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5話「非日常へ」

ページを開いて頂きありがとうございます。

あじたにと申します。

温かい目で見守って頂ければと思います。

 時刻は放課後。六限まである授業が終了した後の下校時間、この日当番だったので残って教室を掃除している時だった。


 担任の先生が顔を出しこんな事を言った。


「すまん、この後二人ほど残ってくれ無いか。明日配るプリントが少々多くてな、手伝って欲しい」


 進級してからまだ日が浅い事と、五月に入ったばかりの月初めという事で保護者への連絡事項や学級計画など、その他多くのプリントが溜まっているそうだ。


 説明を終えた先生は「掃除が終わり次第頼む」と言い残し教室を後にした。


 そこからが少し大変だった。


「で、誰が行く?」


 一緒に掃除をしていた男の子が言った。


 今日の掃除当番は僕とエルを含んだ6人で男女比は丁度半分づつ。


 この中から先生の雑用に駆り出す為の二人を選定しなければならない。


「プリント沢山あるって言ってたよね?なら男子が行った方がいいんじゃない?」


 一人の女の子がそう言い放つと、これが損な役の押し付け合いの開始音となった。


 そもそも掃除当番ですらわざわざ放課後に残ってやりたくも無い清掃を強制されているのだ。当然、誰も追加の雑用などやりたくない。


「男女は別に関係なくね?」


 男の子は反論する。


 それからは言いたい放題、決着の付かない水掛け論が続く。


 ある者は用事をでっち上げ、ある者は異様に早い門限を盾にする。風邪気味であると主張する人もいた。


 あぁ、嫌だ。頭が揺さぶられ、頭痛すらも感じる。


 この時僕とエルはその話を聞きながらも掃除の手を動かしていた。


 エルは少し呆れたような表情を作っていたけれど、誰も気付いていなかった。


「あ、この後予定無いし行くよ」


 僕は話に割って入り、そう宣言した。


 本当は早く帰りたい。一刻も早くこの場から離れたい。アリアさんに会いたい。


 しかし、このままではこの場はもっと荒れてしまう可能性がある。


 なら、僕が請け負ってしまおう。そもそも大したことの無い雑用だ。


 この時にエルが僕の事をジッと見つめていた事には気付かなかった。


「えっなら私、やってもいいかな…?湊音くん一人だと可哀想だしね」


 近くの女の子がそんな事を言い出した。


「あ、本当に?ありがとう」


 そうお礼を言おうとした時だった。


「いいよ、私が行く」


 綺麗な金髪に奥行きのある青い瞳を持った少女が薄暗い教室で声を震わせた。


 なんとも無機質で温度の低い声だった。


「え〜?でもエルちゃんに悪いよぉ…!」


 言われた女の子はほんの少し、わからない程度に一瞬固まったがすぐに笑顔を作り直し妙に高い声で言った。


「いやアンタ、この後塾なんでしょ。自分の発言も覚えてないわけ?バカなんじゃない」


「ちょっ……」


 今まで黙っていたと思ったら突然そんな事を強い語気で言い放つものだから驚いた。


 しかしその目は真っ直ぐと女の子を見据えている。


 どうにも軽蔑の眼差しにも見える。


「どうしたの…?なんか怖いよ…」


 女の子は平静を装っているがかなり動揺している。口は動かしているが目線は下に落ち、何故か掃除を再開し始めた。


 別に意に介してないですよ?と苦し紛れの主張が聞こえてくるようだ。


「どうしたのはこっちのセリフ。塾はどうしたのかって聞いてるのだけど?」


「……別に、まだ時間あるし」


「さっき帰ってすぐ行かなきゃ〜!とか言ってたね。お墓掘るの楽しい?」


 もう止まらない。エルという人物がこんなに多くの言葉を発しているのを初めて見た。


 天使を自称しているのにその行動はあまりにも天使とかけ離れているのではなかろうか。


 思わぬ言葉で殴られた女の子は今にも泣いてしまいそうな半べそ状態。女の子以外は皆んな気まずそうに掃除へと戻っている。


 この間にもエルは女の子を真っ直ぐ見つめ一切の間も無く問い詰め続けていた。


「先生のお手伝いは僕とエルちゃんが行くよ!ね?それでいいよねみんな!」


 僕は堪らず言った。


 おそらくエルに何を言っても止まらないだろうし、女の子も意気消沈といったところだ。


 ならば周りの同意を求めて多数の総意という事にしてこの場を流そうと思った。


「そうだな、こう言ってるんだしやって貰おうぜ」


 一人が賛同し、周りは乗っかるようにてその場はまとまった。


「なら私帰るね」


 すんでのところで涙を堪えていた女の子は早々に帰ろうと鞄を持ち荷物をまとめる。


 ちなみにまだ掃除は最後まで終わっていないため、本来なら良い行動とは言えない。


「うん、また明日ね」


 それに対しエルは何か言いたそうにしていたが、僕のその一言で静止した。


 ため息が聞こえてきた気がするが気のせいだろう。



ーーーーー


「いつもあんな感じなの?」


 掃除と先生からの雑用もこなした時には既に日は沈み空はすっかりと暗くなっている。


 そうしてエルと二人で下校している時だった。


 ()()()()()()()()()()


「え、なにが?」


 あんな感じ…と言われても何のことか心当たりが無い。


「他人の顔色伺いながら気を遣って話したりさ、それのこと」


 心臓を掴まれたかのような感覚を覚えた。


 僕の本質、抗えない業。


 それを一瞬で見透かされてしまった。


「そんな風に見えた…?ごめんね…そんなつもりは無いんだけど不快にさせたかな…」


 この後に及んでまたも無難な返答。


 それを聞いた金髪の少女は短くため息を吐き、次の言葉を発声する。


「理由は知らないけど、私に対しては辞めて、不愉快だから。私に気を遣いたいなら、私に気を遣わないことね」


「…随分ハッキリと言うんだね」


 面と向かって『不愉快』だと言われたのは生まれて初めての経験だった。


 なにしろ僕はその言葉を言われないように会話をしていたのだから当然だろう。


「当たり前じゃない。言いたい事我慢して何になるの?」


 この天使を名乗る少女は自分に素直な性格をしているなと印象を受ける。


 給食の時もそうだが、自分の理念だとか信条をとても大切にしているように見える。


 昨年も同じクラスで一年間学校生活を共にしたがこのような一面を見るのは初めてだ。


「凄いね。僕はあまりそういう風には出来ないや…」


「どうして?」


「どうしてって…そりゃ自分の言いたい事だけ言ってちゃ喧嘩になっちゃうし…」


「したら良いじゃない。その方がよっぽど健全だと思うけどね」


「そ、そうかな…」


「そうよ」


 依然として彼女は堂々とした立ち振る舞いを貫いている。全くのブレが無い。


 しかし、そんなエルという少女に僕は危なっかしさを感じている。


 自身の信条を絶対だと信じる彼女はあまりにも純粋過ぎるのではないかと思ってしまう。


 それでも、その芯の通った物言いに少なからず僕は惹かれた。


「あ、あのさ…!」


 そう、声をかけた時だった。


「下がって」


「え…?」


 エルは前方の空を強く見つめている。


 何僕には何を見ているかすらわからないが、確かに空にある見えない何かを睨んでいる。


「勘づくか。純粋な人間では無いようだな」


 重く低い声が僕たちの鼓膜を震わせる。


 エルが見据えていたであろう視線の先、無数の黒い物体が集まってゆく。


 その小さな黒い物体は物体はコウモリだろうか。それが集まり一つの球へ、やがては人の形へと変貌していく。


 異様な光景だったが、僕はそれをよく知っている。


 それはアリアさんが初めて僕の前に姿を現した時、同じように無数のコウモリが集まり人間の形を形成していく景色をよく覚えている。


 つまりは常識から外れた存在である。


「吸血鬼…!?」


 僕は静かに息を呑んだ。

お付き合い頂きありがとうございました。

少しでも楽しめましたでしょうか。

今後の糧になります。感想、評価等よろしくお願いします。

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