第47話 影の報いの連鎖:届いた愛の残像
影の報いの連鎖:届いた愛の残像
深夜、部屋は静まり返っていた。
カーテン越しに月明かりが差し込み、デスクの上のスマホだけが微かに光っている。私の指は、自然とその光を追いかけ、画面を開いた。
——翔からのLine。
日常のやり取りの中で交わしていたスタンプや軽いメッセージとは違い、そこには言葉の重みがあった。
「今日の試合、うまくいかなかった……肩も少し痛い。自分が情けない」
短い一行に、彼の苦悩がぎゅっと凝縮されている。画面の光が、深夜の暗闇の中で一層冷たく、鋭く私の胸に刺さる。
——深夜のLine。それは、彼の心の非常ベルだった。
私は深く息を吸い、指先を震わせながらも文字を打つ。焦る心を抑え、冷静に、でも心の奥底からの言葉を選んでいく。
「翔くん、まずは深呼吸して。試合の結果は、あなたの価値を決めない。肩の痛みは無理しないで。大事な体だから」
私の言葉は、画面越しに届く彼の存在に重なる。彼が私を選んで、弱さを打ち明けたという事実。公の場でも、仲間の前でもなく、私——影の私にだけ見せるその姿に、言葉にできない信頼を感じる。
「本当に、ありがとう……遥だけが、こうやって理解してくれる」
画面に現れたそのメッセージを見て、胸が熱くなる。彼の光の英雄の仮面が、私の前だけでそっと外される瞬間だった。
——私は、彼を救えるかもしれない。彼の光を、もう一度照らす、影の力になれる。
手元のキーボードを打つ指先に集中しながら、私は彼の心の奥に届く言葉を考える。否定も励ましも、押し付けではなく、彼が自分で立ち上がる力を取り戻せるように。
「翔くん、あなたは一人じゃないよ。無理に笑う必要もない。私がここにいる」
送信ボタンを押した瞬間、私の心に小さな震えが走る。責任感、使命感、そしてこれまでの罪悪感が一瞬にして置き換わった。悠斗との過去の影は、この瞬間、影を潜める。彼を必要とされる喜びが、私を包み込む。
「わかった……ありがとう、遥。君に話せてよかった」
彼の返事は短いが、その重みが私の胸に深く刻まれる。
私は自分の心に問いかける。
——私は、本当に彼を支えられるだろうか。
画面越しの彼の文字を何度も読み返す。試合の不調、身体の痛み、将来への焦り——そのすべてを吐き出してくれるのは、私だけだ。私は、その一文字一文字を拾い上げ、光に変える責任がある。
「翔くん、今日だけじゃない。これからも、私に話して。君の影も光も、全部受け止める」
指先から伝わる温もりは、画面の冷たい光と対照的に、私の心を熱く満たす。孤独な戦いではなく、共に進む力がここにある——そう確信する瞬間だった。
——私は、彼の弱さを知る唯一の存在。それが、私だけの特権だった。
スマホを抱えながら、私は深呼吸を繰り返す。窓の外には夜の静寂が広がり、星の光が瞬く。遠くの光ではなく、目の前の温かさ——翔が私に打ち明けた弱さこそが、私の心を震わせる光になった。
「私が求めたのは、彼の光ではない。彼の影だった」
そう呟きながら、私は次のメッセージを打ち始める。長くも、短くもなく、正確に、彼に寄り添う言葉を。
画面越しに繋がる私たちの絆は、もはや単なる「片想い」ではない。私が陰から見守るだけの存在ではなく、彼の心に触れ、支え、共に進む力。
夜が深まる中、送信ボタンを押す指先に、確かな使命感と幸福が流れ込む。深夜の静寂は、私の心の中の波紋を増幅させる。
——翔の心に届くなら、それでいい。私の影が、彼の光を支えるなら、それでいい。
スマホの画面に浮かぶ文字列をじっと見つめながら、私は静かに微笑む。
——この夜、私は初めて、自分が「影の愛」を正面から力に変えられることを知った。




