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13話「連休」

湊音みなとくん!!今日からゴールデンウィークだよ!GW!!!」


 布団の中で心地のいい眠りについていた僕は、そんな騒がしいアリアさんの言葉で目を覚ました。


 そうか、そういえば今日から四日間の長期休みだったか。


 例の黒い吸血鬼の件やら副委員長の件でとすっかり忘れていた。


「おはようございますアリアさん、元気ですね」


 未だ覚醒しきらない体を無理やり起こし、まだ寝ていたいと訴える瞼を手で擦りつける。


「なにせ貴重な長期休みの初日だからねぇ!さぁ湊音くんどこに行こうか!何して遊ぼうか!」


「宿題します」


「なん…?」


「宿題します。四日間休みって事でたんまり出されたんですよね」


「そんなぁ!湊音くんと遊びたいよー!!」


 そう言いながら駄々をこねる。


 どうしていきなり精神年齢が低下してるんだこの人。


 …いや、最近はふざける場面が少なかっただけで意外とこんなものだっただろうか。


 僕はベッドから足を出し、部屋の椅子に座るアリアさんと向き合った。


「そう言われましても…中間テストも近いですし勉強しなきゃ」


 それを聞いたアリアさんは少し考え込むように唸る。


「…よしわかった。宿題は今日一日で終わらせよう私が協力する。だから残り二日は遊ぼう」


「話聞いてましたか!?中間もあるんで宿題終わっても勉強しなきゃなんですって!!」


 今回の中間テストは良い点数を取りたい。


 去年の僕は勉強なんてする気になれず、赤点ギリギリの成績を連発していた。


 学年が一つ上がった今、それを少しでも挽回したいのだ。


「中間もテスト一週間前に私が付きっきりで教えるからさ!大丈夫だって!だから勉強なんてしないで私と遊ぼうよ!」


「どんだけ遊びたいんですか!?」


 こんなにテンションが高いアリアさんは初めて見た。


 この家に来てから初めての長期休みに心が躍っているのだろうか。


「湊音くんは遊びたくないの?」


「それはぁ…」


 当然遊びたいに決まっている!


 なによりアリアさんと過ごすゴールデンウィーク!!楽しみでないわけがない!!


 だけど、僕は勉強して少しでも良い成績を取らねばならない。


 それは、母が亡くなってから僕のために一生懸命に働いてくれている父のために少しでも良い高校に入り、安心させて上げたいから。


 そう考えて少し表情が固くなっていただろうか、アリアさんが僕の顔を覗き込んできた。


「…どうしたの?」


「へ…?あ、いやなんでも!」


 その返答を受け取ったアリアさんは僕の顔をジィッと見つめてきた。


 僕の考えていることを、悩んでいることを探るように見つめてきた。


「そっかぁ、どうやら意思は硬そうだね」


 腑に落ちた様子で少しため息を吐いた。


 その吸血鬼お姉さんが何を理解したか、僕には少しわからなかった。


 僕の勉強をするという意思が硬い。というのもそうだろうが、それよりも何か深い部分を読み取られたような気がした。


「そ、そうですよ。勉強しなきゃですから」


 と言ってみたが、なぜかアリアさんの目が据わっている。


 何かを決心したようにこちらを見つめてくる。怖い。


「そうだよねぇ……なら、宿題は今日中に終わらせないとね」


「はい…なんで、朝ごはん食べてからやります」


 なんだろう、何を考えているんだろう。


 アリアさんは僕の考えてる事を大体当ててくるのに、僕の方はちっともわからない。なんだか不公平だ。


「わかった、なら朝ごはんにしようね。宿題は私も手伝うから、休憩挟みつつやろうね」


「あ、ありがとうございます…?」


 急に素直になった。


 ただ遊びに行くのを諦めたという様子でも無いのが不気味だ。


 アリアさんが部屋から出る時に小さくフフフと笑っているのがもう確信的だ。


 一体どんな悪巧みを…


 そう思いながら僕は顔を洗いに行くのだった。



ーーーーー



「ふぅ…終わっっったぁッ!!」


「お疲れ様ーー!!!よく頑張ったねぇ!偉い偉い超偉い!!今この世で一番頑張ったのは湊音くんだ〜!」


 もうめちゃくちゃに頭を撫でてくれる。


 髪がぐしゃぐしゃに…わぁ…


 いつもの様に必要以上に褒めてくれる。すごく嬉しいんだけどやっぱり照れ臭い。


 というか先ほどの不安は何処へやら、アリアさんは普通に宿題を手伝ってくれた。


 休憩の合間には一緒にゲームしたり軽食を作ってくれたりもしてくれて、非常に理想的な形で宿題を終える事が出来た。


 そうしているともう外はすっかり暗くなり、そろそろ夕食時かなという時間だ。


「アリアさんのおかげで初日に片付けれました!ありがとうございます!」


「湊音くんが頑張ったからだよマジ世界一偉い」


「ありがとうございます」


 僕は何度もアリアさんに世界一の称号を貰ったのかわからない。


「さて、それじゃ行こうか」


 アリアさんは立ち上がり、何処に隠してたのかかなり大きい鞄を二つ持ち出した。


「え、何処に…というかその荷物は…?」


「湊音君を今から連れ出します」


「へ…??」


 そう言い放ったあと僕は軽々と抱き上げられ、お姫様抱っこされる。


 ひゃぁ…アリアさんの顔が近い…アリアさんのお顔は間違いなく宇宙一だよ……いやそうじゃなくて。


「少し田舎の方まで行くからしっかり捕まっててね」


 ちくしょう!さっきの悪巧みはこれだったのか!!


「え本当に今から!?今って今!?」


「そうだよ」


 アリアさんはニコリと笑って窓から外へ出る。


 すると大きな黒い翼を目一杯に音を立てながら広げ、豪快に羽ばたいた。


 やっぱりカッコいい羽だなぁと咄嗟に思ってしまう。


 日が落ちてからどれほど経つだろうか。冷ややかな風が肌を伝った。


「さぁ飛ばすよ!なぁに、チケット代はタダでいいからね!特別料金だ!!」


「ちょちょっと待ってくださぁあああああ!!」


 その後、僕とアリアさんは快適な空の旅へと繰り出した。


 怪我をしたエルを運ぶ為に一度だけアリアさんの飛行を体験したが、あの時とは全く違う。


 飛んでいる時に体中を風が強く撫でて行き、風圧で髪はバサバサと乱れる。


 ただ、アリアさんのコウモリたちが僕の体がおっこちない様に支えてくれたり、風圧も少しだけ軽減してくれたりとやっぱりアリアさんらしい気遣いは感じられた。


 それもあり、怖くは無かった。


 というよりも胸の内がなんだかうずうずしてくる感覚だった。


「どうかな湊音くん!?」


 そう言われて気がついた。


 すごく楽しい。楽しいのだ。


 超速で変わる風景や、縦横無尽に空を駆け回るその体験は僕の心を大きくくすぐる。


 先ほどまで勉強していた性もあり、身体中に開放感が駆け巡る。


 その感覚に思わず身が震え、大きな声を出してはしゃぎたい気分だった。


「めちゃくちゃに最高です!!」


「よぉうし!ならもっと飛ばすよぉ!!」


 やっぱりアリアさんは優しい人だなと鳥の速度の中、実感した。


 アリアさんは僕に楽しんで欲しかったんだなと、ゴールデンウィークを沢山味わって欲しかったのだなと理解した。


 その為にわざわざ宿題をお手伝いしてくれ、早々に家から連れ出してくれた。


 本当にこの人の過保護には良い意味で驚かされてばかりだ。


 きっとこのゴールデンウィークの四日間は素晴らしいものになるに違いない!


 僕は荒々しい風と、アリアさんの低体温を感じながらそう思った。



ーーーーー



 ほぼ同時刻だろうか、一体の存在がその光景を目にしていた。


 アリアと湊音が空の彼方へと消えていく瞬間を、目にしていた。


「人を探しに来てみれば、何やら穏やかじゃない」


 その男は一人静かに夜の道を歩いている。


 華麗に、優雅に、美しく。


 背丈は180を少し上回るだろうか、歩みを進める足はすらりと長い。


 透かせるほどに薄い金髪に、映るもの全てを輝かせる青い双眸。


 白を基調とされた身綺麗な衣装を見に纏うその姿は、夜の住宅街にはややふさわしくない。


 そんな男が、空闇に消えたアリア達の通った空間をぼやっと見つめながらため息を吐く。


「この世は悪に満ち、正しくない。善き者は存在せず、美しくない。だからこそ救済する」


 男は憂うように言葉を落とす。


 日も完全に沈み街灯の薄ら灯りのみを頼りに歩みを進めながら口を開く。


「だが生まれながらの悪は頂けない。居ただけで、いけない」


 誰に言ったのか、自身の存在を確かめる様に声を出すその表情はとても立ち姿の美しさからは想像出来ない奇妙なものだった。


 立ち止まりアリアらが飛び去った方角を確認し、最後に一言をポツリとこぼした。


「悪は裁かねばならない」


 その悪が何を指すのか、まだ知る者は居ない。

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