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2話 ドーパミン中毒

 トントントン。

 廊下から誰かが歩く音がする。

 ここ石山高校の図書室は校舎の外れに位置することと、そもそも図書室であるために雑音が少ないということもあって、廊下を誰かが歩いていたらそれが図書室にいる人に伝わってしまう。

 その音で僕こと君嶋蒼は彼女が来てくれたんだと思い、バラエティのドラムロールのような気持ちで待ち受ける。


ガラッ

 図書室のドアを開けた音に、今やっと気づいたかのように僕は顔を上げる。そこには、いつも天真爛漫で楽しそうな彼女ではなく、どこか悲しげでいかにも悩んでますとこちらに伝えてくる彼女がいた。


「はーーーーーー。」

 肺活量を測定しているのかと思うくらい大きなため息をつきながら、彼女は図書室の受付の僕の横の席に座る。


「・・・・・。」

「・・・・・。」

「・・・・・。」

「はーーーーーーーーーーー。」



 先程よりもさらに深いため息をつき、あごに手を置き、僕の方をちらちらうかがってくる。

 これは・・・・。どっちだ? 聞いた方がいいんだろうけど、あえて泳がせておいた方がよいのでは? 何となく面白そうだ。どこまで深くため息を吐けるのかが気になる。

 そんなどうでもいいことを考えていると、色々めんどくさくなったのだろう、彼女はキッと僕をにらみつけて言う。


「ねえ。こんな美少女が物憂げな表情でため息を吐いているんだから、どうしたの?のひとことぐらいあってもいいじゃないの?」

「美少女というより、美女だね。」

「いや、嬉しいけど、本筋と違う。」

「嬉しいのか。つまり藤崎さんは可愛いって言われるより綺麗って言われる方が嬉しいんだね。」

「おいおい。どこまで本編からそれようとするの? ゲームで本編を後回しにしてレベル上げとかサイドストーリーとかやって、結局本編やらずに積みゲーにしちゃう人かよ。」

「えらく具体的だね。藤崎さんの体験談?」

「そうなんだよ~。最近のゲームってオープンワールドでやりたいことは自由です。って触れ込みのはずなのに、メインはそこまで重厚じゃなくてどっちかっていうとサイドストーリーしてる方が時間かかっちゃうんだよね~。」

「そうだんだ。藤崎さんとかゲームのすべてをやりこまないと完了ってしなさそうだよね。トロフィーフルコンプとか、レベルマックスとか。」

「それはそうだよ! ゲームを買ったからにはすべてやりこまないと失礼だよ!!でもこれもまた悩みなんだけど、二周目必須な内容がトロフィーの項目に入っていると萎えるんだよね。いやいや、ゲームの本編に沿ったことでトロフィー用意しようよ!、なんで強くなっただけの知った敵をもう一回倒さないといけないんだよ!!とかさー。」

「うんうん、わかる。そもそもダウンロードコンテンツも謎だよね~。

100%売る側の私情だし? 確かにそうやった方がお金も入るし、長い間やってくれるし、製作の締め切りも伸びるしで、売る側としてはいいことづくめなのはわかるけど、買う側としてはたまったもんじゃないよね! いやいや、最初から全部入れてよ!みたいな~。」

「そうそう!! 私もそう思ってた! 昔はよかったよ。ゲーム自体も安かったし、容量の制限からやれることも少なかったけど、その中でも工夫された音楽や、一本の映画を見ているようなストーリーがあったしさ 今は何かとやれ映像がきれいだ!とかやれ音楽がオーケストラで!とか。そういうのも大事だけど!! それ以外にも大事なものがあるじゃん!!」


 机をバンバンたたきながら、ゲーム愛?を熱弁する彼女。

 こんなにゲームを愛していたとは知らなかった。普通にゲーマーっぽいぞ。


「藤崎さんってゲームするんだね。ちょっと意外だよ。」

「普段はあんまりしないんだけど、やりたいと思ったゲームがあると夜中の四時くらいまでやっちゃうんだ~。」

「うはー。それは大変だね。学校とか辛いんじゃない?」

「そうなんだよ・・・・・ってあーーーーーーー!!!」



 そこで、彼女は何かに気づいたかのように大きな声をあげる。

ここ一応図書室なんだけど・・・。

 ちらっと図書室を見渡すが誰もいなそうなのでそのまま話を続ける。


「それだよそれ! 私の悩み事!! よかった~。巧妙に騙されてサイドストーリーばかりやってたら急に本編につながる重要な手掛かりを見つけた気分だよ! やるじゃん!クリエーター!!」

「いや、いつから僕はクリエーターに?」

「ゲームクリエイターの才能があると思ったくらい、私の悩みとつながったからさ」

「えっとつまり藤崎さんの悩みはゲームが好きすぎるって話?」

「いや、ここまで来て察しがわるいな! 鈍感系主人公か?」

「僕は一体何者なの?ジョブチェンジしすぎじゃない?」

「ゲームやっててテストの点数が悪くなっちゃったって話じゃん!」

「それは自業自得なのではないでしょうか?」

「うーん。そういわれちゃうとそうなんだけど。。。私としては何度も止めようとしたんだよ?それでもあとここまで、あそこのセーブポイントまで、あのボスを倒すまで、って思って、気づいたら4時で・・・。というか、ゲームのセーブデータに保存されてた時間が4時ってだけで、実際には机に突っ伏してたんだけど。」

「おおっ結構やってますね。」

「それが1週間続いて・・・。」

「やばいほどやってますね。ってあれ? もしかしてこれって先週の話ですか?入学してからの実力テストがあった週の。」

「そうです・・・・。」


 この人すごいな。さすがの僕でも高校入学一発目のテストだから気合を入れて、いつも2時くらいまで本を読んでいるのをやめて、12時に切り上げて勉強していたのに。。

 僕がちょっと引き気味な顔をしていると、彼女は焦ったように早口でいう。


「いや、いつもじゃないんだよ? でも今回はストーリーも間違いなしのシリーズ物で、トレーラーも見た感じ最高の仕上がりになってたから、家に帰ってゲームはするけど早めにに切り上げて勉強しようと思ってたんだよ? だけど、やっぱり面白くて、ダメだダメだと思いながらも続きが気になって。ほら、こういうのって早めにやらないと、すぐ動画サイトでネタバレとかが上がっちゃうから、もっともっと早くって思って、だけど、難しいからレベルアップついでにサイドストーリーもなんだかやっちゃったりして、そしたらどんどんトロフィーもそろってくるから、何ならコンプしちゃおうかって思って、それでそれで・・。」


 語るに落ちるとはこういうことか・・。

 彼女が先程まで語っていた内容がこのゲームでの感想なんだろうなと僕は思った。


「とにかく!!! こんなゲームを創ったクリエイターが悪いんだ!私は悪くない。」

「結局そういう結論?」

「そうなのです。私は嘘と建前の世界に生きていきたい。」

「正論は聞きたくないってことだね。」

「はぁ~ 次のテストで復活しないとゲーム機が隠されてしまうんですよ。 ソウエモン~何かいいアイデアはないかな~。」

「しょうがないな~、美桜太君は~。そんな君にこの本をプレゼントするよ~。」

「おっでたね。待ってたよ。何々・・・・。ドーパミン中毒? 何これやばい薬の話?」

「中らずとも遠からずかな。脳内物質の一つのドーパミンは欲求、あれがしたい。これがやりたい。それが見たいときに脳の中に生成される物質なんですが、これが中毒になっちゃうと、やめずにやめれなくなってしまう、依存性が出てきてしまうんです。」

「ということは私のゲームも?」

「そうです。僕の読書もそうですし、ドラックやアルコールやセックス・食事・スマホなど、なんだかやりすぎちゃうなと感じる欲求なんかは、必ずドーパミンが出ていて、それが出すぎちゃうと、もっとやりたい、もっと欲しいくなってしまうんです。」

「おお、まさしく私の現象と同じだね。中毒者はどうすればいいのかな?」

「はい、ではこの本の紹介を踏まえまして、説明させていただきます。ゴホン」




『先程言ったようにこの本は様々ない依存症を見てきた精神科医の先生が書いています。そのため、本では依存性を経験したいろいろな人が出てきます。アルコール、セックス、スマホ、ドラックなどなど。そういった人たちを見た先生が感じたこと、学んだことを本に落とし込んでいます。ここではあまり具体的な患者のことではなく、もっと抽象化・一般化した内容をお話ししたく思います。

 依存症の説明としてシーソーが用いられています。人の心にはシーソーがあり、それぞれ苦痛と快楽が乗っています。人は無意識にシーソーを水平に保とうとします。つまり苦痛または快楽のどちらにも倒れていない状態です。この状態で何かの快楽を得るとします。その快楽は何でもいいのですが、一度快楽にシーソーが倒れこむと倒れこんだ分だけ、快楽を受けたその反動で、シーソーが苦痛の方にも傾いてしまいます。苦痛に苛まれるのはやはり嫌なので、人はシーソーをもとに戻そうとまた快楽を欲します。しかし、二回目の快楽は最初の時のように簡単に得られるものではなく、耐性がついてしまいます。なので、二回目の快楽を一度目より強く欲してしまいます。三度目、四度目に連れて。耐性がより強くなり、ちょっとやそっとのことでは快楽を感じられなくなり、ずっとそのことばかり考えてしまい、気づいたらやめれなくなってしまうのです。

 美桜さんのゲームも同じですね。最初の街では出来ることが少ないけど、何とかレベルを上げて、武器をそろえて、仲間を増やして、ボスを倒す。そこで一度目の快楽を感じます。じゃあ次はもっと強いボスを倒すために、もっと強くなって、お金を集めて・・・がどんどん続いてしまい、気づいたら寝る間も惜しんでゲームをやり続けてしまうんですね。

 では、どうやってこの負のスパイラルを断ち切れることができるのか?筆者は本の中で、いくつかの解決策を提示しています。その中でも僕がこれだったらできるっと思ったのは三つです。一つはそもそもその依存性のモノを物理的に遠ざける、セルフバインディングです。アルコール依存症だったらお酒を見えるところに置かない。ゲーム依存症だったらゲーム機を捨ててしまうという方法を取って、依存ができないようにする方法です。

二つ目はシーソーの話から、まず苦痛の方にシーソーを傾ける方法です。例えば、走ってみる、筋トレしてみる、サウナに行ってみるなど自ら苦痛を付与すると、快楽のスパイラルが一度リセットされます。藤崎さんも運動した後って、なんだか頭がすっきりして、悩んでたことや抜け出せなかったことを忘れられたりしませんかね。

最後は、もっと没頭できる世界を見つけることです。ゲームやアルコールなどではなくもっと夢中になれること、受動的ではなくクリエイティブなことをしてみることが大事です。本を書いてみたり、絵をかいてみたり、写真を撮ってみたり、何か主体的に自分が夢中になれることを一つだけでもあれば、人生が楽しく色鮮やかにななります。

以上が本の概要です。

僕はこの本を読んで逆に依存症になるのはそんなに悪くないことだと思いました。依存する対象がアルコールやドラックのように自分を害してしまう、それが悪いことだと思ってもやめられないことはやっぱりだめなことだとは思いますが、一方で、ゲームや恋愛などは節度はあるのにしろ依存的になることはいいことだと思ったからです。そのモノ、人に対して苦痛になるとわかっていても欲しい、時間を忘れて夢中になれることは素晴らしいことです。だからゲームを好きで夢中になってします藤崎さんが羨ましいと思いますし、本を読み続けて寝不足になってします自分もどこかで気に入っています。この本を読んでそんなことを考えているのは変かもしれませんが、結局バランス・シーソーなんだと思います。

以上です。ご清聴ありがとうございました。』




「あれ? なんかゲームをやりすぎている私に注意を込めた本の感想になると思っていたけど、最後ほめられていない?」

「夢中になれることがあるのは素晴らしいことだと僕は思うよ。結局人生は楽しんだもの勝ちだもんね。」

「おいおい、私これからもゲームしちゃうよ? テストボロボロだったらどうするの?責任取ってくれるの?」

「節度は守ろうよ。12時には終わるとか、勉強してからゲームするとか・・・。」

「そんな簡単にやめられたら苦労しないんだよ!」

「だったらセルフバインディングしよう。ゲームを捨ててしまおう。」

「いやだ、いやだ、それだけはご勘弁を・・・。」


 彼女はそう言って首を振りながら駄々をこねる。

 その時、チャイムが図書室に鳴り響く。


 『キーンコーンカーンコーン』


「ほら、チャイムもなったし帰ろう。帰ってからテスト勉強しよう。」

「いやだ~。もうすぐでラスボス倒せるんだよ~。クソ~。」


 そういって僕たちはいつものように窓を閉めて、教室を出る。

 わかりやすく肩を落としながら廊下を歩くこと数歩、彼女は何かをひらめいたとばかりに顔を上げて僕の方を見る。


「そうだ! セルフバインディングだ! これからファミレスで勉強すればいいんだよ!そしたらゲームもせずに勉強もできる!一石二鳥だ!!」

「うん、いいんじゃない。」

「ん?なんで他人事? 君も来るんだよ。一緒に勉強するんだよ?」

「え?なんで僕も?」

「そりゃそうじゃん。私ひとりじゃ結局スマホ見そうだし、ついでに勉強教えてほしい。」

「いや、でも僕読みたい本があるし・・・。」

「節度は守ろうよ。帰ってからでも読めるでしょ。」

「ぐぬぬぬ。やり返されるとは。」

「それに責任も取ってくれるんでしょ?」


 いや、それは取るって言っていない。

 というかその言い方は何というか、ずるいと思いますが・・・。

 言葉を返せなくなった僕に、彼女は上機嫌になって言う。


「そうそう駅前においしい餃子屋さんができたらしいんだよ。スタバで勉強して、御夕飯に餃子も一緒に食べよう。そうしよう! いや~楽しみだね。」

「そうだね。」


 僕はあきらめたように彼女の言葉に同意する。

 本当はあれ?これデートでは?と思ったり、思わなかったりでどぎまぎしているだけだが・・。

 そんな僕の心中を知ってか知らずか、僕を見つめながら彼女は言う。


「ふっふっふー。私に夢中にさせてあげるよ!」 

「・・・・・・・。」



 とっくにオーバードーズかもしれない。

 用法用量はちゃんと守らないとな。



 夕暮れ時、二人以外誰もいない廊下にたわいもない会話が続いている。



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