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25話「テスト」

ページを開いて頂きありがとうございます。

あじたにと申します。

温かい目で見守って頂ければと思います。

 エルの勉強会から一週間が経過した。


 今日は待ちに待たない中間テスト、憂鬱で陰鬱な中間テスト。


 その初日である。


 五教科を二日に分けて行う今回のテスト、本日は数学と社会の二教科である。


 数学に関しては日頃のアリアさんの手解きもあり自身アリだが、どうも社会がいけない。


 前回の勉強会でエルに教えを乞うてみたものの『暗記科目は個人の努力よ』などと言われてしまった。それならばとアリアさんの手間を承知で頼み込んでみたが、やはりエルと同じような事を言われてしまった。


 もうお分かりだとは思うが僕は暗記という行為が大の苦手である。


 なんというか、もう、シンプルに苦手なのだ。過去のトラウマのように、暗記が苦手になるきっかけがあったりだとかはしない。本当にただただ苦手なのだ。


 よって、僕は英単語なども覚えるのが苦手である。


 おっと!ここで勘違いして欲しくないのですが!僕は暗記が酷く苦手ですが、かといって数学とか国語とかが得意という事でも無いのです!


 …それもうただ勉強が苦手なだけでは??


「はぁ…」


 ため息が零れる。


 もう初日の朝だというのに頭の中がナイーブになっていけない。


「どうしたのため息なんか吐いて」


 コーヒーを飲みながら僕の対面に座るアリアさんが覗き込んでくる。


 顔が良い…


 おほん。改めて、今日は中間テスト初日の朝。今はアリアさんと共に朝の食事をしている。


 ちなみに本日の朝食はベーコンと目玉焼きを乗せたトーストである。どこぞの映画飯のような内容だが非常に美味しい。


 半熟の黄身がベーコンとパンに絡み付いて素晴らしく美味しい。やはりアリアさんは天才じゃったか…


「テストがどうも不安で…」


「あーわかるよ、何かの物事や出来事、その本番当日ってのは落ち着かないものだよね」


 うんうんと大きく頷き、アリアさんはまたコーヒーを口に軽く含む。


 コーヒーを飲むだけで絵になるなぁ…などと先ほどの後ろ向きな緊張感はどこへやら、呑気にそんなことを思った。


「でもね湊音くん、君はこの一週間の間…いや、普段から一生懸命勉強してたじゃない。きっと大丈夫だよ」


「そうでしょうか…」


「そうだよ。というか今回のテストで良い点数を取れなくてもしょげる必要は無いよ。あ、いや…ちょっとはしょげた方が良いんだけど…」


 そうじゃなくてだな…と咳ばらいをするアリアさん。


「大事なのは‘‘頑張ろう‘‘って思う気持ちだよ。仮に失敗したって次があるし、躓いて転んでも立ち上がればいい。七転び八起きって言うだろう?」


「アリアさんってたまに良い事言いますよね」


「む、たまにってなんだよぉ」


 今の話を人にすれば『綺麗事だ』と一蹴されてしまうだろうか。


 人生とはどこまでも厳しい。何度転んでも立ち上がれるときもあれば、たった一度の躓きが二度と立ち上がれない致命傷になる時もある。


 そんなことはきっとアリアさんだって理解しているハズだ。なにせ僕よりもずっと長い時間を生きてきているのだから。


 それでも今回のお話をしてくれたという事はきっと、僕の事を信じてくれているからだろう。


 今回の中間テストで例え失敗してしまっても、不貞腐れずに、投げ出さずに、また正面から向き合い努力を積み重ねる事が出来ると信頼してくれているのだろう。


 ならば僕はそれに答えねばならない。


 たかだかテストの励まし如きに大げさだろうか?


 それでも、母を失い、人生という名の長い道の一寸先すらも見えなくなっていた僕を救い出してくれたアリアさんを裏切るわけにはいかない。


 だから僕はこのアリアさんに貰った『綺麗事』を、綺麗なまま僕の心に持ち続けようと、静かに誓った。


「ごちそうさまでした」


「お粗末さま。さて、頑張ってらっしゃいな」


「はい!頑張ります!」


 そうして僕は家を飛び出した。


 ひらひらと手を振るアリアさんを背中に感じながらも僕は一歩を踏み出した。


 普段とは違う雰囲気を持つ学校…中間テスト故、妙な緊張感を帯びた学校へと足を運んだ。



ーーーーー



「始め!」


 そうして中間テストが始まった。


 三十人と少しの人数が一斉に解答用紙をひっくり返す音が教室中に響き渡る。この瞬間にようやく、テストが始まったのだなと強く実感した。


 まるで陸上のスターターピストルのようだ。


 コツコツとシャープペンシルがプリントに書き込む音が鳴る。その音は何故だか焦燥感を引き立てる。少しでもペンを止めればおいて行かれるような…そんな焦燥感を感じる。これは僕だけだろうか。


 さて、初日の第一教科は数学。僕がもっとも得意(自称)する教科だ。


 何としてもここで良い流れを作っておきたい。テストに流れがあるのかは知らないけれど、ともかく事の始まりなのでいいスタートを切りたいのだ。


「………ふぅ」


 隣に座る人にも聞こえない程度の音量で深呼吸をする。


 名前を記入したのちに問題用紙をざっと見たが、難易度の高そうな問題は少なそうだ。


 流石は数学担当の田中先生。あくまで基本を大切にした問題とそれらを生かした応用問題の配分バランスの良さ…感服いたしますありがとうございます!!


 と意気揚々とアリアさんに教えて貰った事を思い出しつつ問題を順調に解き勧めて行き、約十分が経過した。


 その時だ。


 コンコココンッ…と机にペンを当てる軽快な音がした。


 その音で思い出されるのは朝にしたエルとの会話。


 ギリギリまで勉強する人もいれば悟りを開いたかのように静かに座る人、逆に緊張を嫌って友達と談笑する人、様々な思惑が渦巻く教室で、僕とエルはこのような会話をしていた。


「終わったら合図?」


「そ、競争みたいで面白そうでしょ?」


「え~…?良いのかなテスト中に…」


「良いのよ、別にカンニングするわけじゃないんだし」


「まぁ、わかったよ」


「決まりね」


 という取り決めをしていたのだ。


 そうして今、教室の窓際一番後ろの方向からあらかじめ決めていた音が聞こえてきた。


「エル…もう終わったのかぁ…」


 そう僕は驚きつつも、凄いなぁとしみじみ関心してしまった。


 ひっそりと数学だけは良い勝負出来るんじゃないかなぁと思っていたのだが、どうやら少し甘かったようだ。


 なにせ僕はこの十分でようやく半分を終えたかといった所なのだ。


 ……いや制限時間が五十分のテストを十分で片付けるってなんだ。わけわかんないよ。


 それよりも気になるのが、僕とエルの話が隣で聞こえていたであろう西城さんが『ちぃ!』と言うように呻いているのが気になる。


 いや、テスト中なのだから本当にそう聞こえてきた訳じゃないのだけれど、横目に見える西城さんの顔の権幕が凄いから本当にそう聞こえてきそうなのだ。


 やっぱり西城さん…エルを目の敵にしてるなぁ…


 それはやはり、僕にも関係があるのだろうか。


__アンタの事好きなんですって。


 ふと一週間前にエルから言われた言葉を思い出す。


 ……いけない、今はテストに集中しないと。


 そう思い、再びテスト用紙に目を落とした。


 が、結局僕がペンを鳴らしたのはテスト終了五分前とギリギリになってしまったのだった。

お付き合い頂きありがとうございました。

少しでも楽しめましたでしょうか。

今後の糧になります。感想、評価等よろしくお願いします。

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