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19話「決着」

ページを開いて頂きありがとうございます。

あじたにと申します。

温かい目で見守って頂ければと思います。

一応かけた。どうかな

【19話】



「チョーカーを外せ」


 そう言われ、ナイフを突きつけられた天使はしばらく黙った。


 自身の命が手玉に取られているというのに、その天使は変わらず冷静であった。


 気色の悪い薄ら笑いは消えたものの、かえってそれが不気味ですらある。


 眼前に迫る漆黒のナイフ。その先端部を眺めながら天使は何やら思考を巡らせている様子だったが、何を考えているのかアリアにはわからなかった。


「もし、断れば?」


 愚問だった。


 というより、天使自身その問いかけに対してアリアがどのように答えるかなどは分かりきっていたような趣であった。


 では何故問うたのか?いわば確認作業のようなものだったのかもしれない。


「首を掻く」


 そのアリアの返答も、当然予想出来た物であった。


 というよりもこの場ではその答え以外存在しないのもまた事実である。


 湊音を救うためならば、アリアは天使の命など簡単に奪えるだろう。もっとも、その対象が天使でなくとも同じことなのだが。


 それほどまでにアリアの決意は固まっていた。


「そうですか。そうでしょうね」


 仕方がないというように、次の言葉を発した。


 そしてそれは、アリアの予想していなかったものであった。


「今、外しました。もうこれであの少年が衰弱死することはないでしょう」


 質の悪い冗談だとアリアは思った。


 口先だけではいくらでも言える。というが、今まさにその言葉を使いたい気分だった。


「…やけに素直だね」


 依然として突き出したナイフを下ろさない。


 アリアは天使という生き物をまるで信用していない。


 コイツらは正義という目に見えない概念を追い続けるいわば狂信者であるとアリアは考えている。


 正義を執行するという大義名分で己の行動を正当化する。ご都合主義者。


 今回の湊音を殺害しようとするのもそれだ。多数の人間を救うためという耳障りの良い言葉を盾にして、一人の幼気な少年を殺すことを善しとしている。


 そう、天使とはそういう生き物なのだ。


「信じなければ結構。早く殺しなさい」


 天使は光剣を下ろした。正しくは空中に霧散させたのだが、ともかく敵意が無い事を証明するかのように戦う武器を手のうちに下げたのだ。


 それを見たアリアはやはり困惑する。


 湊音に取り付けられた、命を吸い取るチョーカー。本当にそれは外されたのだろうかと思考する。


 見た所、目前の天使に敵意や戦意は見られない。側だけを見ればそう思える。


 だがやはり信用できない。今この場を凌ぐ為だけの噓八百なのではないか?


 と…まとまらない考えを形にしようとしている時、散らかった思考を片付けようとした時、アリアの頭にある信号が届いた。


 それは、湊音の首元に着けている三匹のコウモリのうち一匹からのものであった。


 かつて湊音が吸血鬼に襲われた際に、その危険をアリアに伝えたコウモリ。


 前回の時と同じように少年の現状を二人の間に繋がる信号を飛ばしたのだ。


「……わかった、信じるよ」


 そのコウモリからの情報伝達を察知し、内容を把握したアリアは天使の発言を信じる事にした。


 何故なら、湊音のチョーカーの消滅とともに容態が回復しているとコウモリから伝えられたからである。


 一瞬、それを疑わないアリアでは無かったが、他の誰でもない自身の分体からの報告では疑いようもない。


「…そうですか。それは何よりです」


 唐突に自分を信じた吸血鬼に対し、天使は違和感を感じてはいたが、それをわざわざ掘り下げてるのは悪手であると考えた。


 ここで話を引き延ばして出血多量で死んでしまっては元も子もない。


「さっさと失せな。もう二度とその顔見せるんじゃないよ」


 吸血鬼は言う。それは心の底からの本心であった。


 その発言と同時に、周囲を球状に包囲していたコウモリ達はアリアの元へと戻っていった。


「それはどうでしょうね。この場では手打ちとしますが…」


 またひょっこりと顔を出すかも。と言い天使は再び薄ら笑いを浮かべた。


「やっぱここで絞めとくか」


「ははは、もう遅いですよ!」


 天使は大きく翼を広げて飛び上がった。


 背中からぽたぽたと血が零れ落ちている。それほどに背中の傷は深かったようだが、その事を忘れてしまうほどの高笑いをしている。


 やっぱり天使は嫌いだ。とアリアは再度思った。


「しかし、吸血鬼さん。アナタはあの少年をどうするつもりですか」


 その問いかけは、過去にエルにもされたことがあった。そろって同じ質問をするとは…やはりエルも紛いなりにも天使の血を引いているのかなぁ。とアリアは思う。


 もっとも、エルは天使の子ではなく堕天使の子なのだが。


 しかし、同じ文言であってもその質問の意味合いが全く違うことをアリアは理解していた。


「さぁ、こればかりはあの子の問題だからね。私は最低な結果にならないように寄り添ってあげるだけだよ」


「…後悔する事になりますよ」


「何年生きてると…今更後悔が怖くて生きてけるかっての」


 アリアは早く帰れと言うように手を払った。


 それを受けて天使もまた、はいはい分かりましたよと言うようにため息を吐く。


「では、さようなら。アナタ達が道を踏み外した時にまた現れます」


「捨て台詞の割にはカッコつけすぎじゃない?」


「…私、貴方の事嫌いです」


「両想いだ、やったね」


 そうして、天使は何とも苦い顔をして飛び去って行った。


 最後の最後までアリアのペースに飲み込まれていたので、本人としては面白くなかっただろう。


 だがそのような事はアリアにとってはどうでもいい事だった。


 問題は湊音の容態だ。


「すぐに戻らなきゃ」


 そうして一悶着を片付けた吸血鬼は、その黒く分厚い羽を広げ古民家へと帰って行った。


 事が済んだ後の見晴台は、再び自然の音以外が響かない心地のよい静寂を取り戻していた。


 ただ、天使の血痕のみを残して。



ーーーーー



「っ…」


 翼を動かすたびに痛む背中をさすりながら、天使は空を飛んでいた。


「やれやれ…あの吸血鬼さん、そうとうやり手ですね…」


 まさか自分がああも簡単に負けてしまうとは。と天使は思い返す。


 なんどか吸血鬼と戦闘になったことはある。だがああも特性を上手く使いこなしているのはアリアだけであった。


 と、いうよりもアリアという吸血鬼が少々特殊であるのだが、天使はその事を知らない。


「しかしあの少年…」


 吸血鬼が大切に扱っていた少年ならついて少し考える。


 天使が悪だと、救えない悪性だと断言した少年。


 そしてアリアもまた、それを否定することはしなかった。


 それは何故か。


 何故、湊音は救えぬ悪なのか?


 何故、天使は排除するべきと考えたのか?


「あんな子供が悪魔の母胎とは…」


 少年の体内には悪魔がいる。


 否、生まれようとしている。


 今も着実に少年の中で、外に飛び出るのを今か今かと待ち侘びている。


 その事を本人は知らない。

お付き合い頂きありがとうございました。

少しでも楽しめましたでしょうか。

今後の糧になります。感想、評価等よろしくお願いします。

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