23話「お勉強会」
ページを開いて頂きありがとうございます。
あじたにと申します。
温かい目で見守って頂ければと思います。
「つ…つかれた…」
通常の学業の時間が終わり、今は放課後。夕焼けの紅い光が教室を照らす時間。
予定通りに僕はエルに勉強を教えてもらっていた…のだが。
「だらしないわね、まだ始まって一時間よ」
「一時間もぶっ通しで勉強はしんどいよぉ…」
情けない事に僕は早々に根を上げてしまっていた。
ちなみに教えて貰っている科目は英語である。個人的には社会科をお願いしたかったのだが…『暗記科目は一人で出来るでしょ』と一蹴されてしまった。
確かにそうなのだが…そこをなんとか覚えやすいように教えて欲しかったなぁと思うのは少々甘えすぎだろうか。
にしても英語は苦手だ。
まったく!なんで母国語以外を勉強しないといけないんだよ!ぶーぶー!
…と、よくある疑問を心の中で吐き捨てはするが、そうは言ってもやらねばならない事に変わりはない。
せっかくエルが先生に掛け合って作ってくれた放課後の自習時間なのだ、一切の無駄なく有効に使わなければ。
「ほらほら、次は数学も範囲洗わなきゃなんだから頑張りなさいな」
「は、はい…」
その金髪青眼という可憐な容姿からは想像出来ない程、エルの教え方は合理的で凄まじく厳しい。
テストの点数だけを取る、いわばテストの為の勉強というものを毛嫌いしているようであり、物事の根本から理解出来るように指導してくれる。
この天子様は本当に頼もしい。
「…はぁ、少し休憩にしましょうか」
「え、や、大丈夫だよ?」
しまった、気を損ねてしまっただろうか。
エルにせっかく勉強を見て貰っているというのに、申し訳ない気持ちになる。
「明らかに集中力が落ちているわよ。そんなんで勉強したって定着しないでしょう」
「あう、ごめんね」
「謝る必要はないわよ。勉強して疲れるなんて当たり前なんだから」
普段は冷徹で冷血な物言いのイメージだが、心根まではそうでは無いのがエルという天使様なのだろう。
「へぇ、エルでも疲れちゃうんだね」
「それでもアンタの倍以上は出来るわよ」
「…そうですか」
この嫌味な物言いもきっと、エルという人物を象徴する特徴なのだろう。僕は決して、そんな彼女が嫌いではない。
もう少し温和になってくれてもいいとは思うけどね!
「それにしてもアナタ、面倒なのに好かれたわね」
ペンを置いたエルがふとそんな事を言った。
僕は軽く水分補給にと口にしていた水筒の蓋を閉じながら聞き返した。
「好かれるって、なんのこと?」
「げ、アンタ気付いてないの?」
げ、ってなんだ、げ、って。
それにしても何のことで誰の事だろう。
僕の事を好いている…アリアさんのことでは無いだろうし。
ふむ、分からない。
「あの、えーと、アンタの席と右隣の~…」
「あぁ、西城さん?」
そこで僕は、今日の休み時間の光景を思い出した。
確かそう、三限目の休み時間だった。エルと今の勉強会の約束を取り付けた時に話しかけてくれた女の子。
普段は高めに括っている髪を今日は下ろしていたのをよく覚えている。
そして何日か前、掃除当番の時間の時にエルと一悶着あったことも同時に思い出された。
「へぇ、西城っていうのね」
あれほどに敵対心をむき出しにしておいて名前すら覚えていないとは…
「同じクラスでしょ…で、その西城さんがどうかしたの?」
「その子がアンタの事好きなんですって」
「…うそぉ」
率直にびっくりした。
まさかクラスメイトの女の子に好意を寄せられていたとは…全く気が付かなかった…
そういう感情の機微には敏感な方だと思ってたけど…あまりあてにはならないらしい…
「マジよ、なに?アンタ本当に気付いてなかったの?」
「うん…」
「まるでラブコメの主人公気取りね」
「なんて?」
エルの口からラブコメの主人公などという単語が出るのが意外過ぎてつい聞き直してしまった。
エルもラブコメディとか読むのかな…だとしたらちょっとそういうお話もしたいなぁ…
などと僕は話の主題からは逸れたことを考えていた。
「それで、どうなのよ」
「どうと言われても…分からないよ、急にそんな」
「甲斐性もなければ度胸もない、勇気もなければ誠意もない。ナイナイ尽くしね」
「そこまで言う!?」
なんなのだ、急にびっくり仰天驚愕の話を振っておいて、ちょっとたじろいだらボコボコに言われる。何て罰ゲームですか?
そうして驚きと困惑と、一つまみの怒りで感情がパニックになっているとエルがくすりと笑った。
「冗談よ、ふふ…可笑しい」
口元を抑え小さな声で笑う天使様の姿がそこにはあった。
まぁ、その内容は少々小悪魔的なのだが…目を瞑る事にしよう。
「あ、あのねぇ…」
「ごめんなさい、少しからかいすぎたわ。お詫びに彼女がアナタの何処が好きなのか教えてあげるわよ?」
「いいよそんな…プライバシーは守られなきゃだよ」
と言いつつも西城さんが僕に好意を寄せてくれている事が、当の本人である僕に伝わってしまっているので手遅れな気がするが…
「でもエルが何でそんな事知っているの?というか知ってても言っちゃダメでしょ、しかも本人に」
「少しね。アンタに教えたのは些細な仕返しよ」
「そうなんだ…何があったんだほんと…」
と言いつつここで濁したあたり僕に言う気は無いのだろう。
「ところで好きな人はいないの?」
「いきなりだね??」
「ついでよついで、話しちゃいなさいよ」
「それよりそろそろ勉強しない…?もう休憩してからそこそこ経つよ?」
「あーあ、教えてくれないのね。この勉強会のために先生にお願いしたり、出来の悪い湊音君の教師をしてあげているのに、教えてくれないのね」
出来の悪いは余計じゃい!!
だが、僕の為にここまで動いてくれているのは事実だ。
確かにこのままなんの礼も無ければ対価も支払わないのは少々不義理という奴だろうか…?
なら、僕の好きな人を教えるくらいは構わないだろうか?
僕は大げさな身振りで残念ぶるエルに向き合った。
「え…えーとね…」
「うんうん」
ってなんだってこの天使はここまで食い気味なのだ…?
まさか、本当にエルはラブコメとかの類が好きなんじゃないだろうか。だとしたら意外も意外だ。
にしても改めて好きな人を口に出すのは恥ずかしいがすぎる。
喉元まで出ている人物名がどうしてか出てこない。
「…っ…う~」
「人を好きになる事、それは恥ずかしい事ではないわ。さぁ、私に聞こえる声でハッキリ言ってごらん…?」
ここぞとばかりに天使の囁きが聞こえてくる。
もう言ってしまおう、ちょっとした羞恥がなんだ!エルにくらい教えてやるとも!
いくぞ…!
「好きな人は!アリアさんっです!」
「…つまんね」
「ちょお!!」
人がせっかく勇気を出したってのにこのクソ天使め…
「面白くない、誰もが予想出来た答え。正ヒロインが何の苦も無くゴールインした気分だわ」
「何の苦もない方がいいでしょ!?」
と、論点は底ではないがついツッコんでしまった。
「分かってないわねぇ!ある程度の困難を乗り越えてこその正ヒロインなのよ!」
それに対して妙なスイッチが起動したのか、テンションが一段階上がったエルが反攻してきた。
もうそこからは無茶苦茶だった。
僕もつい釣られてムキになってしまってもう訳が分からない論争に発展してしまった。
「いいや!突如出てくる恋敵とか!親の都合で離別とか!そういうのは見ててつらくなるから嫌!」
「そこを乗り越えてこその正ヒロインが輝くのよ大体アンタねぇ!」
と、僕たちは突如始まったヒロインとは何か?という議論で貴重な勉強時間を十分ほど食いつぶしたのでした。
しかしエルがこれほどの熱量で何かを語っているのは初めて見た。
嬉しいような…なんというか…複雑な気持ちで胸がいっぱいになった。
そうして議論がヒートアップした時。
「なーにやってんだお前ら」
様子を見に来た担任の坂口先生が眉をへの字にして僕たち二人の様子を覗いていた。
「…勉強に戻りましょう」
「…お願いします」
「あと三十分くらいで帰れよ~」
そうして僕たちは速やかに勉強会へと戻った。
…次までにはぐうの音も出ないヒロイン像を用意しておいてやろうと、僕は心で誓ったのだった。
お付き合い頂きありがとうございました。
少しでも楽しめましたでしょうか。
今後の糧になります。感想、評価等よろしくお願いします。




