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0話 図書委員になった君と僕

「あ~暇だね。」

「うーん。そうだね。学校の図書室に来る人なんてテスト期間じゃないと稀だもんね。」

「い~退屈だね。」

「図書室は静かで過ごしやすいと思うんだけどね。」

「う~なんで私は図書委員になってしまったんだかなー。」

「委員決めを遅刻してきたからじゃない?」

「え~でも一限が35分過ぎたところだよ?午前中だよ?実質遅刻じゃないよね?世の中はクロックスか何か知らないけど、働き方改革していつでも始業していいという噂があるのに・・・」

「フレックス制度だね。」

「そう。それだよ。学生の働き改革はないのかねぇ~」


 おしい。感嘆詞がもう少しでア行コンプリートだったのに。

 一人感嘆詞チャレンジをしている僕こと君嶋蒼の横でゾンビのようにうなだれ結構社会の革新的なことを言っているかもしれない彼女は藤崎美桜という。

今、僕たちがいる場所は県立石山高校の別館3階の図書室で、いまは授業も終わり、空がきれいなオレンジ色に染まり始めたころだった。

 なぜ僕たちが、人生で一番楽しい時間と巷でいわれている高校生活の放課後に図書室にいるかというと、図書委員になり、来るかもわからない生徒に本の貸し出しと返ってきた本の整理をするという仕事をするためである。


「ちくしょう!。これもあれも君嶋君が図書委員の仕事内容を事前に教えてくれなかったからだよ。知っていたらどんな手を使っても拒否したって言うのに。」

「いや。だからそもそもの原因は藤崎さんが遅刻したからが原因であって。。。。」

「うるさい! 正論は聞きたくないんだよ! 嘘と建前で私は生きていきたい。」

 意味が分からない言葉を発しながら、彼女は再び机に突っ伏す。

 そんな彼女を見ながら僕は、先週、入学式を終えた次の日の一番最初のホームルームを思い出していた。





 委員会決めは僕たちが入学してから最初のホームルームで行われた。

中学の委員決めと何ら変わらず、学級委員、保険委員、美化委員などオーソドックスな委員が黒板上に記載されていた。


 図書委員は初め、何も仕事がなさそうでかつ委員会所属という内申点に目を輝かせたクラスメイトが何人か手を挙げていたが、担任の先生から週二回の仕事があることを説明されると徐々に手が下がっていき最終的に僕一人になった。

 

 僕は本を読むことが好きで、放課後も部活に入らず家に直帰して本を読もうとしていたくらいなので、その場所が図書室になったとしてもいいかと図書委員に志願し続けた。


 何事もなく、僕は図書委員になれたが、もう一人の女子側がなかなか決まらなかった。

それはそうだ。花の高校生活の放課後を誰が潰したいと思うのか。だからこれは男子が僕だからって女子みんなが押し付け合っているはわけではない。ほんとだよ!ほんとかな・・・

一人、落ち込んだ気分になっていたところに彼女は現れた。



「すいません! 遅れました!!」


彼女は顔を下に向けながら、教室のドアに手をかけ、ぜえぜえと苦しそうな呼吸を整えている。


「入学後一発目で遅刻とはやるな。えっと。。藤崎美桜か・・・席はあそこだな。早く座れ。」

「先生!これには深い訳が・・・」

「いや、その言葉で深い理由だったことが、俺の人生三十三年間で一つもなかったから聞きたくない。」

「三十三年で初めての深い理由です。実は母が・・・」

「ああすまない。そうだな。先入観で物事を語っちゃだめだよな。母親がどうした?」

「今日登校日だと知らなくて、起こしてくれなかったんですよ~」

「・・・・まあ、だろうなとは思ったけど。思ったよりもくだらない理由だったな。藤崎。高校生になったんだから母親に起こしてもらうのはやめような。」

「え?義務教育から抜け出すと母に起こしてもらえないんですか? これがゆとり脱却・・厳しい世界だぜ。」

「ゆとり世代全員に怒られるぞ。ゆとりもそこまでゆとりではない。」

 

 教室が笑いに包まれる。

すごいな・・・。まだ、出会って1分も経っていない担任の先生と、熟練の漫才師のような会話をしている。僕には一生できそうにない芸当だな・・

 

 感心しながら僕は、やっと呼吸も整って顔を挙げた藤崎美桜なる彼女をみる。

 そのとき、教室全体で息をのむ音がした。

 

 セミロングで外側にはねた茶髪の髪型。呼吸は整ったがまだ赤みが残った顔は人に説明できないほど綺麗で、えくぼと歯を見せながら笑うその姿は地上に降り立った女神の微笑みかと思われた。身長も160cmほどと女性の平均は超えていそうではあるが、女性らしさがない訳ではなく、むしろ出るところがでて、引っ込むところは引っ込んでいる男子の理想を具現化したようなスタイルのよさだった。

 シルバーで細身のネックレスと、同じくシルバーに輝く小さなピアス。細身の手首に巻き付いた桃色の腕時計がまた彼女の良さを引き出している。三種の神器はいつの間に変わったのだろうか?

 

 静まり返った教室に対して、彼女は形の整った口を開く。


「あれ? すべりました? まいったな~。先生のノリツッコミが弱かったんですね。あそこはもっと間を開けないと。」

「いや、普通にホームルームしているときに急にドアが開いて、いきなりぼけてこられたらこんなもんだろ。むしろよくやったほうだよ。」

「まあ。そうですね。よくやりました! では拙者はこれでドロンしますね。席はどこでしょう。」

「自由だな。。。それにドロンなんて言葉、俺も世代じゃねぇよ。まあいい。ちょうどいいから、自己紹介をしろ。もうクラスメイト全員終わっているから、他の人の自己紹介は後で本人達から聞け。」

「うげ。 一人自己紹介とは地獄。かつ誰の名前も知らないのは高校生活に暗雲が。。。」


 ぶつぶつ独り言を言いながら、教室を見渡し彼女は自己紹介をする。


「光が丘中学から来ました、藤崎美桜といいます。これからの高校生活よろしくお願いします。」

「なんだ、登場は派手だったのに、えらい地味だな。一発ギャグでもかますのかと思っていたが。」

「人前にいるんだと、急に我に返って頭がパニックになりました。」

「そ、そうか。情緒が分からんやつだな。」

「うっす。私の席に戻ってもよろしいでございましょうか。先生様。」


 彼女は焦った顔を浮かべながら、敬語とも尊敬語とも体育会系語とも受け取れない謎言語で先生に申し出る。


「いや、まて。 お前にはまだ遅刻に対して罰を執行していない。」

「先生様。まずお前というのはいかに先生様といえど、現代の子供たちに向けていい言葉ではないと思い仕りまするでございます。続いて、高校一年生に向けてそういうえっちなことをお願いするのはいけないことでありまして候。」

「・・・・。藤崎が一つも俺を尊敬していないことはわかった。大体何がエッチなことだよ。俺と藤崎にはダブルスコアの年齢差があるんだぜ。誰が欲情するか。あと・・・お前って言ったのは悪かった。訂正する。」

「謝れてえらいですね。いかん。ふてくされながらの可愛い謝り方に私が欲情してきました。ポチ様は高校生ってどう思います?」

「だーーーー。もう先生でもなく犬になってんじゃねぇか。もう座れ!ホームルームの時間が終わっち・・」


『キーンコーンカーンコーン』


「・・・・・・・・はあ~。 もういい。ホームルームは終わりにする。後決まっていないのは図書委員だけだな。藤崎がもう図書委員で決定です。異論は認めません。詳しい話は今日の放課後委員会の集まりがあるから、そこで聞いて。図書委員の男子は・・・あそこの席の君嶋だ。君嶋。その・・・すまんがよろしく頼む。先生は疲れた・・・。号令。」

 

 先程学級委員に選ばれた、いかにも真面目そうな男子が声をかける。

『起立、礼、着席』

 礼をして頭を上げた先生の顔は20年くらい年取って見えた。トリプルスコアだな。

肩を下げながらとぼとぼと音が聞こえるかと思うくらい重い足取りで教室を出る先生を見送っていると、元凶である彼女が僕の前まで来て声をかけてきた。



「初めまして。私、藤崎美桜です。この高校生活で初めて生徒の名前が判明した、君嶋君。これからよろしくね!」

 その彼女の笑顔を間近で見直して、やっぱりすごく綺麗な人だなと思う。内心、初めてという言葉に拍手喝采、狂喜乱舞していたことは表面上隠しながら、彼女に応える。


「こちらこそよろしくお願いします。君嶋蒼といいます。陽光中学出身です。」

「おっ!出身中学近いね! 電車通かな?よろしく。よろしく!」

「そうですね。」

「敬語やめようよ。同い年!近場の出身なんだから。仲よくしようぜ!」

「そうだね! OK。どんどん仲良くしよう!」

「・・・・。」


 しまった。仲良くした過ぎてつい速攻で距離を詰めてしまった。

 いや、でも仲良くしようぜなんてそんなトラップ仕掛けてくるんだもん。そりゃ多少リスクがあっても果敢にダイレクトアタックするでしょ。

 僕が、彼女が場に伏せたトラップカードがオープンされないかにびくびくしていると、最初はポカンとしていた彼女はくつくつと笑い始めた。

「くくく。あはははは。あー面白い。」


 涙を浮かべながらの大爆笑である。


「あはは。そんな光の速さで距離詰めてくるとは思わなかったよ。普通一回くらいは『いや、話しやすいのは敬語でして。』とか返して、それに対して私が、『真面目さんなんだね。気に入った。敬語を取っ払ってくれるまで、慣れてもらえるように頑張るね!』みたいなことを満面の笑みを浮かべながら言って。そしたら君は、この子かわいいなと思いつつ、『デゅフフフフ。嬉しいでごんすな。』って答えるシチュエーションでしょ。ふふふ。」

「藤崎さんが笑ってくれて僕もうれしいよ。ただ僕、そんな笑い方はしないからね?頼むよ。風評被害になるから広めないでね。」

「いや、さっきの私と先生との会話で君そういう笑い方してたよ。自分で気づいてないだけじゃない?」

「え。。。うそでしょ。僕ってあんな笑い方なの? 人生15年で初めて気づく衝撃的な事実。もう帰ろうかな。」

「嘘嘘。カワウソ!大丈夫。かっこいい笑顔だったよ。」

「うぐ。。」


 彼女のジェットコースターのような会話に、同じく乗車していると思われる僕の気持ちも右へ左へ上へ下へ、一回転なんかもしてしまう。ものの三十秒で僕のライフポイントは0に近くなる。ピロピロピロピロ。ピピン。

 

『キーンコーンカーンコーン』

 そのタイミングで二限の始業前のチャイムが鳴る。授業開始まであと五分を知らせるチャイムだ。

「おっと。楽しくしゃべってたら時間のようだね。これから、直近でいうと放課後からよろしくね。」

 彼女は、どぎまぎしている僕を置いて身体を反転する。

「それにしても図書委員か。。。くくく。仕事もないだろうし内申点も上がるしいいことづくめだね。なんでこの委員が残っていたかは知らないけど、先生も罰になっていないよ。くくく。」

「・・・・・」

 どこかの悪だくみをするお代官様のように、忍び笑いをしている。

 僕は知らぬが仏だなと思いながら、何も知らせず自分の席で、次の授業の用意をする。

「君嶋君」

 もう用済みかなと思っていた僕に彼女は再度声をかける。

 あれ?もしかして図書委員の仕事内容がばれた?

または、さっきは嘘といってくれていたがほんとに僕がデュフフフと笑っていて、それで気づかれたんじゃ?

それとも、言わないでおいた方が放課後彼女と一緒に行動できる僕の謀が気づかれて・・・。


「私の席どこ?」

・・・・・・。そういえば先生も教えていなかったですね。

彼女の席は僕の席の左隣だった。



 そんなことあった日の放課後、校舎内全域に絶叫が鳴り響くことになるが、それは割愛しよう。高校の七不思議にもなりえない出来事だった。





「はーーーー暇暇暇暇暇ひ麻痺麻痺麻痺麻痺。」

「途中から体が動かなくなってるね。」

「パラライズ」

「本格的に麻痺の呪文を撃ってきましたね。何だがしびれてきたよ。」

「パラダイス」

「現状とは180度異なるね。僕の今の頭の中かな。」

「パラサイト」

「いや、僕に寄生してくれるなら大歓迎ですけども。」

「キモイ」

「・・・・。マジは勘弁してください。」

「・・・・。はー。君嶋君と話すのは楽しけど、やっぱり二時間も放課後拘束されるのはきついものがあるね。。。。」


 話すのは楽しいって、僕をいじっているの間違いではないだろうか?まあ、僕も楽しいから問題ないんだけど。


「君嶋君はなんで図書委員になろうとしたの? 最初から立候補してたみたいだけど。」

「僕は、本を読むことが好きだからね。家で読むか図書室で読むかの違いしかないから図書委員に入っても入っていなくてもどっちでもよかったんだ。入ったら入ったらで先生からの内申点も上がるかなと思ったし。」

「けっ。結局内申点目当てかい!ダメだね! 自分にメリットがなくても他人のために頑張れる人にならないと。」

「・・・・。」


 手を腰に置き、やれやれとばかりに彼女はあきれ顔になる。

 この人、自分の言ったことをすぐ忘れる人なのか? ずいぶん都合のいい頭をしているようだ。


「まあいいや。私はあんまり本好きじゃないんだよね~。なんていうか文字を見ていると目が滑るというか、眼が廻るというか・・・。ちょっとした恐怖症なんだよね。」

「あ~。そうなんだ。本苦手な人もいるもんね。」

「そうなんだよ。君嶋君はなんで本が好きなの?」


 彼女は続けて僕に問いかけてくる。


「なんでって・・・。うーん楽しいからかな。」

「楽しい? なんでなんで? 本を一冊読むのに二時間~三時間くらい拘束されるじゃん。そんな長い間暇じゃない? 本が苦手な私に本の良さをプレゼンしてみんしゃいよ!」

「みんしゃいってどこの方言ですか・・・。うーん。そうですね・・・・。いろいろな考え方があると思いますが、 僕はやっぱり、本を読んだ後の自分の世界が変わる感じがたまんないからですね。」

「世界が変わる? 異世界転生でもするの?」

「そこまでではないですけど、正直本当に面白い本を読んだ後は転生した気分がしますね。結局、本を読んでいる間は僕は主人公になり、僕だったらどうなるか、どうするかを考えます。恋愛小説でどのようにヒロインを救うのか?ミステリー小説ではどうやって難事件を解決するのか?それこそ異世界に転生したらどうやってその世界に適合するのか?とかですね。」

「ふーん。じゃあひねくれた考え方をすると、ちょっとした現実逃避のためってこと? 今の自分が退屈だから刺激のある小説を読んでるってこと?」

「僕も最初のころはそう思っていたんですけど、あるとき、小説じゃなくて大学教授が書いているような専門書を読んでみたんです。それは雑草とか花が解説された本で、それはそれで読んでいる間も面白かったんですが、読んだ後に河川敷を散歩していると今まで雑草とか花とかのひとくくりになっていたモノが、つつじとか朝顔とかの名前ができて、その花の色は虫が寄ってくるように見えやすい色になっていることがわかり、その葉は光合成を効率的に行うために一枚、一枚上下に重ならないようになっていることを知りました。。」

「・・・・。」

「一度そんな風に考えたら、今まで読んできた本が自分の世界を広げてくれていたことが分かったんですよね。恋愛小説は異性との関係を教えてくれました。それまでは異性は違う星の人と思っていたのですが、その小説を読んだ後はもっと積極的に関われば、自分とは違う考え方を持っていて、そういう人と話すのが楽しいと教えてくれました。」

「・・・・。」

「ミステリー小説を読めば、自分が考えつかないことで殺人を行います。読んだ後は、どんな物体・現象で人を害せるかを考えるようになりました。ここで言ったら図書室で人を殺すためには、どうすればいいのか?例えば本で押しつぶす。本の紙の切れ味を使って手首を切る。など読む前では考えなかったことを考えられるようになりました。」

「・・・・。」

「こんな風にモノには名前が、行動には理由が、態度には気持ちが、奥に広がっていることを本は教えてくれるんです。教えてくれると世界が彩られて楽しく思います。それが僕が本を読んでいる一番の理由ですね。」

「・・・・。」


 あっ・・・。途中から自分語りになってしまった。

「ご、ごめん。長々と自分語りしちゃって。」


 彼女を見るとぽかんとしていた。

 実際でいうと五秒も満たないが、体感としては一時間にも二時間にも感じる時間が経過した後、彼女は太陽のようなまぶしい笑顔でしゃべり始める。


「素敵な考え方だね。なるほど自分の世界が広がる、か・・・・。」


 そういった彼女はまた思案顔になる。

 彼女が黙ってしまったので、現実逃避と家から持ってきていた本を読み始める。

 本に集中し始めたその時、彼女は席から急に立ち上がった。


「うん、決めた!! 君嶋君に私の世界も広げてもらおう!!!!」

「うおっ。びっくりした。どういうこと?」

「ほら、私さっきも言った通り本を読むことが苦手じゃない? だからその新しい世界の広がりが分からないわけよ。だから、君嶋君が読んで開けた世界に私も連れてってもらおうと思って!。 つまるところ本を読んだ後に私に解説してほしい!」

「え? なんでそうなるの?」

「いいじゃん! どうせ今の時間暇だし! 時間も潰せて世界も広がって一石二鳥だよ!」

「いや、僕にメリットなくないですか?それに、その時間僕本を読みたいんですが・・・。」

「いいじゃん! いいじゃん!」


 そういって彼女は僕を揺さぶってきた。

 美人顔が近づいたり遠ざかったり・・・。いいにおいが漂ったり・・・。あ・・・メンタルが・・。 もうダメ・・・・。


「わかった。わかった。わかりました!! やります。やらせていただきます。やらせてください。」

「ありがとう! 早速次の図書委員の仕事の時間からよろしくね!」


 僕がそういうと、彼女は揺さぶりをやめて離れていく。ちょっと残念だけど、これ以上はやばかったな。

 まあ彼女が喜んでくれるならいいか、と諦めにも似た感情を抱きながら、ふーと息を吐く。


『キーンコーンカーンコーン』


「おっ! 終わりだね。いやー最初はどうなることかと思ったけど楽しくなりそうだね。」

「そうだね。じゃあ僕は戸締りするから先に帰っていいよ。」


 そういって僕は窓を閉めるために席を立つ。


「いや、それぐらい一緒にやろうよ。そんで一緒に帰ろうよ。君嶋君、高宮方面の電車でしょ。私奥から閉めていくね。」

「えっ? 一緒に帰るの?」


 驚きすぎて、足を止めて振り返り彼女をみる。


「何? 嫌なの?」

「いやじゃないです。」

「そ! よかった。じゃあ急ぐよ! お腹もすいたし。」


 彼女は窓をしめ、てきぱき帰る準備をして僕を待つ。

 急展開になんとかついていきながら、僕も帰り準備をして彼女の横に並んで、一緒に廊下を歩く。

 横の彼女を見るとなにやらニヤニヤしながら、僕の顔をのぞいていた。


「何でしょうか?」

「君嶋君が読んだ本の中にこういう展開はあったかな? 高校生活を始めて一週間で美人なクラスメイトと委員会に入って、二時間委員会の仕事をして、一緒に帰る。こんな小説みたいな展開があったかな?」

「いや・・あの・・うん。」


 しどろもどろになる僕に満足したように彼女は笑う。


「これから違う星の私と仲良くしてね。積極的に私にかかわってね。楽しみにしてるよ。」

 ニシシと笑いながら、次の電車は何分後かなぁと先を歩き始めた彼女の後ろ姿を僕は見つめる。

 

 そうか。小説で新しい世界を広げてもその世界で行動しないと知識だけしか得られないのか。

 百聞は一見に如かず、百見は一考に如かず。百考は一行に如かず・・か。 

本を読んだ後に広がる世界で彼女と一緒に過ごしてみたい。

そう思った僕は先を行く彼女を追いかけた。

 



 

 





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