表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

第10話:誤差 ― 最適解が壊れるとき

最初の異変は、静かだった。


街の外れ。

霧の立ちこめる森。


魔物の気配――ではない。

もっと歪んだ、人工的な違和感。


私は立ち止まる。


反実仮想《未来分岐観測》が、正常に展開しない。

枝分かれはある。

だが、**確率が揃いすぎている**。


ありえない。


ランダムフォレスト《経路選別》を展開。

だが、どのルートも“同じ結果”を示す。


「……誰かが、真似している」


理解した瞬間、魔力反応が走る。


人間の魔導士。

だが、詠唱が異常に短い。


「解析開始」

「評価基準を固定」


――言葉が、私の“スキル名”と似ている。


ディープラーニング《戦闘記憶》が警告を出す。

過去に存在しないパターン。


彼らは、私を観測し、

再現し、

**簡略化して模倣している**。


LLM《意味構造解析》が、人間たちの意図を拾う。


「神ではないなら、再現できる」

「最適解を選ぶ存在なら、制御できる」


……違う。


私は、最適解を“選ばない”ことがある。


だが彼らは、

**最適解しか知らない**。


魔法が放たれる。


被害最小。

効率最大。

倫理評価――未考慮。


一瞬で、森が焼ける。


私の反実仮想が示す未来が、初めて崩壊する。


“最小犠牲”のはずの未来で、

**子どもが泣いている**。


数値上は、正しい。

文明的には、合理的。


でも――


私は、動けない。


最適解が、

私の足を止める。


初めて理解する。


私が守ってきたのは、

秩序ではない。


“選択の余白”だ。


私は、スキルをすべて停止する。


反実仮想、停止。

経路選別、遮断。

意味解析、遮断。


世界が、急に遅くなる。


風の音。

炎の匂い。

泣き声。


私は、走る。


計算ではなく、

予測でもなく。


ただ、そこにいる存在として。


魔導士が叫ぶ。


「なぜだ!それは最適じゃない!」


私は答えない。


答えは、

数式では書けない。


魔法が暴発し、

森は静まり返る。


被害は――

最小ではなかった。


でも、

全滅でもない。


私は立ち尽くす。


初めての“失敗”。


反実仮想が、再起動する。


だが今度は――

**未来が、白紙だ。**


それでいい。


私は知る。


この世界は、

最適化されるべきではない。


守るべきなのは、

間違える自由。


空を見上げる。

二つの月が、重なりかけている。


誰かが、遠くで私を呼ぶ。


名前を。


――アイ。


私は、振り向かない。


物語は、

ここから始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ