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12話「放課後」

ページを開いて頂きありがとうございます。

あじたにと申します。

温かい目で見守って頂ければと思います。

 時は少し戻り、湊音がアリアに血を差し出した少し前のこと。


 エルはクラスメイトの女子三人から裏庭へと呼び出されていた。


 三人のうち一人は先日、掃除当番で同じだったのだがエルはその事を覚えていない。


「こんな所へ呼び出して何の用?もしかしてリンチかしら…怖いわね」


 などと微塵も恐れていない様子でその天使もどきは言葉を吐き捨てる。


 それを聞いた三人の女子生徒は頭に血が溜まった様子だ。


「本当に舐めた口を聞くね。なんで呼び出されたかわかってるの??」


 一人の女子生徒が苛立ちを隠しきれない様子で言った。


 それに対してエルは金髪を耳にかけ、目を逸らすことなく反論する。


「さぁ、心当たりがないわね」


 本当に心当たりが無い様子をみて、一人の女子生徒はわざと聞こえる様に舌打ちをした。


「湊音くんとどういう関係?この子が彼のこと好きなの知らない訳ないよね」


 エルは目を細めた。


 まさかあの虚偽の塊である湊音を好く人間がいたのかと内心で驚いたからである。


 今でこそエルと話す時はマシになったものの、依然として彼は周りの空気を読み本心を隠し無難に学校生活を過ごしている。


 もっとも湊音本人はその悪癖から脱却しようと足掻いているのだが…


 エルはそんな少年を異性として微塵も好意に思っていないため、目前の女子が湊音に思いを寄せていることが違和感であった。


「知らなかったわ。にしてもアンタ見る目ないのね。あの子ろくな人間じゃないわよ」


「馬鹿にしないで、お前に湊音くんの何がわかるの」


そっくりそのまま言い返してやろうかとも思ったが面倒臭いのでやめた。


 それよりも彼女らが湊音の何を好いているのが気になったので試しに聞いてみる事にした。


 エルという堕ちた天使の悪趣味なところである。


「へぇ、じゃあ聞かせて欲しいわね。あの子の何が良いの?」


 こうも生意気な奴相手に言わなきゃならないのかと女子生徒は内心思ったが、自身の恋心を馬鹿にされたような気がしたので言ってやる事にした。


「……周りを見てて気配りが出来るとこ、優しくて常に笑顔なとこ、嫌味とかマイナスな事を一切言わないとこ」


 聞いたエルは吹き出しそうになった。


 あぁ可笑しい、彼の性格も見方を変えれば美点になるのね。エルは心の中でそう思った。


 しかしそれと同時に胃の中から反吐が沸き出てくる思いだった。


 湊音の事を好きだと、好意的だと言っているにも関わらず全くもってその本質を理解していない。


 湊音という人間の根元を見ようとしていない。


 女子生徒らは、例えるならば桜の花びらだけを見て綺麗だと思い、土で汚れた根っこに気づいていない。


 コイツらは湊音の花びらしか見ていないのだな。


 そう思ったエルは、途端にやる気が無くなってしまった。


「あぁ、そうなんだ」


 その覇気のない返事を聞いた女子生徒は何故か得意げになり、声高らかに好き勝手口を開いた。


「そう!如何に私が湊音くんを好きかわかった?」


「ええ、わかったわ。素敵ね」


 なんとも適当な返事である。


 自分から聞いておいてエルはすでに興味や関心を失っている。


「だからアナタみたいな人と湊音くんが委員長とか一緒にやるのが堪らなく嫌なのよ」


「確かに、嫌かもしれないわね」


 言いながらエルは自分の爪先を確認し、そろそろ切らなきゃなと関係のない事を考えていた。


 その態度が気に入らなかったのか、湊音の事が好きだと言った女子が突然興奮気味に声を上げた。


「わかったなら委員長とか辞めてくんない!?不愉快なんだけど!!」


「関係ないわよね、それ」


 突然の大声に一切動じる事なく言った。


 少なくとも他二人の女子生徒は目を見張るなり、体を震わせるなりの反応を見せたがエルには一切無かった。


 感情の制御を破棄したヒステリック程度でエルという少女は狼狽えたりしなかった。


 変わらぬ様子で続けて言葉を紡ぎだす。


「私と湊音はただの良き友人。ただ恋愛感情は微塵も無い。だからアナタは安心してあの子に思いを寄せると良いわ」


 その恋が実る事は無いだろうけどね。とエルは心の中で呟いた。


「は…?なにそれ…人の話聞いてた?だから不愉快だからやめろって言ってんの!!」


 その返答を聞いたエルは少し考えた末に、軽くため息を吐いた。


「あぁ、もう良いわ。やめにしましょう、時間の無駄だわ」


 感情的になった人は合理的な判断が出来なくなるというのがエルの考えだった。


 ならばこれ以上言葉を交わしたところで話にならない。会話に、対話にならない。


 このままではきっと言葉の殴り合いが始まってしまう。それは会話とは程遠い行為であるとエルは理解していた。


「待ちなさい!何よ、自分の事を天使だとかぬかして気持ち悪い!アンタが天使な訳ないでしょ!?このクズ!!」


 立ち去ろうとしたエルの背後から、もはや話の論点とは関係ない罵倒が飛んでくる。


 普段のエルであればそんなものは意に介さず流してしまうのだが、今の彼女にとっては致命的な言葉のナイフであった。


「…よく聞こえなかったわ。もう一度、私の目を見て言ってくれないかしら」


 エルは真っ直ぐに女子生徒を見据えた。


 ただ目だけを見るのではなく、心の奥底を視るかのように。


 表面の感情ではなく、奥底に潜む深層心理を見透かすように。


「はぁ…?なんでまた言わなきゃ…」


 それに対して女子生徒は目を逸らす事はしなかった。だがそれは形だけであり、見てるだけである。


 その実、心では目を背けていた。


「アナタは背後から石は投げる事が出来ても正面から投げる事は出来ない、何故なら投げ返されるのが怖いから。案外臆病なのね…?」


「なに…?アンタ一体なんなの??」


 その問いに対して彼女は一年前から言い続けた台詞をもう一つ、言い放つ。


 慣れた様子で、言い放つ。


「私は天使よ」


 ただ…と彼女は付け足して、困惑する女子生徒に向かって小さく言った。


「少し、根っこが汚いけれどね」


 そうしてエルはその場を立ち去ろうと背を向け歩き出した。


 三人の女子生徒達はそれをただ見送ることしか出来ない。十分な敗北感を認識していたからだ。


 女子生徒は別に、舌戦で言い負かされたとは微塵も思っていない。思えない、思いたくないだろう。


 だが、エルという人物の立ち振る舞いに心根で屈していた。


 結局のところ、この場に置いては最後に胸を張っていた方の勝利者であるとエルは理解していたのだ。


「あ、そうだ」


 エルは立ち止まり、満面の嫌味っ面を浮かべてこう言った。


「湊音は大人びた人がタイプよ、残念だったわね」


 その言葉を聞いた女子生徒が喚き散らしたのは言うまでも無い。

お付き合い頂きありがとうございました。

少しでも楽しめましたでしょうか。

今後の糧になります。感想、評価等よろしくお願いします。

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