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届かなかった名前を、今、呼ぶ  作者: 朧月 華


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第81話 影の報いの連鎖:届いた愛の残像

朝の光が、私の部屋のカーテン越しに柔らかく差し込む。隣には、まだ眠そうな星野 翔の顔があった。七年間、ただ遠くから見つめていた彼が、こんなにも近くにいる――その現実に、胸の奥が甘く震えた。


「……おはよう、遥」

かすかに伸びをしながら、彼は寝ぼけた声で呟く。私は微笑みを返すと、そっと手を伸ばして、彼の頬に触れた。


「おはよう、翔」

彼の目がゆっくりと開き、私の視線を捕らえる。指先に伝わる温かさ、体温、鼓動――七年間、遠くで想い続けていたすべての時間が、この瞬間に溶け込むようだった。


ベッドの中で軽く身体を寄せ合い、手を絡ませる。彼の指が私の指を丁寧に絡めるたびに、胸の奥で溶けかけていた七年間の距離が、確実に消えていくのを感じる。


「……愛してる」

その言葉は、小さく、でも確かに私の耳に届いた。私は目を見開き、鼓動が跳ねるのを感じた。


「私も……愛してる、翔」

ようやく素直に言えた。彼の支配も、私の距離も、今はもう必要ない。ただ、互いの愛が、二人を包むだけだった。


日中は大学周辺のカフェへ出かけた。人混みの中でも、星野 翔は私の手を離さない。少しだけ他の男子学生に視線を送る私に、彼は無言で眉をひそめるが、すぐに微笑に変わる。嫉妬心はあるけれど、私を信じ、私の自由を尊重しようとしている。その矛盾した愛の形に、私は心の奥で胸を温められた。


「今日は、美奈と会うの?」

「うん、ちょっと相談があるって」

「ふーん……じゃあ、僕も一緒に行こうか」

彼の言葉に、私は笑った。少し強引だけど、心地よい安心感がそこにはある。星野 翔の支配欲は、もう焦燥に変わっただけだ。私の安定した愛が、彼の激情を柔らかく包み込んでいた。


カフェの小さなテーブルで並んで座る。私はノートを広げ、彼に新しく始めた趣味の話をする。星野 翔は興味津々で、時折突っ込みを入れたり、笑ったりする。手を触れ合う瞬間もあり、そのたびに私たちは自然と顔を近づけ、目を合わせて笑う。


「遥……本当に楽しそうだな」

彼の指先が、私の手首に軽く触れる。その感触が、私の心に確かな温度を残す。

「翔と一緒にいると、何をしても楽しいよ」

私はそう答え、彼の手を握り返す。


夕方になり、大学のキャンパスを歩く。日差しが傾き、木漏れ日が二人を優しく包む。私は星野 翔の腕にそっと身体を預ける。彼の香り、体温、そして時折見せる穏やかな表情――七年間の想いが、この瞬間で完全に報われた。


「……七年間、遠くから見ていたんだな」

彼は小さく笑いながら、私の髪をそっと撫でる。

「うん……でも、今はこうして一緒にいられる」

私は目を細め、彼の胸に顔を埋める。鼓動が私の心を静かに揺らす。


公園のベンチに座り、手を絡め、互いの顔を見つめる。彼の唇が私の額に触れ、次に頬に、そしてついに唇が重なる。七年間の距離が、熱く、静かに溶けていく。


「遥……俺には、お前が必要だ」

彼の声が、真剣で、少しの弱さを含んでいる。私は目を閉じ、胸に彼を感じる。


「私も翔が必要……」

互いに抱きしめ合い、言葉よりも深い感情を伝え合う。孤独だった影の時間は終わり、二人の愛が光の中で結実した瞬間だった。


夜、部屋に戻ると、私たちはベッドに並んで座る。星野 翔の手を握り、今日の出来事を語り合う。彼は時折小さく笑い、嫉妬や焦燥の名残を見せるが、それもまた愛の証として私の心に溶け込む。


「私たち……やっと、こうして愛し合えるね」

「うん……遥がそばにいてくれるなら、何も怖くない」

その言葉に、私は胸が熱くなる。私たちの愛は、もう一方的な想いではない。互いに必要とし、互いを支える、平等な愛になったのだ。


私は心の中で静かに呟く。

_私は、彼を支配する愛を捨てた。今、彼は私を支配する愛を捨てた。私たちは、愛し合っている_


孤独な影の時間は、光に包まれた幸福の中で溶けていった。七年間の距離、焦燥、そして片想いの痛みは、今や確かな愛の残像として、私たちを温かく抱きしめている。


彼の指が触れるたび、私は感じる――七年間の距離が、溶けていったことを。

彼の「愛してる」が、世界で一番甘い真実であることを。

そして私は、彼の支配を拒否した。今、私たちは、愛によって支配されている。


窓の外に沈む夕陽が、二人の影を柔らかく長く伸ばす。その光の中で、私たちは互いに抱き合い、七年間の孤独を終わらせた。孤独な影の愛が、光の中で抱きしめられた瞬間だった。


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