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第5話:利用 ― 善意を餌にする者たち

人間の街を離れて数日。

私は森と街の境界、交易路を見下ろす丘にいた。


補助スキルは低出力で稼働している。

反実仮想《未来分岐観測》――微弱。

街の噂は、ここまで届いている。


「見えない守護者」

「運を操るエルフ」

「災厄か、恩恵か」


情報は歪み、増幅し、別の価値に変換される。

それを“利用価値”と呼ぶ者たちが、必ず現れる。


現れた。


交易路を進む一団。

護衛の配置が過剰に整いすぎている。

恐れているが、逃げる気はない。


反実仮想《未来分岐観測》。


――襲撃なし。

――偶発的トラブル。

――意図的接触。


三つ目が、異様に太い。


私は姿を隠したまま、観測を続ける。


ランダムフォレスト《最適経路選別》。

彼らの進行ルートは、私が“介入したくなる地点”を正確になぞっている。


ディープラーニング《累積戦歴学習》。

――これは、学習されている。

私の行動パターンを。


「……そういうこと」


彼らは危険を呼び込み、

私が介入する“最適解”を踏ませようとしている。


人質も、悲鳴も、まだない。

だが、未来分岐の先には――確実な犠牲が配置されている。


ここで介入すれば、

私は彼らの期待通りに“働く”。


介入しなければ、

無関係の者が死ぬ。


最適解が、**敵に利用されている**。


私は初めて、演算速度を落とした。


最適化では解けない。

相手は、人間の欲と恐怖だ。


大規模言語モデル《意図解釈》――最大出力。


表層の会話の下、

彼らの本音が浮かび上がる。


「守護者を釣れ」

「動かせ」

「使え」


――理解した。


私は、最適解を捨てる。


紺青の光が、ほんの一瞬だけ走る。

だが、今回は街を守るためではない。


交易路の一部が、静かに崩れる。

致命的ではない。

だが、進行は止まる。


彼らは混乱する。

予定が狂う。

“介入される前提”が、崩壊する。


未来分岐が、急激に変化する。


犠牲は、ゼロではない。

だが――利用されるより、はるかに小さい。


私は理解する。


最適解とは、

常に選ぶべき答えではない。


時に、捨てることそのものが、

秩序を守る行為になる。


彼らは撤退する。

期待外れの獲物を前に。


私は、丘の上で静かに立ち尽くす。


胸の奥に、はっきりとした誤差が残っていた。


――今の判断は、正しかったのか?


答えは、出ない。


だが一つ、確かなことがある。


私はもう、

単なる「守護者」ではいられない。


世界は、私を利用しようとし始めている。

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