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21話「夢想」

ページを開いて頂きありがとうございます。

あじたにと申します。

温かい目で見守って頂ければと思います。

「___○○だよね」


 誰かに何かを言われたような気がした。


 誰だろう。僕に話しかける人は誰だ?


 …というかここは何処だろうか。視界が真っ暗で何も見えない。


 ただ一人、暗い空間の中ポツリと立っているような状態だ。


「誰?誰かいるの?」


 状況も分からない中で、ふとそう口にしてみる。


 僕に話しかけた誰かに問いただす。


「__○○で○○」


 また何か嫌なことを言われたような気がするが、またしても内容は聞き取れなかった。


 内容は聞き取れなかったけど、確かにマイナスな発言が投げかけられたことは理解できた。


「どうしてそんなことを言うの?」


 わからないなりにそう聞いてみたが、返答らしい返答は帰ってこなかった。


 声の発信源を探そうと思っても、一面真っ暗闇で何も見えないので意味は無かった。


 酷い気分だ。そりゃ酷い事を言われているのだから当たり前ではあるのだが、それとは関係なしに気分が悪い。


 思えば、首元が苦しい。じんじんと熱い。


 というよりも、身体の熱が首元に集まってそこから無くなっているような感覚だ。


 何かに体の力を吸い込まれているような感じでもある。


 頭がぼーっとする。意識がハッキリしない。


「臆病だよね」


 今度はハッキリと聞こえた。それと同時に僕の前に人影が同時に姿を現した。


 全体が真っ黒で、分かるのは背丈くらいのものだけど…僕と同じくらいの身長の人に見える。


 そもそも真っ暗な空間にいるのに、真っ黒な影が視認できるのは何とも違和感だ。


「………」


 何か言おうと思ったけど、声が出なかった。


 戸惑いとか緊張とか、恐怖とか…そういう精神的な要因ではなく、ただただ声が出なかった。


 出るのは掠れた吐息のみ。かひゅ…と虚しく音を立てるのみ。


 声を出す力さえなくなってきているようだった。


 どんどん体が衰弱していくような…


「君さ、何を思って生きてるの?人の顔色伺ってさ、善人のつもり?」


 口の聞けなくなった僕とは対照的に、その真っ黒な影は饒舌になっていく。


 いつの間にか発言も輪郭を帯びてくっきりと聞こえる。


「………っ」


 声はやっぱり出なくて、僕は影の声をただ黙って聞くことしかできなかった。


「気持ち悪いよ、君。まぁ、僕には関係ない事だけどさぁ…ずっと見せられるこっちの身にもなって欲しいよ」


 ほっといてくれよ。と僕は心の中で反論した。


 いや、反論というにはあまりに投げやりが過ぎるだろうか…これでは反論ではなく逃亡のように思える。


 でも、でも仕方がないじゃないか。


 そうやって波風立てずに生きるのが僕の編み出した処世術なんだ。


「あっそ、じゃあ好きにすれば」


 心を読んだかのように、目の前の影は言った。


 なんだよそれ。言うだけ言って突き放すとか、酷いじゃないか。


「でも君は何も言わずに突き放すじゃん?」


「…」


 言葉が出なかった。いや、そもそも声は出ないんだけれど、今回は言いたい台詞も思い浮かばなかった。


 この真っ暗な空間とは対照的に頭の中は真っ白になった。


「っと、時間みたいだ。アリアさんに感謝しなよ?まったく…」


 やれやれと言った素振りを見せる。表情は見えないが黒い影がそういう仕草をしたように見えた。


 そういい、影は僕の元から離れていき、次第に暗い背景と同化するように溶け込み見えなくなった。


「まって……まってよ!」


 その時には既に、僕の喉は声が出るほどには回復していた。


 自分でも何故その影を引き留めようとしたのかはわからないが、とにかくこのまま何もわからないまま終わるのは嫌だと思った。


 けれど、その意思とは真逆に僕の意識はどんどんとぼやけていく。


 唯一見えていた自身の身体も曖昧になる。


__あなたは…誰なの!?


 まだ本調子ではない喉に鞭を打ち、声を荒げようとした。


 だが、そう言った時には既に…


「あ……」


 僕は目を覚ました。


 どうやら、嫌な夢を見ていたらしい。


 長い夢だったか…それとも短かったのか…なんだか時間の感覚が変だ。


「アリアさん…」


 顔を横に向けると、アリアさんが僕の隣で眠っていた。


 その距離の近さにほんの一瞬ドキドキしてしまったが、頭痛が起きて台無しになった。


「っ…」


 先ほどの夢は何だったのだろうか。気分の良いものではなかった…


 あんな…あんな……


 と、思い出そうとしたが、既に僕はその夢の内容を忘れてしまっていた。


 まぁ、夢ってそういうものか…と妙に納得出来てしまった。


「湊音くん、起きたんだね」


 内容の思い出せない夢について考えていると、アリアさんが目を覚ました。


 その声を聴いた瞬間に安心感が全身を包んだ。


 アリアさんは僕の頬を優しく撫でた後に言った。


「具合はどうかな…?」


「とくに、大丈夫ですけど…あっ」


 あぁそうだ、僕はアリアさんと山に登ったあと疲れて眠ってしまったんだ。


 外を見てみるとすっかりと日が落ちている。今は何時なのだろうか。


「なにか、覚えている事はないかな?」


「えと…山登りして、椅子に座って…そのまま寝ちゃったんですよね…ごめんなさい…」


 その発言を聞いたアリアさんは少し黙った。一瞬怒らせてしまったのかと思ったが、どうやらそうでは無かったようで、すぐにアリアさんは微笑んだ。


「そう、そうだね。よっぽど疲れてたみたいだからそのまま寝かせてたんだ。元気を取り戻したみたいで良かったよ」


 そう言うアリアさんはなんだか、いつもよりも綺麗だった。艶めかしいというか、優美というか…なんだか普段と印象が違って見えた。


 部屋に差し込む月明りに照らされているからだろうか。


「アリアさんは…元気…じゃないんですか?」


 なんというか、普段よりも表情が重いように感じた。


 普段のアリアさんからは感じない雰囲気を僕は感じたのだ。


 何故そう思ったのかと聞かれれば困る。言うなら何となく、だ。


「元気…じゃないかも。寝起きだしね」


 ふふ…と笑うアリアさん。なんだか流されてしまった。


 それとも本当に僕の思い過ごしなのだろうか。


「そんなことより、お風呂入ってなかったね」


「え、あぁ確かに」


 そういわれてみればそうだ。


 僕は寝落ちしてしまったせいでお風呂に入りそびれている。


 改めて体を触ると少し汗でべたついている。髪は…まぁ言うまでも無いだろう。


「実は私も釣られて寝ちゃってさ、お風呂はいってないんだよね」


「そうなんですか…?」


 と、言っているが、僕と違い服装が昼間と変わっている。


 着替えるだけ着替えて眠ってしまったのだろうか。


「一緒に入ろうか」


「……わゃ!?」


 発音した事のない言葉が出た。


 本来、何言い出すんですか!?と、夜中でなければ大声を上げている所だった。


 いや、そもそも山奥の古民家なのでご近所迷惑とかはないのだが、それでもやはり夜中に大声を出すのは如何なものかと思い、踏みとどまった。


「何を言い出すんですか…?」


 代わりに僕は、努めて理性的に、努めて静かに言った。


 その冷静さとは裏腹に僕の心臓はバクバクと音を立てて、生きてきた中で一番元気に脈を打っている。


 つい、アリアさんの全身を目線が走る。


「いやさ、そういえば一緒に入った事なかったなぁって」


「あるわけ無いでしょう!?」


 限界だった。もう普通に、常識など忘れて夜中に大声を上げてしまった。


「なんだ、湊音くんは私と入りたくないんだね」


「入りたいです!」


 ……あれ?


 しまった…理性より先に口が動いてしまっていた。


 チクショウ…本能と口め…グルだったのか…


「やったね。それじゃ行こうか」


 そういってアリアさんは僕の手を引き、脱衣所まで連れていった。


 僕の心臓をより一層、早さを増していた。

お付き合い頂きありがとうございました。

少しでも楽しめましたでしょうか。

今後の糧になります。感想、評価等よろしくお願いします。

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