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38話「アリアの日常」

 湊音達が学級委員としての仕事に奮闘している頃、過保護吸血鬼アリアはというと……


「暇だーーーー」


 ダラダラしていた。


 アリアは吸血鬼という存在である以上、基本的に日中は外に出る事が出来ない。


 そのため湊音が学校に行っている間の時間は家で一人ぼっちであるのだ。


 当然、掃除や洗濯などやること自体は沢山あるのだが……流石はスーパー吸血鬼、そんなものは一瞬で片付けてしまう。


 余った時間を活用し、湊音の為に美味しい料理の研究などもするが、それも一日で出来る量には限度がある。


 いつも作りすぎて一人で処理するのが大変になるくらいだ。


 よって、時間を持て余した彼女がどうなるかというと。


「お、このせんべいうまーい」


 堕落! 圧倒的堕落!!


 この吸血鬼……湊音の前では勿論の事、エルの前ですら吸血鬼として年長者としての振る舞いを怠らない。


 しかし一人の時は寝そべって昼ドラを見ながらせんべいをかじる始末!!


 その姿を湊音がなんというだろうか。


 だが、この現状も仕方が無いと言えば仕方が無い。やるべきことを済ませたうえで本当に暇な時間なのだからこうなってしまうのも当然であろう。


「世の進歩ってすごいねぇ。昔はこんなお菓子なかったのに」


 このように如何にも長寿種族らしいことを言うくらいしかやることがないのだ。


 アリアが湊音の前に現れて数か月……このような生活を繰り返している。


「ん……」


 ふと、アリアの視界の端っこにあるものが映る。


「ふむ」


 それは体重計であった。


 もともとこの家には古い型の体重計しかなかったのだが、湊音の健康と状態を管理する立場であるアリアが新しく最新型をネット通販で買い付けたのだ。


 湊音の体重を管理するために買ったため、アリアはその体重計にはあまり乗らない。


 それこそ、配達された日に問題無く動くかテストした時に一度だけ乗った程度だ。


「久しぶりに……」


 ふと思い立った。


 特に深い意味は無い。ただ、どうせ何もすることが無いのだから時間つぶし程度の感覚で乗ってやろうと思っただけの事。


 が、アリアは軽んじていた。


 料理研究の反動を、お菓子を食べて特に運動をしない日々を……


 電源を入れその現実表示装置に身を乗せる。


「……うそぉ」


 吸血鬼アリア、ダイエットを決意する。



ーーーーー



「ねぇーーエルちゃんどうしよぉお……」


「窓から入ってくるの止めてくれない?」


 時刻は夜の十時半頃。


 健康優良児である湊音は既に就寝した後の話である。


 身に降りかかった自業自得に狼狽えたアリアは、エルに助けを求めていた。


 圧倒的長寿である吸血鬼が十代の少女に助けを求める構図である。


「このままじゃ湊音くんに嫌われてしまうよ……」


 窓際のベッドの上でめそめそするアリア。


「いや……というよりも本当に太ったの?」


 勉強机に座る堕天使がアリアの顔をまじまじと見つめる。


 一見するだけでは違いが分からない。普段通りの整いすぎた顔立ちであるし、余分な肉はついていないように見れる。


「ほら」


 アリアはシャツを少しめくり、お腹を見せつける。


「あー……あーーー……??」


 エルは顔をしかめる。


 細い。凄く細い。体のラインは艶やかに曲線を描き、くびれがくっきりと確認できる。


 が……確かに、確かに少しだけ肉が付いているようにも見えなくはない。


「まぁ、ちょっとだけ?」


「だよねぇ……」


「いやいやいや、でもそんなの誤差じゃない。アイツも気付いてないわよ」


 エルが呆れるように肩肘をつく。


「でもこのまま順調に太ったらバレちゃうかもじゃん」


「というか吸血鬼って太るの?」


「太るよ!!!!」


「っば! おばあちゃん達起きちゃうでしょ!?」


 すみませんと縮こまるアリア。その普段の威厳など微塵も感じられない光景にエルは少し戸惑った。これがあの吸血鬼の姿か?


「あのね、そんなに気になるなら運動すればいいじゃない」


 すごくまともな事を言うエルにアリアはこう言葉を返す。


「今まで運動した事無くて……わかんない」


「走ればいいでしょ」


「意味ないよ、どれだけ走っても疲れないし」


 流石は人間を超越した存在、常識の範囲内の運動など運動にあらず……


「バケモンかしら」


「酷くない?」


「じゃあ今まで疲れた事ないとか?」


「いや、あの天使と戦った時は流石に……あっ」


 何かを閃いたかのような顔を浮かべ、エルを凝視する。


 その視線には何やら期待が含まれていて、エルはそれを気味悪がった。


「……なによ」


「エルちゃんと戦えばいい運動に」


「いやいやいやいやいやいやいやいや」


 手と首を横に振りまくり、これでもかと否定に意を示す。


「だよねぇ……エルちゃん弱いし」


「シバくわよ」


「逆にエルちゃんは運動してるの?」


「学校で体育あるしね」


 と言ったところで、今度はエルが何かを思い出したかのように顔を上げる。


「そういえば、アイツと二人三脚することになったわ」


「えっ、湊音くんと?」


「そう。で、放課後に少し練習してみたのよ」


 湊音の運動能力を把握しておきたいというエルの計らいからの提案で、普段は少し居残って勉強をする二人だが、今日はその時間を二人三脚の練習に当てていた。


「湊音、何かスポーツでもやってたのかしらね。想像より運動神経良くて驚いたわ」


 続けてエルがそう口にした瞬間、アリアはいつものアリアへと顔を変えていた。


 湊音を保護する立場である、過保護吸血鬼の顔へと。


「そうだね」


「あら、何か知ってそうね」


 いまいち歯切れの悪い反応に、エルが反応する。


「詳しくは、知らないけどね」


「へぇ……?」


 エルは顔を覗き込む。アリアの真意を探る様に、針糸の穴でも覗き込むかのように。


「まぁいいわ、それより体育祭は見に来るの?」


「もちろん!」


 瞬間、顔が変わる。ただの湊音大好きっ子のお姉さんへと変貌する。


 この吸血鬼、まだ秘密が多いなとエルは睨んだ。


 ともあれきっと事情があるのだろうと、今は軽く流すことにする。


「でもどうやって一日目は屋外よ?」


 そう、スーパー吸血鬼であるアリアと言えど長時間太陽の下にいればぶっ倒れてしまう。


 湊音と山登りに言った時は様々な例外があり実現したが、今回はそうはいかない。


「体育祭中、校舎は無人でしょう?」


「アンタまさか……」


「夜間の内に侵入します」


「不法侵入ぅぅぅ……」


「だってこうでもしないと湊音くんの雄姿が見れないじゃないか!」


「私に怒られても……」


 そうして、時計の針が十二時を跨いでも彼女らは他愛のない話を続けた。


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