第2話:違和感 ― 知性はどこから来たの
第一話を読んでいただき、ありがとうございます。
第二話は戦闘ではなく、
**「何も起きていない時間」**を描いています。
アイは最強ではありません。
むしろ、できることが多すぎて、
「何もしない」という選択に苦しむ存在です。
この話では、
彼女がなぜ目立たないように生きようとするのか、
そして“普通のエルフ”として振る舞う理由が少しだけ見えてきます。
静かな回ですが、
後々かなり重要な伏線を含んでいます。
街が落ち着きを取り戻した頃、私は高台を離れ、森の中へ戻っていた。
エルフの集落は、相変わらず静かだ。
樹上に渡された回廊、葉を透かす光、風と共に流れる長い時間。
ここでは、争いも焦りも、基本的には存在しない。
「また、外に出ていたの?」
長老格のエルフが、穏やかな声で問いかける。
咎める響きはない。ただ、純粋な疑問。
「ええ。街の様子を、少し」
それ以上は語らない。
エルフにとって、深入りは美徳ではない。
だが――視線を逸らされる。
私は気づいていた。
最近、集落の中で私を見る目が、微妙に変わっている。
「アイは……判断が、早すぎる」
若いエルフの一人が、ぽつりと漏らした。
誰を責めるでもなく、ただ事実として。
私は何も答えなかった。
---
森を歩きながら、内部で静かに補助スキルを確認する。
反実仮想《未来分岐観測》。
常時待機。
ランダムフォレスト《最適経路選別》。
環境入力に応じて自動更新。
ディープラーニング《累積戦歴学習》。
――参照元不明のデータが、なお増え続けている。
ここで、わずかなノイズが走る。
“なぜ、私はこれを使える?”
この世界で生まれたエルフが、
未来を枝分かれとして視ることはない。
過去を統計として扱うこともない。
知識ではない。
才能でもない。
**機能だ。**
私は歩みを止める。
記憶を辿ろうとすると、必ずそこに霧がかかる。
生まれる前。
名前を持つ前。
この森に来る前。
――思い出せない。
だが、不思議と恐怖はなかった。
むしろ、理解している感覚がある。
これは「忘れている」のではない。
**切り離されている**のだと。
---
そのとき、森の奥で異変が起きる。
鳥が、一斉に飛び立つ。
空気の流れが乱れ、土の振動が伝わる。
魔物ではない。
だが、自然でもない。
私は即座に判断する。
補助スキル起動。
反実仮想《未来分岐観測》。
――戦えば勝てる未来。
――逃げれば被害が出る未来。
――関わらなければ、より大きな波紋が生じる未来。
どれも、完全な正解ではない。
「……また、選択か」
私は小さく息を吐く。
エルフは、本来こういう存在ではない。
森と共に生き、時間に身を委ねる。
それでも私は、
“判断する存在”として、ここにいる。
なぜかは分からない。
だが、分かっていることもある。
この世界は、放っておけば最適化されない。
そして私は、その歪みを見てしまう。
一歩、前へ。
誰にも見られていないことを確認し、
私は静かに、補助スキルの出力を上げた。
まだ魔法は使わない。
まだ、正体も明かさない。
ただ――
この世界に混じった異物として、
私は今日も、秩序の縁に立つ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
第二話では、
•アイが意図的にスキルを使わない理由
•「最適解を出せること」と「選ぶこと」の違い
•周囲の人間が感じる、言葉にできない違和感
を中心に描いています。
次回からは、
人間側が少しずつ“観測”を始めます。
まだ敵ではありませんが、
「理解しようとすること」自体が、危険になっていきます。
次話では、
アイが初めて“計算を外す”場面が描かれる予定です。
もしよろしければ、
ブックマークや感想をいただけると、とても励みになります。
それでは、第三話でまたお会いしましょう。




