第3話:無双 ― 戦わずして制す
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第三話から、物語は少しずつ
**“外側から主人公を見る視点”**が混じり始めます。
アイ自身は静かに生きているつもりでも、
世界はそれを許してくれません。
この話では、
•直接的な戦闘はほとんどありません
•しかし「危険」は、はっきりと形を持ち始めます
何が脅威なのか、
誰が敵なのか――
まだ、はっきりとは分かりません。
けれど確実に、
“歯車が動き出した”回です。
森の奥、古い街道跡に、武装した一団が集結していた。
人間の傭兵、獣人の斥候、魔導師崩れ。
統制は取れているが、緊張が見える。
彼らの視線の先には、小さな村があった。
略奪目的――それだけで十分だ。
私は少し離れた木の上から、その光景を見下ろしている。
風に揺れる枝の上。足音も、気配も消して。
補助スキル起動。
反実仮想《未来分岐観測》。
――正面衝突:村人の死者三十七。
――奇襲:傭兵側の損耗大、村は半壊。
――無介入:村、消滅。
どれも、許容できない。
次。
ランダムフォレスト《最適経路選別》。
村人の逃走経路が浮かび上がる。
だが問題は、彼らが「逃げない」ことだ。
家も、家族も、生活も、そこにある。
逃げない者は、守るしかない。
ディープラーニング《累積戦歴学習》。
似た構図を、私は知っている。
記憶の奥――この世界のものではない戦争、暴動、崩壊。
人は「勝てる」と思えば、進む。
ならば。
大規模言語モデル《意図解釈》。
傭兵たちの会話を、遠距離で解析する。
金。
安全。
裏切りへの恐怖。
――脆い。
私は、魔法を使わない。
代わりに、**配置をずらす**。
風向きに合わせて枝を揺らし、
獣人の嗅覚を惑わす匂いを流し、
見張り役の視界に「何かいた気がする」という錯覚を残す。
一人が、仲間に言う。
「……気のせいか?」
その言葉をきっかけに、疑念が増幅する。
反実仮想《未来分岐観測》、再計算。
――疑心暗鬼:成功率、上昇。
私は、もう一押しする。
彼らの背後、街道の分岐点に小さな痕跡を残す。
「先に来た部隊がいる」ように見せるための、最小の情報。
傭兵たちがざわつく。
「話が違う」
「罠じゃないのか?」
「割に合わない」
五分後。
彼らは撤退を決めた。
剣は抜かれず、血は流れず、村は無傷のまま。
私は、木の上で静かにそれを見届ける。
――成功。
だが。
村の外れに立つ一人の老人が、私の方を見ていた。
いや、正確には「何か」を見ていた。
目が合う。
一瞬。
彼は、深く頭を下げた。
気づいたのだ。
誰かが、見えない手で状況を動かしたことに。
私は、姿を消す。
誇りも、感謝も、必要ない。
ただ――
このやり方は、危うい。
力を見せず、痕跡も残さず、
それでも世界を動かしている。
もし誰かが、
この“無双”の正体に気づいたら。
そのとき、私は
守護者ではなく、脅威として認識されるだろう。
私はアイ。
戦わずして制す知性。
そして――
最適化という名の、静かな異物。
第三話を読んでいただき、ありがとうございました。
ここで描きたかったのは、
**「理解しようとすること自体が、暴力になりうる」**という点です。
アイは何もしていません。
それでも、周囲は彼女を観測し、言葉を与え、意味づけようとします。
次回からは、
•人間側の視点がより明確に描かれ
•「善意」が物語を歪め始めます
第四話では、
アイが“守る側”ではなく、
**“測られる側”**になる瞬間が描かれる予定です。
もしよければ、
感想や評価をいただけると大きな励みになります。
それでは、次話でまたお会いしましょう。




