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26話「また明日」

ページを開いて頂きありがとうございます。

あじたにと申します。

温かい目で見守って頂ければと思います。

「ようし、ひとまず一日目終了だ。お疲れさん」


 と、担任の坂口先生の終礼のお話しが始まったが、僕の耳には何一つ入ってこない。


 なぜなら僕の人生において一生分の思考能力と集中力を使った気がするからだ。仮に僕がコンピューターならばオーバーヒート直前だろう。


 はい?こんな低スペックなコンピューターはあり得ない?はいそこ、やかましいですよ。今先生が喋ってるでしょうが。


「あーい、じゃあチャイム鳴ったら帰っていいぞ~」


 本当に機械じみた思考力があればどれほど良かったかとくだらない事を考えていると、いつの間にか坂口先生のお話が終わったようだ。


 役目を終えた先生は出席簿と二限目の社会の解答用紙をもって職員室へと去って行った。


 先生が退室してから数秒後、教室中が話声でざわざわとし始めた。


 あぁ…このテストが終わってからのちょっとした話声、苦手だなぁ。


「はぁ~…」


 クソデカため息と同時に、下校を知らせるチャイムが学校中に鳴り響いた。


 これが明日もあるのかと思うと気持ちが滅入りそうになる。しかもだ、今日は数学と社会の二教科のみだったが、明日は英語に理科、それに加えて国語と三教科もある。


 勉強を苦手とする僕からすれば、ぶっちゃけ全てを投げ出して逃げ出したい気持ちでいっぱいである。


 …そんなことは絶対しないのだけども。ともかく、気分の話である。


「ため息吐くと知性が逃げるわよ」


「幸福じゃなくて?」


 そんな疲労困憊で机に突っ伏する僕に、金髪が良く似合う少女が話かけてくる。


 その嫌味節はテスト終了直後でも健在のようだ。というか全く疲れている様子は見えない。流石である。


 言うまでもないが、エルは社会のテストすらものの十五分で解き終えていた。


「テストの出来は…あら、その顔を見れば聞くまでもないわね」


 エルは僕の疲弊しきった表情から察したようだ。


 その通り。僕の今回のテストの出来は…


「バッチリ…!」


 弱々しくピースサインを作って見せた。


 そう、なんと今回の中間テスト、思いのほか自身があるのだ。


 一時間目の数学は、後半ペースダウンしてしまったが何とか落ち着いて取り組むことが出来た。


 また、二限目の社会でも自分の予想よりも沢山解けた気がするのだ。まぁ、ちょっとした山勘があったたのだから運勝ちのようなものだけれど。


「良かったじゃない。この調子で明日も頑張りましょう」


「うん、頑張るよ」


 そうだ、明日はエルに勉強の協力をして持った英語なのだ。


 こう言えばエルは少し嫌がるかもしれないが、恩を返す気持ちで精一杯頑張ろう。


__お礼は言葉より結果よ。ちゃんといい点数を取ってもらわないと意味ないわ。


 そう彼女が言ったのだ。なら僕が良い点数を取れば少しは喜んでくれるだろう。


 喜んでくれると……いいなぁ…


「湊音~!テストどうだった~!?」


 と…クラスメイトの男の子が話しかけてくれた時、エルは教室の出る寸前だった。


 いつの間に帰り支度をしていたのだろうか、そもそもクラスメイトが近づいてくるのを察していたのだろうか。


 ともかく余計な会話を嫌い、無言で立ち去ろうとするエルの姿を見て僕は


__あ、お別れの挨拶…してないな…


 と、そう思った途端になんだか急に、物悲しい気持ちになった。


 胸の中に雪が降り始めたようだった。


 エルは変わらない。


 僕とは以前よりもお話をしてくれるのだが、その他クラスメイトとの交流を嫌っているように見える。


 冷徹で、不愛想で、無関心。


 きっと僕も、アリアさんという特別な存在と接点が無ければ同じだっただろう。


 僕も他のクラスメイトと同じ、彼女にとっての有象無象で何者でもない赤の他人だっただろう。


 その事実を僕は、とても悲しく思った。


 心に降る雪が吹雪へ変わっていく。


 して僕は、教室から出ようと扉に手を掛ける彼女を見送っていた。


「……っぁ」


 ここで『また明日』と大きな声で呼びかけたい。だが出来ない。


 そんな簡単な事が僕には出来ない。声を出そうと口を開けど喉が詰まる。


 あぁ、なんて臆病。あぁ、なんて軟弱。あぁ、なんて小心。


 あぁ、あぁ、あぁ。


 自己嫌悪の吹雪がどんどんと積もっていく。


 彼女と友達になりたいと、だから助けてと、そうアリアさんにお願いした夜を思い出す。結局僕はエルに言っていないのだ。『友達になって』と言えずじまいなのだ。


 親身に僕の身を心配をしてくれた彼女に、命がけで吸血鬼から守ってくれた彼女に、時間を割いて勉強を教えてくれた彼女に、僕はその一言すらも言えない。


 ただ、今は彼女の後ろ姿を眺めるしか…


「…あ」


 ふと、目が合った。エルが半身ほど振り返ったからだ。


 互いの視線が交差した瞬間、彼女はふっと口角を上げ、ぼうっと眺めるだけの僕に……小さく手を振った。


 僕の中に広がる雪景色に、マッチの火が灯された。


「また明日!」


 声が、出ていた。


 それも、それなりに大きな声が。


 席も立っていた。きっと僕の声程ではないにしろ、ガタンと大きめの音が鳴っただろう。


 目の前にいたクラスメイトの男の子は驚いていた。突然座っていた奴が立ち上がり大声を出したのだ、当然だろう。


 隣の席の西城さんも目を丸くしていた。というかクラス全員が大なり小なり驚いていた様子だったと思う。


 だが、その中でエルだけは表情を崩さず、それこそ天使のような微笑みを浮かべてこう言った。


「ええ、また明日」


 そうして彼女は教室を後にした。


 ぱたぱたと、学校指定の上履きから発せられる足跡がどんどんと遠ざかっていく。


「あれ?湊音って天城さんと仲良かったっけ?」


 と、しばらく男の子に沢山の質問をされたのは、わざわざ語るものでもないだろう。


お付き合い頂きありがとうございました。

少しでも楽しめましたでしょうか。

今後の糧になります。感想、評価等よろしくお願いします。

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