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高校


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高校でも、義則を取り巻く状況はこれまでと大きく変わらなかった。支援者学級での学びは引き続き提供され、義則の学力は相変わらず平均に届くことはなかった。教科書の文字や数式を目の前にすると、周囲の生徒たちがすらすらと理解していく様子を目にし、義則は自分の理解の遅さを再認識せざるを得なかった。それでも、義則はそのことを深刻に悲観することはなかった。教師や支援者がそばにいて、一つ一つ丁寧に説明してくれる環境は、義則にとって安心の支えとなっていた。学習内容が完全に理解できないこともあったが、それでも課題に向き合い、分かる範囲で着実に取り組むことが、日々の生活のリズムとなっていたのである。


義則は、高校生活において特別な期待をかけられることもなく、また周囲から突出した成果を求められることもなかった。彼に求められたのは、ただ日常の学校生活を「こなす」ことだった。授業に出席し、課題を提出し、定期的に評価されるテストを受ける――その一つひとつを淡々と消化することで、義則は自分の生活を整えていた。周囲の生徒が部活動や友人との付き合いに熱中する中、義則は自分のペースで、ひとつずつ課題を終わらせることに集中していた。目標や競争心に駆られるのではなく、「今日やるべきことをこなす」というシンプルな行動指針が、彼にとって安心できる日常の枠組みであった。


休み時間には、義則はほとんどの場合、一人で過ごしていた。教室の片隅に座り、本を広げてページをめくるか、ノートに思ったことや見たものを記録することが習慣となっていた。友人はごく限られており、気心の知れた数名と短い会話を交わす程度であったが、それも義則にとっては負担ではなく、心地よい距離感での交流であった。教室の雑多な騒音や、笑い声に混ざる自分の居場所のなさは、時折胸に小さな寂しさを呼び起こすこともあった。しかし義則は、その感情を無理に押し殺すのではなく、自分の内面を見つめる時間として受け入れていた。孤独であることは、彼にとってただの事実であり、それを否定する必要はない、と彼は理解していたのである。


この時期、義則の心の奥底には、漠然とした自覚が芽生え始めていた。「普通の人生には届かないかもしれない」という思いである。周囲の生徒たちは大学進学や資格取得、部活動での成果や恋愛の話題に熱中しているのを見て、義則は自分の道の違いを意識せざるを得なかった。とはいえ、それは絶望的なものではなく、むしろ現実を冷静に受け止めるための指針でもあった。義則は、自分にできる範囲で最善を尽くし、他者と比べることよりも、日々の小さな達成や楽しみを重ねることに価値を置き始めていたのである。


読書や創作は、この時期も義則の生活の中心であった。教室の片隅で開く小説や漫画、歴史書や科学の本は、彼にとって逃避の手段であると同時に学びの場でもあった。登場人物の葛藤や冒険を追体験し、物語の世界で試行錯誤することで、義則は自分の思考力や想像力を養った。また、ノートやスケッチブックに自分の考えや情景を描き留める行為は、彼にとって自己表現の重要な手段であり、孤独な時間を豊かにする不可欠な要素であった。義則は、人と話すことや外部の評価に依存せず、自分の世界を構築する力を徐々に育んでいたのである。


義則の高校生活は、他者から見れば地味で目立たないものに映ったかもしれない。しかし、その静かな日々の中で、義則は自分なりのペースとルールを見つけることに成功していた。授業や課題の進め方、休み時間の過ごし方、友人との距離感の取り方――すべてが、彼自身を守り、成長させるための工夫であった。学力は平均に届かなくとも、義則は自分の世界を少しずつ広げ、内面の成長を重ねていった。


さらに、高校生活を通じて、義則は忍耐力と自己管理能力を磨いていった。理解の遅さや友人関係の限界に直面しても、義則は感情に振り回されることなく、淡々と日々の課題をこなした。自分の体調や集中力を意識し、無理のない範囲で努力を重ねる姿勢は、義則が孤独や困難を前向きに受け入れる力の源泉となったのである。


結局、義則の高校生活は、華やかな思い出や目立つ成果に彩られたものではなかった。しかし、日々の課題を淡々と終え、静かに本を読み、教室の片隅で自分の世界を築く――その繰り返しの中で、義則は自分自身を理解し、受け入れる力を養っていった。漠然とした「普通の人生には届かない」という自覚はあったものの、彼はそれを悲観するのではなく、自己形成の一部として受け止め、日々の生活に集中することで、自分なりの歩みを確実に進めていったのである。


高校でのこの時間は、義則の人格や価値観を形作る重要な時期であった。学力や社会的評価の遅れはあったが、彼はそれを自分の成長の阻害要因とはせず、日々の小さな達成や内面の豊かさを積み重ねることで、確かな自己基盤を築いていたのである。外からは地味で目立たない日々に見えたかもしれないが、義則にとっては、自己理解、忍耐、想像力、自己管理――そうした生きる力を育む大切な時間であった。


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