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届かなかった名前を、今、呼ぶ  作者: 朧月 華


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第42話 安堵という名の拒絶:悠斗の告白

夜の並木道は、大学キャンパスから離れた静かな場所に続いていた。街灯の柔らかな光が、揺れる葉の影を地面に描き出す。足元の落ち葉を踏む音が、私の心臓の鼓動と同調するようだった。


 「遥、少し歩かないか?」

 悠斗の声は低く、しかし確かな温度を帯びていた。その声を聞いた瞬間、私は無意識に理解した——この夜は、告白の夜になる、と。


 私の心は微かに緊張しつつも、冷静だった。三ヶ月間の努力、大学での変化、そして遠い光——Kakeruへの忠誠。すべてが、この瞬間の決断に備えて私を鍛えていた。


 並木道をゆっくり歩く。悠斗は私の隣を一定の距離で歩き、言葉はまだ少ない。街灯に照らされた彼の横顔は、相変わらず穏やかで、しかしどこか重みを帯びている。


 「……遥、俺は、君にずっと伝えたいことがある」

 その一言で、私の心は一瞬、静かな嵐に包まれた。覚悟していたとはいえ、彼の告白の予感は、胸の奥をざわつかせる。


 彼は立ち止まり、私の目をまっすぐに見つめる。暗闇に浮かぶ瞳には、愛と独占欲、そして切なさが混ざり合っていた。


 「遥……君が変わったのは、俺のためじゃない。それでも、俺は……」

 言葉を途切れさせ、悠斗は深呼吸を一つする。夜風に揺れる髪の一本一本が、彼の緊張と優しさを映している。


 「俺は、君を愛してる。全ての俺の想いを、君に」

 それは真摯な告白だった。彼の言葉は、私の心を縛る鎖のように優しく、しかし確実に重みを持って差し出される。冷たい缶コーヒーのような、安心と安堵の愛。


 ——私はその愛を知っている。彼の優しさに、何度も救われた。崩れかけた私を、静かに支えてくれた。


 しかし、今の私の心は、もうその愛だけでは満たされない。私の魂は生き返り、遠い光——Kakeruへの想いを、まだ求めていた。


 「悠斗くん……ごめんなさい」

 私は言葉を選ばず、曖昧さを避けて、はっきりと告げる。悠斗の瞳が一瞬、揺れた。


 「私は……あなたの愛を、受け入れられない」

 その瞬間、並木道の静寂が、私の拒絶を包み込む。拒絶することが、私にとっての安堵であり、同時に悠斗には深い痛みをもたらす。罪悪感が胸に重くのしかかる。


 ——安堵という名の拒絶。私は、彼を傷つけることで、自分を解放した。


 悠斗は、一歩だけ私に近づく。手を伸ばそうとするが、私はそっと後退する。その距離の感覚が、私たちの立場を象徴していた。


 「でも……君が本当に幸せになるまで、俺は……待つよ」

 彼は言葉を落とす。悲しみは押し殺されているが、その目は私の決意を認め、尊重していた。静かな夜の中で、彼の存在は確かに、しかし遠くに残る。


 私は深く息を吸い、心を落ち着ける。遠い光——Kakeruの存在が、私の心を照らす道標になる。悠斗の愛は確かに温かいけれど、今の私には、熱を求める魂の方が必要だった。


 「悠斗くん……ありがとう」

 私は小さく微笑む。その笑顔は、決して演技ではなく、私自身の意思を伴ったものだ。彼の優しさに感謝しつつも、私の心はもう別の光を見据えている。


 並木道に吹く夜風が、私の髪を揺らす。窓のない空の下、私の決意は揺るがない。悠斗の瞳が語る悲しみと愛を、私は静かに受け止める。


 ——悠斗くんの優しさは、私を生き返らせた。でも、私は生き返った魂で、別の誰かを愛したい。


 その言葉を、心の奥で何度も反芻する。残酷かもしれない。しかし、私の魂にとっての真実は、遠い光の方にしか向かえないのだ。


 悠斗は私を見つめ、静かに頷く。無言のまま、彼はその場を離れ、私の進むべき未来を尊重する。背中に残るその視線が、最後の鎖をそっと置いていくようだった。


 私は立ち尽くす。胸に渦巻く罪悪感と、同時に湧き上がる安堵。夜空に瞬く星の光が、私の心に落ち、遠い光を導く。


 ——もう、無理じゃない。


 心の中で新たな呪文を唱える。悠斗への愛を捨てるわけではない。彼の優しさは永遠の支えだ。しかし、私の進む道は、遠い光の方へ向かっている。


 並木道の先、夜風が桜の花びらを運ぶ。私の足は、静かに、しかし確実に前へ進む。安堵という名の拒絶を胸に抱きながら、新しい自分の歩幅で、私は未来へと踏み出した。

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