表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/38

30話「出現」

ページを開いて頂きありがとうございます。

あじたにと申します。

温かい目で見守って頂ければと思います。

 僕は首元で震えるコウモリに手を添えながら、エルに向かって口を開く。


「近くに吸血鬼がいる」


 僕の首元には三匹の親指程度のコウモリ達が潜んでくれている。もちろん、ただのコウモリではなく、アリアさんが僕を吸血鬼という脅威から身を守る為に施してくれた、言わば護衛装置のようなものだ。


 一匹はアリアさんへの緊急SOSを伝えてくれる子。前回、僕が吸血鬼に殺されそうになったところをアリアさんが寸前で駆けつけてくれたのはこの子のお陰である。


 ちなみに、密かに名前を付けている。ずばりバサちゃんである。


 そして今回のコウモリは、アリアさんが新たに備え付けてくれた二匹の内の一匹の力である。


 なんと付近にアリアさん以外の吸血鬼の存在を感知する事が出来るのだ。凄い!


 ちなみにこの子はパタちゃんである。我ながら命名のセンスが光るね。ふふん。


「…前言ってた過保護のコウモリね?」


 大方の状況を瞬時に察してくれたようで、エルは表情を切り替える。


 何か大切な事を伝えようとしてくれていたのに、僕は申し訳ない気持ちを胸に抱えた。


 けれど、近くに吸血鬼が出たという事実はやはりすぐに伝えない訳にはいかなかったのだ。


 脳裏に吸血鬼との戦いで大量の負傷を負ったエルの姿が浮かび上がった。もう二度とあのような悲劇は見たくないと密かに思う。


「けれど妙ね、まだ日も落ちていないのに」


 エルが疑問符を上げる。確かにそれはもっともである。


 現在は丁度お昼。三時限あるテストを終えて下校中の時間帯であるから、当然太陽は未だ落ちていない。


 しかし、吸血鬼は昼に活動出来ないのではない。太陽の元に出る事が出来ないのだ。


 …ってアリアさんが言ってた気がする。


「吸血鬼は太陽が完全に隠れていれば昼でも外に出れるらしいよ…」


 思えばアリアさんも日焼け止めグッズを身にまとって外出していたので、案外理屈は通っているのかもしれない。


「へぇ…今日みたいな分厚い雲があれば平気ってわけか。というか前も思ったのだけれど、吸血鬼の弱点って結構曖昧よね」


「流石に日光に当たって即灰になるんじゃ生きてけないだろうしね…きっと僕たちの知る吸血鬼が極端すぎるんだよ」


「そういうもんかしら」


 そう呑気に談笑していて僕はハッとした。


「って呑気に話してる場合じゃない!すぐに帰らないとだよ!」


 慌てて言った。そうだ、今目の前にいないだけで、吸血鬼という脅威はすぐ近くまで迫ってきているのだ。


 であるならば僕たちは一刻も早く最強のボディガードこと、アリアさんの元へ行かなければならない。


 僕は咄嗟にエルの手を引こうとしたが、彼女はそれに逆らって歩を進めようとはしなかった。


「エル…?」


 僕は訝しんだ。吸血鬼の脅威はエルが一番理解しているだろうに、何故すぐに逃げようとしないのかと。


「私はいいわ、アンタだけさっさと過保護のとこに帰りなさい」


「どうして…?」


 純粋な疑問だった。


「わざわざこの時間に出没したって事は、間違いなく人を食う為でしょう?なら私はそれを見過ごせないのよ」


「でも…」


 エルの言うことはきっと正しい。この昼の時間帯に表を歩くことは決して吸血鬼にとって楽な事では無いだろう。


 にも関わらず、出てきたということはそれだけ食事を欲しているという事。


 僕は押し黙った。


 それが事実だとするのならば、彼女は誰かが犠牲になる前に吸血鬼を止めようと動くだろう。理不尽に襲われる命を放っておくようなマネはしないであろう。


 それがきっと、エルという天使なのだろう。


 ならば僕はそれを否定することは出来ない。


「それじゃ、早く帰るのよ」


 そうして僕が何を言うのも待たずにエルは走り去ってしまった。


 犠牲が出るより早く動くためであろうが、それと同時にきっと、僕に考える時間を与えない為でもあるのだろう。


 彼女はどこに居るかも分からない吸血鬼を探しに、出るかも分からない被害者を守るために、一目散に走って行った。


 僕はその後ろ姿をただ黙って眺めるしかなかった。


 止めて無理にでも一緒に帰れば良かっただろうか?


 一緒について行くべきだっただろうか?


 頑張れと応援すれば良かっただろうか?


 僕にはどれもしっくりとこなかった。


 そうして何をするでもなく、ただ肩を落とし視線だけを送り続けていた時だった。


「行っちゃったねぇ…」


 思い悩む僕の背後から、大好きな落ち着いた声が聞こえてきた。


「アリアさん…!?」


「バサちゃんから信号があって急いで来てみれば、エルちゃんも気持ちの良いことするね」


 と言うアリアさんの表情は何処か感慨深げで、なにやら特別な想いがある様に見て取れた。その詳しい内容は何も分からないのだが。


 …バサちゃんって言った?


 僕が密かに付けて呼んでいる名前を何で知ってるの?え、やだ、恥ずかしい…


「しかし良い名前だよね。バサちゃんにパタちゃん、そして…」


「わーーー!良いですから!それよりもエルが!」


 露骨に話を戻してしまったが許して欲しい。


 なんというか…部屋に置いていたぬいぐるみに名前を付けて可愛がっているのがバレた時のような恥ずかしさがあるのだ。妙にむず痒くてたまらない気持ちである。


「エルちゃんなら大丈夫だよ。仮に吸血鬼に襲われても私がいるからね」


 そう自信満々に話すアリアさん。その発言にはやはり安心感があった。


 この人がいれば大丈夫、何とかしてくれる。という根拠は無いけど確証はある自信が心を休めてくれた。


「流石アリアさんです!エルが何処に行ったのかも把握済みなんですね!」


 先ほどの緊迫感からは一転して安心しきった僕はそんな事を言った。


 良かった、これでエルが危ない目にあってもアリアさんが助けてくれる。そう思った。


「………うん」


 が、何故だかアリアさんの歯切れが悪い。というか、冷汗も出ているような…?


 ふと気になってその顔を覗き込んでみたけれど、目を合わせてくれない。おや、どうしたのだろうか。


「あれ…アリアさん?」


「…落ち着いて聞いてね、湊音くん」


 何やら改まった様子でアリアさんが言った。


「はい…?どうかしましたか?」


「エルちゃん、見失っちゃった。てへ」


「なぁ!?」


 その「やっちまったぜ!」というおとぼけ顔を僕は忘れる事はないだろう。

お付き合い頂きありがとうございました。

少しでも楽しめましたでしょうか。

今後の糧になります。感想、評価等よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ