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24話「らしくない」

ページを開いて頂きありがとうございます。

あじたにと申します。

温かい目で見守って頂ければと思います。

「そろそろ切り上げましょうか」


 エルとの放課後のお勉強会が始まってからどれ程の時間が経過しただろうか。


 と言ってもそのうちの数十分程は唐突に始まった『どのヒロイン像が好ましいか?』などという勉強には一切相応しくない内容で時間を潰してしまったのだが、あえて目を瞑っておこう。


「そうだね、外も暗くなってるし」


 季節は五月。これから夏に入っていくにつれて徐々に日が伸びていく時期であるというのに外はすっかりと暗くなってしまっている。


「勉強に付き合ってくれてありがとう」


 机に出している教材を鞄にしまうエルに僕は心からの気持ちでお礼を述べた。


 苦手科目である英語、その中間テストの範囲の一部ではあるがかなり身に付いた気がしたからである。


 一人ではこうも行かなかっただろう。


 もっとも、僕にはアリアさんがいるのだから一人では無いのだけれどね!ふっふん!


「お礼は言葉より結果よ。ちゃんといい点数を取ってもらわないと意味ないわ」


「そうだね」


 呑気な事を考えていたら手厳しい事を言われてしまった。しかしその言葉もまた事実であるので僕は素直に頷くほか無い。


「でもこうも暗いとまた吸血鬼とかに襲われそうね」


 エルが教材が入った鞄を持ちながら言った。やれやれと言った様子でもあった。


「大丈夫、アリアさんに今日遅くなることを連絡したらこっそり見守っててくれるって」


 勉強会を始める直前に、こっそりアリアさんにメールを送ったところそのような旨の返信が返ってきたのだ。


「…あ、そう。過保護の吸血鬼もアレだけど、それを余念無く享受するアンタも大概ね…」


「…?」


 イマイチ彼女が何を言いたいのかは分からなかったが、ともかく僕たちは絶対の安全を保障された帰宅路を行くことが出来る。


 アリアさんが言うには、吸血鬼に一度襲られると再び襲われる可能性が高くなるそうなのだ。


 その理由を一応は説明してもらったのだが、吸血鬼世界特有のルールなどが絡んでいるようで、あまりよく分からなかった。


 ともかく、僕とエルは夜に出歩くと足の小指をぶつけるくらいの確率で吸血鬼とご対面してしてしまうらしいのだ。


「ん…」


 僕が帰り支度を進めていると、エルが僕の襟元を注視していた。


「どうしたの?」


「アンタ、シャツの襟が立ってるわよ」


「え、どこ…?」


「仕方ないわね…じっとなさい」


 そうしてエルは僕の後ろに立ち、簡単に整えてくれた。


 のだが…既に襟の調整は終わったであろうに、後ろにいる天使様は一向に僕の襟元を離そうとはしなかった。


 さらにはその逆、衣服越しではあるが彼女の襟を掴む手の力がどんどんと力強く、果てには少しの震えも感じ取れた。


「エル…?」


 不審に思った僕は思わず声を掛けるが、返答は無い。


 エルは僕の後ろ、つまりは視界の外にいるためどのような表情をしているは分からない。ましてや想像も出来ない。


 そうしてそのまま数秒の時間が経っただろうか、ようやくエルが口を開いた。


「ねぇ湊音」


 エルが僕の名前を呼ぶ。


 普段は僕の事を『アンタ』としか呼ばない彼女が、とても低い声で僕の名前を呼んだ。


 そのいつもとは違う雰囲気に、僕は背後から言葉にならない威圧感を感じた。


 「なに…?」


「この首の痣はなに」


 声色は変わらない。


 僕と話す時のような静かでも何処か優しさを感じられるものとは違う。


 西城さんと話した時のような悪魔的で少々生意気さを感じられるものとも違う。


 吸血鬼と相対した時のような敵意を露出させたものとも違う。


__喜怒哀楽


 エルの声色に当てはまる感情をこの四つの中から選べと言われたならば『怒』を選択するだろうが、深くは分からない。


 しかし、首の痣…?


 僕にはエルが言うその痣の所在がまるでわからない。


 最近に首をぶつけた記憶は無いし、痣が出来るような心当たりは一つも無いのだ。


「痣…?」


 故に僕はそう言うしかなかった。


 それ以外の何を言えばいいのかが分からなかった。


「そう、心当たりは無いのね」


 エルの声色は変わらない。依然として変わらない。


 変わらないが、襟は離してくれた。そしてシワを伸ばすように整えてくれてエルは鞄を手に取った。


「帰りましょうか」


 エルの表情はいつもと変わらなかった。



ーーーーー



 すっかり日も落ちた時間。僕たちはアリアさんに遠くから見守られながら、絶対安全が約束された通学路を歩いた。


 道すがら話す内容はどれも他愛ない内容ばかりで、先ほどのエルが発した異常な声色もすっかり影を潜めていた。


 そうして僕たちは時間を考えることなくエルの自宅へと到着していた。


 こじんまりとした一軒家だった。


「悪いわね、わざわざ家までついて来てもらって」


 エルが優しく微笑みながら言った。


「別れた時に襲われたら危ないしね」


「でもあの過保護に見守られていると思うと、むず痒くて仕方なかったけれどね」


「それは、まぁ…」


 僕は苦笑した。


「それじゃ。復習、しっかりしときなさいよ」


「うん、今日はありがとう。また明日」


 そうしてエルは鞄から鍵を取り出して鍵穴に突き刺そうとしたところで、ふとこちらへと振り返った。


「ねぇアンタ、天使にどこかで会った?」


「え…?今あってるけど」


「…ふふ、それもそうね」


 ごめんなさいと彼女ははにかんだ。


 妙な事を聞くなと不思議に思った。それと同時にらしくないなとも思った。


「また明日」


 そう言い残し彼女は家へと帰って行った。


 若干の違和感、些細な疑問。その二つが僕の頭で引っかかる。


 頭で思考を巡らせながらも僕は踵を返し、自分の家へと帰宅するために歩き出した。


しかし、疑問はここでは終わらない。


 家に帰宅後、エルが言っていた痣を確認することにした。


 事情を話し、アリアさんにも協力してもらった。


 その結果、僕はますます頭を抱える事になる。


 何故なら、痣など何処にも無かったのだから。

お付き合い頂きありがとうございました。

少しでも楽しめましたでしょうか。

今後の糧になります。感想、評価等よろしくお願いします。

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