表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
届かなかった名前を、今、呼ぶ  作者: 朧月 華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/60

第43話 変化の目撃者:遠い光の視線

合同交流会の会場は、ざわめきと光に満ちていた。ガラス張りの窓から差し込む昼下がりの光が、色とりどりの人々の髪や服に反射し、空間全体を温かく包む。私は、整えた髪、薄く引いたアイライン、そして自分に似合う服に身を包み、軽やかに笑顔を作っていた。胸の奥には静かな自信があり、悠斗との決別、美奈との努力の成果が、私を支えてくれている。


 「遥?」


 ふと耳に届いた声に、私は一瞬、心臓が跳ねる。振り返ると、そこにいたのは——星野翔。高校時代の、私にとって遠くて、近くて、眩しかったあの光。


 彼は会場の喧騒の中で、私を見つめる。最初の一瞬、目を大きく見開き、驚きを隠せない様子だった。私は予想していた——彼は私を認識できないかもしれない、と。だが、その予想は、すぐに覆された。


 翔は足を止め、迷うことなく、私の方へ歩み寄る。胸の奥に、緊張と高揚が混ざる。心の中で何度も反芻してきた「遠い光」の再会が、ついに現実のものとなった瞬間だった。


 「……遥、変わったな」

 彼の声は低く、しかし確かな温度を帯びていた。その視線は、かつて私が腕章をつけて放送室で彼を見つめていたときとはまるで異なり——放送部の春日遥ではなく、一人の魅力的な女性として私を捉えていた。


 「……そうですか?」

 私はわずかに微笑み、落ち着いた声で返す。心臓は高鳴っているが、表面は平静を装う。三ヶ月間、美奈とともに作り上げてきた「新しい自分」が、ここで初めて直接、認められる瞬間だった。


 翔の視線は私の顔に留まる。髪の色、服のライン、目の輝き——すべてに彼の注意が注がれているのがわかる。私は、自分の胸の中で静かに喜ぶ。七年間の片想いは、三ヶ月の努力によって、初めて現実の光を得たのだ。


 「その……大学での生活は、どうだ?」

 彼は慎重に言葉を選ぶように、しかし確かに私に向き合う。高校の頃の無邪気な笑みや、少年のような好奇心とは違う、成熟した男性としての探索の視線。


 「順調です。美奈ちゃんに付き合ってもらって、いろいろ勉強してます」

 私の言葉に、翔は微かに頷き、興味深そうに目を細める。その視線の奥には、尊敬と驚きが混ざっている。放送部で過ごした日々、手紙や遠くから見つめた思い——それらすべてが、この一瞬に結晶化しているようだった。


 ふと目の端に、佐倉明里の姿が視界に入る。高校時代と同じく、翔の周りには人々が集まり、明里も含まれている。しかし、その存在は一瞬で薄れた。翔の注意は、今や私に集中している。私は内心で、静かな達成感と高揚を感じる。


 「遥……そのメイク、服、似合ってるな」

 彼は率直に褒める。その言葉が、私にとって三ヶ月間の努力の証となる。偽りの光ではなく、自ら選び、作り上げた光——それが、彼に認識された瞬間だった。


 私は静かに微笑み返す。胸の奥には、かつての罪悪感も微かに残る。悠斗への拒絶、彼の優しさを傷つけたこと——しかし今、私はこの瞬間を、純粋に喜ぶ権利を持っている。


 「もう、無理じゃない」

 心の中で呟く新しい呪文。過去の影、悠斗との罪悪感を振り切り、私は完全に「新しい自分」として翔の前に立っている。


 翔の瞳が、私の変化を捉える。以前は見えなかった光——女性としての自立した光。私の努力が、彼の視線の中で形になった瞬間だった。


 「……遥、大学で会えるとは思わなかった」

 彼の声に、わずかに驚きと喜びが混ざる。私は微笑みながら答える。


 「偶然、ですね。でも、嬉しいです」


 喧騒の中で、二人だけの世界が静かに広がる。会場の明かりや人々のざわめきは、まるで背景の絵のように薄れ、私たちの間には、静かで強い光が差し込む。


 私は心の中で噛み締める。三ヶ月間の努力、美奈の助言、悠斗との決別——すべてが、この光のためにあったのだ、と。


 「私は、もう『影』ではない」

 そう呟きながら、私は胸を張る。翔の光が、今度は私を照らし始めている。彼の瞳のわずかな動き、眉の上がり、口元の柔らかな微笑——それらすべてが、私の自我を肯定する証となる。


 ——私は、ここに立つ権利を持っている。もう彼に謝る必要はない。


 会話の最後、翔はにっこりと笑い、私を軽く見渡す。明里の存在も、周囲の人々も、一時的に遠い景色のように感じられる。私たちの間にあるのは、ただ、変化を目撃した彼の視線と、努力の証としての私の自信だけだった。


 この瞬間、私は心の底から喜ぶ。過去の自分を脱ぎ捨て、新しい光をまとった自分が、遠い光に認識された——それが、三ヶ月間の戦いの、最も美しい報いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ