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4話「キスと天使と」

ページを開いて頂きありがとうございます。

あじたにと申します。

温かい目で見守って頂ければと思います。

「私も学校に行く!!」


 アリアさんがそう宣言した次の日、僕達はいつもの様に朝食をとっていた。


 どうしたものか…アリアさんの事だ、本当に学校についてくる可能性がある。


 流石に無いと思いたいが、今までの僕に対しての過保護の様子を見ているとやりかねないと言うのが本心なところだ。


 実際、アリアさんが学校に来てくれたらそりゃあ嬉しい。楽しくなるに違いないが、現実はそう甘くない。


 きっとクラスメイトは驚くだろうし先生達がアリアさんをどのような目で見るか分からないが、とても現実的ではない。


「あのアリアさん、本当に付いてくるんです…?」


「もちろんだよ」


「気持ちは凄く嬉しいんですけど、流石に無理があるんじゃないですか…?」


 そもそもアリアさんは吸血鬼、太陽光が苦手で日中は出歩くことが出来ない。


 もし外に出ようものなら速攻で熱中症になりぶっ倒れるに違いない。


 やはり不可能だ…アリアさんも分かっているだろうに、どう言うつもりでこんなこと言ってるんだろうか。


「ふふん、ちょっとこっちにおいで?」


 そんな心配を他所に手招きされ、近づく。


「はい…?」


「おまじないっと」


 僕の襟元に触れながら、なんと額に優しく口を付けて見せた。


 吸血鬼特有の低体温のせいか少し冷たい。それに加えて首元にも僅かに冷やりとした感覚があったが……


___てぇ………!?!?


「ななななな何を!!?アリアさん!?!?」


 うわぁああああ!!!!ちゅ…ちゅーされちゃった…なんでぇ!?


 アリアさんの美しいお顔と長くて綺麗な白髪だけが視界を占め、それ以外何も目に入らない。


 心臓がどうにかなりそうだ。先ほどから跳ね回って体から飛び出してしまいそうだ。それに変な汗も出てくる。もう完全に混乱状態だ。


「これで今日一日、湊音みなとくんの心は私の物だね…?」


 紅い目がこちらを見据えながらそんな歯が浮く言葉を投げつけてくる。


 学校についてくるってそう言う事なの…!?


 この人が考えている事は到底理解出来ない。と言うかあまりの出来事に思考が追いつかない。


 手を触れたりとか撫でてくれたりと、軽いスキンシップはあったが額にキスなんてされたのは初めてだった。


「ば!馬鹿なんじゃないですか!?急にこんな!!」


「あ…嫌だった……?」


 すーーごい申し訳なさそうな顔をする。


 やめて欲しい、そんな顔をされてしまってはこちらが申し訳なってくる。


 というか嫌な訳ない。断じて嫌では無い。


「別に良いですけど!?」


「それなら良かった」


 すーーごい笑顔!!もしやさっきの顔は演技か…?


 くそう…このままではアリアさんにやられっぱなしだ。何か反撃の手立ては無いだろうか。


 …よし!!


「まったく、責任取ってくれますか……?」


「取らせてくれるんだね、ありがとう」


 手を取り口元まで寄せながら言い放つ。


 負けた。もう完膚なきまでの大敗だ。


 顔が熱い、耳が熱い、もうこの場から尻尾巻いて逃げたい。


 恥を忍んで仕掛けた精一杯の攻撃が逆に反撃を喰らってしまうとは。この吸血鬼、普段は行き過ぎた過保護と世話焼きのお陰で隠れているが、恐ろしく魅惑的な時がある。


 というか僕と出会った時はこれが通常運転だったので僕の心は揺れに揺れまくってた。ぶっちゃけ初恋とか軽く吹っ飛ぶ勢いだ。


「………もう勘弁してくれませんか」


「ちょっとやり過ぎたかな。でもこれで、学校でも私のこと鮮明に思い出せるね」


「ぜっったい思い出しません」


 嘘です。強がりです絶対思い出します。なんなら一日中頭から離れないと思います。


「そっかぁ。ところで湊音くんそろそろ行かないと学校に遅刻しちゃうぞ〜?」


「え!?あっ本当だ!」


 時計を見ると普段なら既に出発している時間だった。

 なんだかいつもより時の流れが早い気がする。


 急いで学校指定の鞄を手に取り出る準備をする。


「いってらっしゃーい!転ばない様に気をつけるんだよー!」


「はい!いってきます!!」


 急いで家を出るが、その挨拶だけは忘れずに交わす。やっぱり心地いい。


 しかし、何故アリアさんは急にあんな事をしたのかが腑に落ちない。


 昨日、学校で考え過ぎてしまう悪癖に気づき、少しでも緩和出来るようにと大胆な行動を取ってくれたのだろうか。流石に考え過ぎかな。


 それにしても首元が少し冷んやりとしているのは突然の事に冷や汗をかいたせいだろうか。


 ひとまずは遅刻しないよう急がなければ。


ーーーーー


 今日も学校での長い一日が始まった。


 特に長く感じるのは授業の間に存在する十分の休み時間とお昼の給食。


 クラスメイト達が一斉に話し出すので、教室は様々な感情が渦巻く闇鍋の様になる。


 逆に授業中はそれほど苦では無い。基本的に私語厳禁なので先生の授業を聞いているだけで良いため気分も幾分かマシなのである。


 しかし、今日という日はいつもと違った。


 朝の光景が授業中だろうが休み時間だろうが頭に浮かんでは消えを繰り返すので何事にも一切集中出来ないでいた。


 襟を軽く引っ張り体を寄せられ、抵抗する間もなく僕の額へとキスをされる…きゃーーー!!アリアさんったら大胆〜!


 っと、こんな事を思い出しているばっかりに顔がニヤケそうになっていけない。


 周りの雑音とか先生の授業だとかを聞くよりも真顔を保つ事に必死である。


 そして今の時刻はお昼。みんなで楽しくお昼ご飯を食べる時間だ。五、六人ほどで机をくっ付け、みんなで給食の用意を始める。


 いつもなら憂鬱な時間だが、アリアさんの妄想パワーでそれ程億劫では無い。思えば今日一日が普段よりも気楽に過ごせている気がする。


 それに給食の献立は……わぁカレーライス!やったぁ〜!


「ねぇアンタ」


 僕は朝の出来事だったり重ねて給食がカレーだった事に完全に浮かれていた。


 普段ならありえない鼻歌なんか歌っちゃったりするほどだ。


 それ程に心躍っていた時、突然背後から声をかけられた。


「な…なに?」


 しまった…不覚にも心が躍っているのが表に出てしまっていたのかな。恥ずかしい…


 その子の名前はエル、美しい金髪に透き通る様な青色の瞳を持っている。背丈は僕より少し低い。同年代ながら中学生とは思えないほどに顔立ちが整っている。美形というやつだ。


 まぁ!アリアさんのが綺麗だけどね!!


 去年から同じクラスで、不思議な言動とその容姿からかなり印象に残っているが、話しかけられたのは今回が初めてなので少し驚いている。


「アンタ、悪魔と契約してるでしょ」


「………え?」


 突拍子にそんな事を言われたので困惑の声が出てしまった。


 悪魔…??一体なんのことだかわからない。


「匂いがするのよ。明らかに人とは違うモノがアンタの身体から漂ってきてるの」


 僕ってそんなに臭いのかな…確かにそろそろ季節も夏だし汗も沢山かいちゃってるけど…面と向かって言われては普通に傷ついてしまう。


 アリアさんには良い匂いって褒めてもらえるんだけどなぁ…


「えと……お風呂には入って……るよ?」


 返答に困ってしまう。いきなり悪魔と契約してると言われどう返せば良いのかわからなかった。


「そういう事じゃないって。あ、さては悪魔に口止めされてるのね?」


「え…や……違うよ…?」


 僕が悪魔と契約してる前提で話を進めてくるためどうにも会話が噛み合わない。


「大丈夫、味方だよ。私は天使だから」


「……そうなんだね」


 エルという子は去年からこの様子なのだ。自分を天使だと言い張り続けている。


 だからなのか、周りには白い目で見られてしまっている。


 その特徴的で美しい容姿から最初こそ騒がれていたが、話をしていくうちに皆彼女と関わることを辞めてしまった。


「…やっぱり信じてくれないのね。まぁいいわ。これ、渡しておく」


 そう言い渡された物はお守りのような物。


 手作りなのだろうか、丁寧に作られているが縫い目にほんの少し乱れがある。薄いレモン色で、裏面には「悪魔封じ」と刻まれている。


「ごめん。本当に悪魔とかは知らなくて…でもありがとう、大切にするね」


 悪魔や天使の事は何もわからないが、間違いなくこのお守りは彼女が丹精込めて作ったもの。


 それを貰って邪険にするのは間違っているだろう。


「大切にされちゃ敵わないわね。使ってくれないと意味ないわ」


 エルはそう言い残し、給食の用意へと戻って行った。


 僕は彼女に貰ったお守りを優しく手で包み込んだ。じんわりと温かい、どこか心地よさすら感じる。


 ……それにしても、堂々とした立ち振る舞いだった。周りからの視線には当然気付いているだろう。それでも自身を曲げず貫いている。



 僕は、この日は何となく良い雰囲気で終われる予感がしていた。アリアさんのお陰でもあるし、エルと初めてお話が出来たのもそうだ。


 珍しく学校で良い気持ちになれた。なれたのに。まさか放課後にあんな事が起きてしまうだなんて。


 この日常が、音を立ててひび割れている事に僕はまだ気付かない。

お付き合い頂きありがとうございました。

少しでも楽しめましたでしょうか。

今後の糧になります。感想、評価等よろしくお願いします。

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