


片山義則は、手にしたタイムマシンの前に立ち、胸の鼓動が高鳴るのを感じていた。付属のマニュアルには、副作用や身体への負担について警告が細かく記されていた。「時空移動には予期せぬ副作用がある場合があります」といった注意書きに目を通すたびに、義則は一瞬ためらった。しかし、60年間の平凡で焦燥に満ちた人生を振り返ると、その警告など些細なことに思えた。今ここで躊躇すれば、もう二度とこのチャンスは訪れないかもしれない――その思いが、迷いを一掃した。


義則は深呼吸を一つすると、タイムマシンの起動レバーを引いた。周囲の風景が光の渦に変わり、耳元で低い唸り声のような音が響く。瞬間的に意識が揺らぎ、視界が白くなる感覚――それは不思議な浮遊感と、身体が引き裂かれるような違和感を伴っていた。だが、その感覚も数秒で消え、義則はゆっくりと目を開けた。


目の前に広がる景色は、見覚えのある小学校の教室だった。窓から差し込む光、黒板のチョークの匂い、木製の机と椅子――すべてが50年前と同じ光景だった。義則の心は一瞬で過去に引き戻される。だが、身体はあの頃の自分、**小学校1年生の少年**そのものでありながら、頭の中には60年間の知識と経験が完全に保持されていた。


「……嘘だろ、俺、本当に戻ったのか?」


声に出すまでもなく、自分の小さな手と身体を見て、義則は信じられない感覚に浸った。教室の中では、当時のクラスメイトたちが無邪気に席につき、教師が朝の挨拶を始めようとしている。義則は、自分だけが時間の外側に立つ観察者であることを認識した。周囲は当時のままだが、**自分の知識と経験は60年分**、すべて保持している。


義則は心の中で、自分の頭を指で軽く叩きながら思った。「小学校1年生の初期値は5点――でも、今度は違う」。かつての自分は、学力も社会性も低く、周囲の助けなしには何もできなかった。しかし今の自分には、数十年にわたって蓄積された学びと経験がある。計算、読解、社会常識、人生の判断――どれも完全に備わっている。この瞬間、義則は「やり直せる」という確信を得た。


授業が始まり、教師が簡単な読み書きや計算の問題を黒板に書き出す。義則は静かに鉛筆を握り、頭の中で過去の自分がつまずいたポイントを瞬時に解析する。周囲の児童たちはまだ理解に苦しむ単純な計算も、義則の脳裏では60年分の学習と経験によって即座に答えが導かれる。自分の手で答案用紙に正確に記入するたび、胸に小さな高揚感が広がる。


さらに、義則は人間関係の攻略法も熟知していた。かつて孤独で友人の少なかった自分とは違い、相手の性格や傾向を記憶しており、適切な言葉をかけることで自然に友人を作ることができる。内気なクラスメイトにも声をかけ、簡単な会話を交わすことで信頼を築いていった。義則の中で、60年間の孤独と失敗はすべて戦略として利用可能な知識に変わったのである。


昼休み、校庭に出ると、以前なら遠くから眺めるだけだった遊びや運動にも、義則は積極的に参加した。体力は60歳時点の小柄な身体のままだが、全能力×14薬の効果がすぐに表れ、瞬発力や反射神経が驚くほど向上していた。ドッジボールやかけっこでも、同級生たちに遅れを取ることはない。初めて味わう、**「身体と知識が一致した感覚」**に、義則は歓喜を覚えた。


授業や遊びの合間に、義則は次の人生の計画を頭の中で練る。学力だけでなく、趣味、健康、社交性、将来の職業選択、恋愛……すべてを戦略的にやり直すことが可能だ。過去の自分が経験した失敗はすべてデータとして蓄積されており、二度目の人生では同じミスを繰り返す必要はない。「今度の自分は、初期値5点でも完璧にやり直せる」――この確信が義則の心を満たし、未来への希望が初めて輝き出した。


日々の生活の中で、義則は静かに変化を感じた。朝の準備、教室での発言、友人との会話、遊びの選択……どれも過去の自分なら失敗や不安を伴った瞬間だ。しかし今は、すべてが計算済みで、確実に成功する行動として実行できる。義則は、小さな成功の積み重ねがやがて人生全体を変えることを理解していた。


夜、布団に入ったとき、義則は天井を見上げながら静かに微笑んだ。60年分の知識と経験を手にした自分は、これまでの孤独な人生を超え、未来を自由に切り開く力を得た。過去に戻ったその瞬間から、二回目の人生はすでに始まっている。初期値は低くても、心の中ではすでに**最強の片山義則**が動き出していた。


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