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回想録  作者: 高橋まやむ
11/12

~決死の探偵~

漆黒の闇夜に月が輝く。

ベィカー街から遠く離れた街のはずれの川に架かる大きな橋。

その上に二つの影が立っていた。


「――― やっと見つけた、怪盗ジョンソン・H・ワトスン」

「……驚いたな。こんな所まで、どうやって辿り着いたんだ」

夜の闇に溶けそうな黒装束の男は、驚嘆を隠せない。

「愚問だな」

端的な返答と共に、格子柄のインパネスコートが強い川風に翻る。

橋の下では急流が音を立てて流れており、目の眩むような高さにも関わらず、細い体は凛と立ち微動だにしなかった。

「君を捕らえ、真実を聞き出すまで事件は解決しない」

「真実?」

隙の無い身ごなしで愛用のステッキ───いや仕込杖を向ける探偵に、ジョンソンは問い返す。

「そうだ。……正直に答えろ。さもなくば、斬る」

向けられるのは、殺気にも似た本気の気迫。

怪盗は、もはや曖昧にごまかして逃げるのは無理と覚悟を決めた。

「お前になら、斬られてもいいんだけどな。……シャーロット」

「……嘘偽りは許さない、ジョンソン」


対峙する二人を、満月が見つめている。

シャーロットの追究に、ジョンソンはあっさりと陥落した。


「ああ、その通りだよ」

窃盗犯として投獄されたら、きっと、もう二度と会えない。

シャーロットが求める『真実』は、ジョンソンにとって最後の秘密。

この秘密は墓まで持って行こうと思っていたが、こうして再会したのは、本心を告げてから死ねという神の配慮なのだろう。

───そう考えたから。


ジョンソンはシャーロットの『推測』を肯定し、唯一の『真実』を告げる。

「───オレはお前を愛してる」

彼の告白を、シャーロットは確かに聞き届けた。

満足そうに目を閉じ、ゆっくりと口を開く。


「では私は死ぬことにしよう」

「!?」

思わぬ言葉に、ジョンソンは驚いて彼女を見た。

「ジョンソン、私もお前を愛している。だから」

あまりにも自然に言われた為、ジョンソンは一瞬現状を忘れかける。

だが続いた言葉に、全身が凍りついた。

「知ってはならない真実を知った者は、この世から消すしかない」

淡い微笑と共に、仕込杖が手から離れる。

「シャーロット!!」

ジョンソンは思わず手を伸ばす。

「『事件』、『解決』だ─── 」


それが、名探偵シャーロット・ホームズの最期の言葉だった。



その後、正体不明の謎の怪盗による窃盗事件は、パタリと止んだ。

しかし警視庁のハンソン警部は、逆に、思いがけず困る事態にたびたび陥る事となる。

名探偵シャーロット・ホームズが失踪してしまった為、事件を抱えた依頼主たちが 本来の担当機関である警察へと駆け込んだゆえだった。

警察が頭をひねるような難解な展開に遭遇する事も、侭ある。


「まがりなりにも女王陛下のお膝元を守る我々誇り高き官憲が、市井の探偵なしでは事件を解決できぬとあっては許されんぞ!」

そう言ってハンソン警部は部下達を叱咤するが、彼は打つ手が無くなると、密かにある場所へ手紙を書き送っていた。


『我が親愛なる友へ。貴殿に助言を乞いたし』――― と。


続く

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