8話「お目覚め」
ページを開いて頂きありがとうございます。
あじたにと申します。
温かい目で見守って頂ければと思います。
「……あれ…私…」
「おっ、目が覚めたね。大丈夫?痛むところはない?」
アリアが目を覚ました少女に優しく声をかける。
その天使が家に運び込まれてからは少なくとも二時間が経過していた。
エルは意識が徐々にハッキリしていく中、声のする方へと目を動かす。
「貴女は…吸血鬼…!?」
自身が気を失う前に対峙した黒い吸血鬼、エルの目の前にはそれと同じ特徴を持った者が居たため驚くのも当然だろう。
天使の少女は飛び起き警戒の意を見せた。
「落ち着いて、吸血鬼だけどアレとは違うよ。私はアリア、湊音くんの同居人だよ」
その事を察してからアリアはなだめるように自己紹介をする。
「同居…?」
それに対し天使の少女はまじまじとアリアの容姿を確認する。
透き通るような白い髪に見るも美しい真紅の双眸、流石の辛口のエルでも美人であると評価せざる負えない容姿だった。
この吸血鬼が湊音と同じ屋根の下生活している事にエルは困惑の色を隠しきれていない。
「悪い吸血鬼なら私がおっぱらったから大丈夫」
「私は助けて貰ったんですね…ありがとうございます」
普段の彼女からは想像出来ないほどにかしこまった態度を見せる。
当然と言えば当然だ。なにしろ命の危機を救ってもらったのだから、相応の態度を示さねばならない。
目線を落とし、包帯で処置されている自身の体をようやく認識した。
やはり自分は助けてもらい、更には手当までして貰ったのだと再認識する。
「お礼を言うのはこっちの方だよ。湊音くんを守ってくれてありがとう」
あの時にエルがいなければ湊音は吸血鬼の餌にされていたかもしれない。
アリアの助けが間に合ったのはエルのお陰だったりするのだ。
「いえ…結局はやられてしまったので…」
「ところで君は湊音くんの事をどう思ってるのかな?」
自身の敗北に落ち込む少女を横目にアリアはそんな事を突然ぶっ込んだ。
「……はい?」
それに対して少女は当然、困惑した。
「いやね?湊音くんは君をただのクラスメイトだと言っていたけれど、可愛くて良い子だからね。君があの子に惚れていても無理はないと思うんだ。でもごめんね…あの子には私が認めた女の子としかお付き合いさせないって決めてるんだ。でも君がどうしてもと言うなら話くらい聞いてあげても良いんたけどどうかな?」
あろう事かアリアは、天使少女が湊音に惚れているなどとあり得ない勘違いをしていた。
それは普段からの湊音への過剰なまでの愛情深さが客観的評価を狂わせているのだが、本人がその事に気づくはずもなく。
「はぁ…?何馬鹿な事言ってるんですか」
勘違い吸血鬼の幻想をバッサリと切り捨てる。
もちろん、エルが湊音という男に好意を寄せている事実は一切無い。
「…え、湊音くんの事好きじゃないの?」
吸血鬼は心底驚いた。
ましてや自身の愛する湊音という男の子に微塵も好意を寄せていない事に驚嘆すらしている。
「はい」
アリアの夢を覚ますように冷たく言い放つ。
「命かけて守っておきながら??」
「微塵も無いです」
「ばかな…そんな訳……」
「さっきから何なんですか…?」
「や…ごめん。あまりにあり得ない事が起きてて混乱してしまって…」
「あり得ないのは貴女の頭では?」
「そんな言う!?一応命の恩人なんだぞぉう!」
アリアの突拍子のない話を相手にしていると、エルはいつのまにか思った事をそのまま口に出す普段の調子を取り戻しつつあった。
そうしているうちに、心地のいい匂いが両者の鼻腔をくすぐった。
「そうだ…今ね、湊音くんが夕飯の準備をしてて、君の分も用意してるんだけど…食べてかない?」
「……すみません、いただきます」
エルとしても自身のために料理を作って貰ったのだから、それをむげにするわけにはいかない。そう思い了承した。
「湊音くんの料理は絶品!世界でも指折りの料理人なんだから!!」
無論これは度を超えた過大評価なのだが、アリア本人は本当にそう考えているの。
「……あぁ…はい」
この吸血鬼の頭の中にはお花畑が広がっていると言う事を、エルはこの瞬間に悟ったのだった。
ーーーーー
「目が覚めたんだね…!良かったぁ…」
夕飯の準備をしていると、二階から二人が降りてきた。
エルの足取りはまだ少し頼りないけれど、基本的には大事無いようだったので僕は心底安心した。
「ごめんなさい、私の判断ミスで危険に晒してしまった。あの場は逃げるべきだった」
彼女の第一声は謝罪だった。
「や、そんな…僕は守って貰った立場な訳で…」
エルがいなければ僕は今頃どうなっていたかはわからない。
となれば彼女が僕に謝罪する必要性は薄いように思える。
しかし、そこはエルという天使の性格なのだろう。相手の吸血鬼を打倒出来る、そう思い勝負を仕掛けたのにも関わらずの大敗。
彼女は目測を見誤った事になり、そのせいで僕を危険に晒してしまった…つまりは自身の責任であると考えているのだろう。
「そうだよ〜?そもそも吸血鬼相手に逃げれたとは思えないし」
その様子を察してかアリアさんはフォローに入る。
事実、その意見は正しい気がする。圧倒的強者である吸血鬼相手に背を向けるのは握手だったと思う。
「そう言って貰えると気持ちが幾分か楽になるわ。ありがとう」
というか塩らしいエルが新鮮だ。
普段の彼女からはあまり想像出来ない様子で僕も少々戸惑ってしまう。
普段の塩対応も、現在の素直な態度も全て彼女なりに筋を通している結果なのだろう。
「とりあえずさ…!せっかくご飯作ったから良かったら食べて行ってよ!」
「いただくわ。どうやら世界でも指折りの料理人らしいから、楽しみにしているわね」
なにやら不気味な笑みを見せる。
というかなにそれ!僕レシピ通りに作るのがやっとの腕前なんだけどぉ…!?
「なにどこの情報それ」
「無論私だ」
過大評価吸血鬼が腕組みしながらドヤ顔で言い放つ。
ダメだこの吸血鬼…
「勘弁してくださいよ…」
そのやり取りを聞いてエルはなんだか楽しそうに笑みを溢していた。
こんな風に笑顔な彼女を見たのは初めてで、なんだかとっても嬉しい気持ちになった。
お付き合い頂きありがとうございました。
少しでも楽しめましたでしょうか。
今後の糧になります。感想、評価等よろしくお願いします。




