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9話「正体」

ページを開いて頂きありがとうございます。

あじたにと申します。

温かい目で見守って頂ければと思います。

 エルの目が覚めてから少しの時の時間が経過した。


 みんなで僕が作った夕食を食べながら談笑している。


 ちなみに作ったのはカレーだ。辛いのは苦手なので甘口、隠し味にはコーヒーを少し加えてある。どうやらアリアさんが好きだと言うので入れてみたのだ。


 二人とも美味しいと機嫌良く口に運んでくれているのでとても嬉しい。


 アリアさんはともかくエルに褒めて貰えるのは意外で嬉しかった。


 その事を本人にそれとなく伝えると『給食のカレーより美味しいわね』と評価をもらった。


 そこで今日のお昼もカレーだった事に気づいた。アリアさんの好みを把握してしまったばっかりに…くっ…


 先程のエルからの評価はちょっとした嫌味半分本心半分なのだろう。


 などと会話を広げている中、ふと少女がこんな疑問を口にした。


「そういえばアリアさんは吸血鬼ですよね?なのに人と同じものを食べるんですね」


「あ…本当だ…」


 確かにそうである。


 今夜襲ってきた吸血鬼は当然、僕らの血液を求めていた。


 やはり一般的なイメージ通り吸血鬼という生き物は血を主食にして生きているのだろう。


 しかし、アリアさんはどうだろう。


 僕は一か月という短い期間ではあるが、彼女が血液を食している所は見かけなかった。


 そもそもこの家にはアリアさん以外には僕しかいない訳で、必然的に血を取ろうと思えば僕から摂取する形になるのだろう。


 だが、吸血された覚えはない。


「それはほら、私は普通の食事からも栄養取れるんだよ。そこいらの吸血鬼とは出来が違うからね」


「そうなんですね。というかアンタは知ってなさいよ。同居してるんでしょ」


 エルは吸血鬼としての特性よりも、あまりに無知な僕に対しての方に驚いている様子だった。


 全くもって不甲斐ない。不思議にすら思わなかったなんて…


「ちなみにニンニクとか十字架も平気。こう見えても結構すごいんだぞぉう!」


「という事は一般の吸血鬼には効くんですか?」


 アリアさんの口ぶりからして、つまりはそういう事なのだろう。僕は確認の意味も込めて聞いてみた。


「効くねぇ…ニンニクはすり潰して目に投げればしばらく動けなくなるだろうし、十字架で殴ればそらもう足腰立たなくなるよ」


「物理」


「そう物理」


 なんか思ってたのと違う…まぁ効果があるというなら頭に入れておいた方がいいだろう。


 また襲われないとも限らないしね…やだなぁ…怖いなぁ…


 この時、エルは何やら考え込むような表情を見せていたけど僕は声をかける事はしなかった。


 彼女ならば言いたい事、聞きたいことがあれば迷わずに発言するはずだ。


 しかしそれがないと言う事は表に出したい用件ではないと言う事……だと思う。


 これも僕の悪い癖なのだろうか…気になったらハッキリと聞いた方が良いのだろうか。


 しかし、聞かれたく無い事を無理に聞くのはただの自分勝手なのでは無いだろうか…


 結局友達になりたいのも伝えれてないし…いつまでも足踏みしてちゃ駄目なのは分かってるんだけど、どうにも最初の一歩が出ない。


 むむ…どうにか頑張らなくっちゃ…


 とかなんとか考え事している間にも会話の話題は一巡したようで、この場には新たな会話が生まれていく。


 僕はそれを聞きつつカレーを口に運ぶ。


 コーヒーちょっと入れすぎたかな…なんだか苦いや…



ーーーーー



「どう?湊音くんのお手製料理、絶品だったでしょ??」


「美味しかったです」


 吸血鬼の戯言に天使がキレ良く返答する。


 三人での食事を終えた後、アリアは天使の少女を家まで送る事になった。


 お泊まりという選択肢もあったが、明日が学校である事と家の人が心配するだろうという事で帰宅する事に話がまとまった。


 現在は湊音の家を出て少し歩いた所、アリアが聞いた話によるとエルの家までは10分の距離らしい。


 短い距離なのでエルは付き添って貰わなくて良いと言ったが、念の為という事でアリアが送ることになった。


 ちなみに湊音はお留守番である。


「さて、そろそろ聞こうか。何か私に言いたい事あるんでしょ?」


 湊音の家を出てから三分程歩いた頃合いだろうか。


 吸血鬼は先程までの温和な雰囲気を忘れ去り、一風変わって真面目な眼差しを天使の少女へと向けた。


 唐突に向けられた問いに対しエルは少々戸惑いを見せたが、一呼吸おいてすぐに落ち着いた。


「…気づいてたんですね、アリアさん」


「敬語は良いよ。その方が天使ちゃんも調子出るだろうしね」


 エルに対し面と向かって『天使』と呼びかけたのは初めてだった。


 それはある種の気遣いか、一個体の生物として対等に扱うのか、何故アリアが天使呼びを控えていたのか心意は不明である。


 エルは吸血鬼の提案に対し一呼吸置き、落ち着いた調子で言葉を述べた。


「ありがとう、その好意に甘えさせてもらうわ。さて、それじゃあ単刀直入に聞くけれど」


 天使の少女は歩く足を止め、疑問を口にする。


 彼女が先程から抱き続けながらも喉元で我慢していた質問を、口にする。


「貴女は彼をどうするつもり?」


「その質問の意図を聞きたいな」


 アリアは珍しく神妙な顔持ちを見せた。


 天使の少女はおそらく、吸血鬼であるアリアが湊音の事を…例えば捕食したりだとか、何かしらの危害を加えると思っているのだろう、だがそれは今まで二人のやり取りや態度を見ていればあり得ない事だとわかるはずだ。


 だからこそ、吸血鬼は疑問に思った。


 それがわからないエルでは無いと彼女も理解していたからだ。


「今日、彼からは邪悪な気配がした。最初は悪魔だと思ったのだけれど違った。本当は吸血鬼である貴女の気配だったのよ」


 その『悪魔』という単語に吸血鬼は僅かに反応したが、本当に些細な事だったのでエルはその事に気付かなかった。


 というよりも、その話を聞いて浮かんできた疑問があった。


「悪魔と吸血鬼の気配を間違えたの…?」


 アリア自身は吸血鬼であるため、天使についてはそれほど詳しい訳では無い。


 だが彼女には吸血鬼として長い年月を生きた知識がある。当然、エル以外の天使とも顔を合わせた事があるため最低限の情報は知っている。


 そう、どんなに未熟な天使でも悪魔と吸血鬼の気配を間違えたりはしない。それは天使に取っては本能でわかるモノだから。


 そもそも天使とは人々に害を及ぼす悪を滅する使者。


 そして悪魔とはその滅するべき悪の体現者。


 それをどうして間違える事が出来るのか、アリアには理解が及ばなかった。


 以上の疑問を問いかけるため、続けて口を開いた。


「普通なら間違えるはず無いと思うけど…?」


 再び問いかけると目前の天使は何ともバツの悪そうに問いに答えた。


「私は天使の人間の間に生まれたハーフ、だから普通の天使よりも鈍いのだと思うわ」


「へぇ…そうなんだね」


 その発言にアリアは耳を疑ったのは言うまでも無いだろう。


 天使と人間の間に生まれた子。


 それが何を意味するのかを吸血鬼は知っていた。


 天使と人間が愛し合う。


 その事の重大さを吸血鬼は理解していた。


 だが、この()()()使()は理解していない…否、発想に無いのだろう。知らない事柄は理解しようがない。


 アリアは迷っていた、この事実を伝えるべきかどうかを。


 エルという人物とはこの日に初めて出会ったし、とても親密な関係とは言えないだろう。


 しかし、アリアはこの少女の事を既に好意的に感じてしまっている。


 湊音から聞いた話と実際に会話をする中で、その自称天使の女の子がどのような性格で、どのような心情を持っているのかもある程度理解したつもりだった。


 そんな少女に、重大な事実が分かっていながら口を紡いでおく事が果たして正しいのだろうか。


 黙っておく事、話してしまう事。


 どちらが善で悪なのか、どちらが正で否なのか。


「…ちなみに今、両親は?」


 吸血鬼の低体温の肌に冷や汗が一筋流れ出る。


 嫌な予感がしていたからだ。


 どうか当たらないでおくれと、滅多にしない神頼みまでしてしまうほどに。


「亡くなったわ。私が小さい頃に事故でね。今は母方の祖父母にお世話になってるわ」


 淡々と答えた。少しの気を落とすことも無く、ただ事実を言い放った。


 アリアの予感は当たった。


 そうして深く考え込んでいる。


 その様子にエルも疑問に思ったようで顔色を伺っている。


 この間、その吸血鬼が何を思い、何を考え、どのように決意を固めたのかは不明だ。


 だが一つ言えることは、これからアリアが伝えようとしている事実は、何よりも正義を重んじそれを生きる指針としてきた少女にはあまりにも酷だということである。


「よく、聞いてね。エルちゃん」


「…はい?」


 アリアは真っ直ぐに少女を見つめる。


 それは彼女自身が出せる最大限の寄り添いだった。


 そして、彼女もまた淡々と事実を述べるように言い放った。


「君は、堕天使の娘だ」

お付き合い頂きありがとうございました。

少しでも楽しめましたでしょうか。

今後の糧になります。感想、評価等よろしくお願いします。

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