てんしのぱんつ(漢字版で再投稿)
これは昨年のクリスマスに投稿した「てんしのぱんつ」を漢字を使って書き直したものです。
全編ひらがなにしたらとても読みにくくなってしまったので、再投稿します。
内容は同じものです。
みなさんは天使さまを知っていますか?
天使さまは天国で神さまにおつかえし、わたくしたち人間をやさしく見守ってくださっています。
では天使さまはどのようなお姿をしていらっしゃるのでしょうか。
教会に行ったときに壁や天井に描かれた絵画やステンドグラス、美術館に展示されている絵画や図書館の絵本などで見たことがある人もおられるのではないでしょうか。ご本人にお会いした人はさすがにいませんよね。
天使さまはどのような服を着ておられましたか?ゆったりとした白い服を着ていらっしゃったりしますよね、でもなかには真っ裸でぱんつもはいていない子供の天使さまがおられるのを見たことはありませんか。なぜぱんつをはいていらっしゃらないのでしょうか。
実はわたしはその秘密を知ってしまったのです。だれかに言いたくて言いたくてたまらないのです。だからここに書くことにしました。
なぜぱんつをはいていない天使さまがいらっしゃるのでしょうか?それにはこんな訳があったのです。このおはなしを読んでくださればきっとわかっていただけると思いますよ。それでははじめましょう。
今日はとってもよい天気。雲の上では天使のてんちゃんがおせんたくをしています。
てんちゃんとってもよいこども、せっせせっせとせんたくします。せんたくものは、はんけち13まい、しゃつが9まい、くつした12そく、そしてぱんつが1まいです。よくもこんなにたまったものです。いつもはマリアさまがおせんたくをしてくれるのですがたまにはお手伝いをしなくちゃと今日はがんばっているのでした。
一所懸命に働いてやっと全部洗いおわりました。さあて、今度は干す番ですが、てんちゃんは背が低いので大きな樫の木の枝にかけてある物干し竿には手が届きません。どんなに手を伸ばしても全然届きそうにない物干し竿をしばらく見ておりましたが、てんちゃんはまったくもって困った様子はありませんでした。なぜなら、そう、てんちゃんは天使だからです。てんちゃんの背中にはそれは小さな白い翼が生えておりました、その翼をぱたぱたと羽ばたかせるとすうぅとてんちゃんは浮かび上がります。これで物干し竿に届きます。せんたくものを一枚ずつていねいに干してゆきます。雨の心配はいりません、なぜって、ここは天国だからです。天国は雲の上にあるのでいつもお日さまきらきらいい天気、雨なんかまったく降ることはありません。たとえ地上が大雨でも天国にはひと粒も雨が降ることはないのです。そしてついに最後の一まいのぱんつを干してとうとうおせんたくが終わりました。
「やったぞ、おせんたくをやりとげたぞ」
てんちゃんがんばったね、と褒めるようにそよ風さんが吹いてきました。てんちゃんはうれしくなってくるくると小躍りしましたが、疲れが出たのか急に眠たくなってしまいました。物干し竿のかかっている樫の木の根元にもたれかかって座るとすぐに頭がこっくりこっくりとしはじめました。やわらかなそよ風がてんちゃんの頭に乗っかている輪っかの穴を通って吹き込んできてふんわりとした髪の毛をまるで子守唄を唄うようにやさしくなぜてくれました。天国はいつも春で一番心地のよい日和が一年中続くのです。てんちゃんはすっかり安心して心おだやかにぐっすりと眠り込んでしまいました。
でも、てんちゃんが眠っている間にそよ風さんがせんたくものにちょっといたずらをしてしまいました。少し冷たい風が吹いて背中がぞくっとしててんちゃんが目を覚ますと、今まさにてんちゃんのぱんつがそよ風さんに吹き上げられたかと思うとひらひらと舞い落ちてゆきました。そしてなんとまんの悪いことか、そこにはちょうど雲の切れ目があって、それに向けてひらひらと落ちてゆくと雲の切れ目へとてんちゃんのぱんつは消えてゆきました。
てんちゃんはびっくりして飛び起きるとあわててぱんつをつかまえようとしましたがもうあとの祭りです。ぱんつは雲の切れ目からわたくしたちの住む下界へひらひらと舞い落ちてゆき、もうすっかり小さくなっていました、それはまるで白い梅の花の小さな花びらが舞い落ちてゆくようでした。
「たいへんだぁ」
てんちゃんはおおあわてです。だって神さまに知られたら大目玉を食らうに決まってます。急いでまわりの雲をかき集めるとお弁当箱に詰め込みました。天国の雲は綿菓子でできているのです。その綿菓子をてんちゃんはお弁当に持っていくことにしたのでした。いつもまわりに綿菓子があるなんて天国ってとっても便利ですね。これでお腹がすいても大丈夫、お弁当を持って準備万端です。てんちゃんはさっそくぱんつを探しに下界へゆくことにしました。天国の外に出たことのないてんちゃんにとってそれは大冒険の始まりです。
「おぉい、ぼくのぱんつやーい」
神さまに見つからないようにあまり大声は出せません。でもぱんつには聞こえるようにとてんちゃんは呼ばわりました。そしてたどりついたのは北極だったのです。
「おお、寒む寒む」
北極に初めて来たてんちゃんはふるえ上がりそのあまりの寒さにびっくりしてしまいました。そこで自分が服も何も着ていないまっ裸なことに気がつきました。だって、ぱんつを探すための冒険なのですから肝心のぱんつがあるわけないですよね。
「はやくぱんつを見つけてはかなきゃ」
てんちゃんはぱんつを見つけようと一所懸命いに目をこらしました。でもまわりは真っ白で何も見えません。いえいえ、まわりがすっかり真っ白な氷に囲まれていたのです。見渡しても白い氷しか見えないので何も見えないように錯覚しただけなのです。でも北極に来るのが初めてのてんちゃんはそんなことがわかりませんからびっくり仰天してしまいました。
「たいへんだぁ、真っ暗じゃないのに、なんにも見えないぞ」
てんちゃんがあせっているとそこへあざらし坊やのあっちゃんがやってきました。
「おうい、あざらしくん、こんにちは、ぼくは天使のてんちゃんだよ、ぼくの白いぱんつを見なかったかい、このあたりに落ちてきたはずなんだけど」
てんちゃんはあっちゃんにたずねました。
「こんにちは、ぼくはあざらしのあっちゃんだよ。白いぱんつだって?」
あっちゃんはまわりを見渡しながら
「ここには白い色しかないんだから白いぱんつなんてもしあったとしても見つかりはしないよ」
となんだか子難しいことを言いました。
てんちゃんはあたりを見回しました、確かにまわりは真っ白な氷しかありません。でも天国だってまわりは真っ白な雲だらけなのです、それでもぱんつを見つけ出すときに困ったことはありません。氷の上だってぱんつは見つけられるとてんちゃんは思いました。するとそこへしろくまのしろくんが向こうの方から近づいてきました。
「じゃ、さよなら」
しろくんを見るとあっちゃんはあわててどこかへ行ってしまいました。
そこでてんちゃんはやってきたしろくんにたずねました。
「こんにちは、しろくまくん、ぼくは天使のてんちゃんだよ。」
「こんにちは、はじめまして、ぼくはしろくまのしろくんです。」
しろくんを見ると少しつらそうな様子でした、てんちゃんは気になってたずねました。
「しろくんどうかしたの?なんだとってもつらそうですよ」
「そうなんだ、きのうから何も食べてなくて、おなかがぺこぺこに減って元気が出ないんだよ」
そう言ってしろくんは自分のおなかをさすりました。するとてんちゃんはとってもすてきなことを思いつきました。
「そうだ、それなら今からぼくと一緒にお弁当を食べませんか。ぼくは天国からお弁当を持ってきたんだ。たっぷりあるから一緒に食べましょう」
そういっててんちゃんは持ってきたお弁当を広げました。そこにはおいしそうな綿菓子がふんわりぎっしり詰め込まれています。
「いいのかい、じゃあ遠慮なく、いただきまぁす」
しろくんはてんちゃんのお弁当をむしゃむしゃとすごい勢いで食べはじめました。
「うまい、うまい、こんなおいしいものを食べるのは初めてだよ」
そして、あっというまに食べてしまいました、お弁当箱はすっからかんです。
「あ、ごめん、気がついたら全部食べちゃってたよ」
「ううん、大丈夫だよ、ずいぶんとおなかがすいていたんだね」
「そうなんだ、なんせまる一日以上なにも食べていなかったんだ、本当に助かったよ、ありがとう、ごちそうさまでした」
「おそまつさまです、きみの役に立つことができてぼくも嬉しいよ」
「ところで、こんなところに天使さまがいらっしゃるなんて珍しいね、何かあったのかい」
「うんそうなんだ、ぼくの白いぱんつを知らないかい、洗濯して干していたときにそよ風さんに飛ばされてこのへんに落ちたんだけど。とっても白いんだ。ここの氷よりも白いからきっとわかると思うんだよ」
「それならさっきまっこうくじらのまっちゃんが飲み込んで行ったのがそうじゃないかなぁ。お空から小さいのがひらひらと落ちてきたのでまっちゃんが思わずぱくりと飲み込んじゃったんだよ」
「これは困ったぞ、ぱんつを飲み込んじゃうなんて。落ちていったぱんつをちょっと拾って戻るだけのつもりだったのに、たいへんなことになってきたぞ」
さあ、たいへんなことになっててんちゃんはすっかり困ってしまいました。ぱんつはまっちゃんのおなかの中です。てんちゃんはぱんつを取り戻して天国に無事帰ることができるのでしょうか。
「しろくん、まっちゃんはどこにいるんだろう。教えてくれないかい」
とてんちゃんが聞くと
「う~ん、まっちゃんは沖のほうへ泳いで行っちゃったからなぁ、ぼくにはわからないや」
という返事が返ってきました。どうやらしろくんにはまっちゃんの行方がわからないようです。
さあ、今度はまっこうくじらのまっちゃんを捜さなくてはいけません。だれかまっちゃんを知らないかと捜しているとえとぴりかのえっちゃんと出会いました。えっちゃんはとてもきれいな鳥です。空から見つけられないかと思ってたずねました。
「こんにちは、ぼくは天使のてんちゃんだよ。えとぴりかさん、まっこうくじらのまっちゃんを知りませんか?」
「こんにちは、わたしはえとぴりかのえっちゃんです。まっちゃんなら南の海に帰ったんじゃないかなぁ」
と教えてくれました。
「ご親切に教えてくれてありがとう」
てんちゃんはえっちゃんにお礼を言うと今度はずんずん南へ向かって飛びました。
「なんだか暑くなってきたなぁ」
南に行くにつれてだんだんと暖かくなってきました。寒い北極から来たてんちゃんはもう汗だくです。でも暑いからといって着ている服を脱ぐことはできません、なぜならもともとてんちゃんは真っ裸だったからです。それでもしばらくすると暑さにも慣れてきました。知らない間にもう赤道の近くまで来ていたのです。どこまで行ってもまっちゃんが見つからないのでてんちゃんが困っていると、遠くに泳いでいる黒い影が見えました。
「あっ、まっちゃんだ」
やっとまっちゃんを見つけたと思いてんちゃんは叫びました。そしてどこかへ行ってしまう前に追いつかなければと背中の翼を思い切り羽ばたかせて、おお急ぎで飛んでゆきました。でもいくらち近いても黒い影は大きくなりません。
「おかしいぞ、まっちゃんはとてもでかいって聞いたのに、あの影ったら近づいても小さいまんまだぞ」
てんちゃんが不思議に思っているうちについにその影に追いつきました。影は海にもぐったり浮かび上がったりしてとっても速く泳いでいたのですが、空を飛んできたてんちゃんの方が速かったのでした。近づいてみるとそれはいるかのいるちゃんでした。
「こんにちは、いるかさん、ぼくは天使のてんちゃんだよ。まっこうくじらのまっちゃんを捜してるんだけど知りませんか。ぼくのぱんつを飲み込んだままどこかへ泳いで行っちゃったんです」
てんちゃんはきちんとあいさつをしたあといるちゃんにたずねました。
「こんにちは、ぼくはいるかのいるちゃんだよ。それならぼくが知っているよ。まっちゃんがそのぱんつを飲み込んだときぼくも一緒にいたんだもの」
そしているちゃんはそのときの様子を話してくれました。
「ぼくたちが遊んでいると空からとってもきれいな白い物がひらひらと落ちてきたんだ。食いしん坊のまっちゃんは海の中からジャンプしてそれをぱくっと食べちゃったんだよ」
さあ、たいへんです、てんちゃんの白いぱんつはやっぱりまっちゃんのおなかの中です。いったいどうすればよいのでしょうか。
「とにかくまっちゃんに会いに行かなくちゃ、ねぇ、まっちゃんがどこにいるかお教えてくれませんか」
もう一度いるちゃんにたずねました。
「まっちゃんならくじらが集まるくじらの海に帰っていったよ」
まっちゃんはくじらの海にいるみたいです。いるちゃんからくじらの海の場所を教えてもらうとてんちゃんはまっちゃんに会うために出発しました。でも、まっちゃんのいるくじらの海はとぉっても遠いところにあります。てんちゃんは背中の翼を必死に羽ばたかせて飛び続けました。もうくたくたで羽ばたくことができないと思ったときやっとくじらの海にたどりつきました。
「やっとたどりついたぞ、でもくじらさんがたくさんいるなあ、だれがまっちゃんなんだろう」
てんちゃんはやっとくじらの海にたどりついてほっとしましたが、くじらがたくさんいるためだれがまっちゃんかわかりません。
「おおい、まっちゃんはいませんかぁ、だれかまっちゃんを知りませんかぁ」
大声で叫びながらてんちゃんはくじらの上を飛びまわりました、すると突然大きな潮が海面から噴き上がりました。くじらはときどき背中から噴水のように潮を噴くのです。そしてその潮を噴いたくじらがぽっかりと浮かび上がって言いました。
「こんにちは、ぼくがまっちゃんだよ、なにかご用ですか?」
それは捜していたまっちゃんでした
「こんにちは、まっちゃん、ぼくは天使のてんちゃんだよ」
てんちゃんはあいさつをするとさっそく大事な用件んを話しました。
「きみが飲み込んだ白いひらひらしたものは実はぼくのぱんつなんだよ、お願いだから返してくれませんか。それを持って帰らないと神さまにぼくは叱られれてしまうんだ。」
それを聞くとまっちゃんは気の毒に思いました、そして答えました
「うん、北極の海を泳いでいたとき、確かに白いふわふわしたものを飲み込んじゃったよ。あれはきみのぱんつだったの?でももうないんだ」
「えっ、どういうこと?それじゃぁ、ぼくのぱんつはいったいどこにあるの?」
もうないと言われててんちゃんはびっくりしてしまいました。
「それが、くじらの海に帰える途中、だんだん暖かくなってきて気分がよくなったのでぽかぽかのお日さまの下でのんびりとお昼寝したんだ。そしたら寝ぼけたひょうしに潮をぴゅーって噴き上げげてしまって、そのときにきみのぱんつも一緒に噴き出してしまったんだ」
「ええ、それはどこですか、そのあたりの海にまだぷかぷか浮いているかもしれない」
「それはないかな、ぱんつを噴き上げたときにちょうどそよ風が吹いてぱんつをどこかへ持ってっちゃったんだ」
「それはどっちの方角へ飛んで行ったんですか?」
「それがきみのぱんつがどこにあるかはわからないんだ、そのときぼく寝てたからね、一緒にいた友達がそのときのことを後から教えてくれたんだよ」
これはとんでもないことになってしまいました。また始めから捜がさなければなりません。二度もぱんつにいたずらするなんてそよ風さんもちょっといじわるですねぇ。
てんちゃんがまっちゃんとお話していると、そこへかもめのかーたんが飛んできました。
「こんにちは、まっちゃんと天使さん。お空の上で今のお話は聞いていましたよ。それならわたしが知っていますよ。そよ風さんに飛ばされたものが気になって捕まえようと追いかけいたら南極まで飛んでいったよ。南極で探してごらんなさいな」
そういうとつーと飛んでゆきました。
「ありがとうかーたんさん」
てんちゃんは急いでお礼を言いましたが、もうかーたんは見えなくなってしまいました。
親切なかーたんが教えてくれた南極までぱんつを探しにゆくことにしました。今度は暑ーい赤道から寒ーい南極までの旅です。始めのうちはてんちゃんも張り切って飛んでいましたが、南極に近づくにつれてだんだん寒くなってくると背中の翼がかじかんでだんだん飛ぶのが辛くなってきました。それでもぱんつを見つけないといけないのでてんちゃんは自分を励ましながら飛び続けてやっとこさ南極にたどり着くことができました。
「なんて寒いんだ、北極より寒いんじゃないかなぁ」
暑い赤道から来たのでより一層寒く感じました。空から見下ろすと真っ白な氷がどこまでも果てしなく広がっています。さあ、今度はこの広い南極で探します。てんちゃんは空からだんだん降りてゆきました。
「やあ、あれはなんだ」
真っ白な氷の上に丸く真っ赤なものが広がっているのを見つけました。さらに降りてゆくとその真ん中に黒い点のようなものが見えてきました。てんちゃんはいやな感じがしてその点に向かっておお急ぎで降りてゆきました。近づくにつれてそれがなにか分かってきました、それはぺんぎんでした、ぺんぎんが氷の上にうつぶせに倒れていたのです。ふだんならそんな所に寝てたらおなかが冷えますよと起こしてあげるのですが、ある程度近づいたところでてんちゃんはぴたっと止まってしまいました。倒れているぺんぎんのまわりをとてもたくさんの赤い色の水が取り囲んでいるからでした。
「血なのかもしれない、早く助けなきゃ」
さあたいへんです、てんちゃんは大急ぎでぺんぎんのそばに行くと助け起こしました。
「ぺんぎんさん、大丈夫ですか、しっかりしてください」
するとぺんぎんはすぐに息を吹き返しました。
「うううむ、ぺんちゃんは、ぺんちゃんはどこじゃ」
抱き起したのはぺんぎんのおじいさんでした。
「ぺんちゃんって誰ですか、ここにいたのはおじいさんだけでしたよ」
するとようやく落ち着いたぺんぎんは名乗りました。
「こんにちは、天使さん、わしはぺんぎんの村”ぺんそん”の長老のぺんじいというもんじゃ」
「こんにちは、ぼくは天使のてんちゃんです、よろしくおねがいします」
「うんうん、しっかりあいさつできてえらいぞ、てんちゃん。わしはなぁ、ここでぺんちゃんとぶつかってひっくり返って気絶してしまったんじゃよ、ぺんちゃんは近くにおらんか」
そう言ってぺんじいはあたりを見渡しました。ぺんちゃんの姿はありませんでしたが、地べたに広がった赤い水の上にぺんぎんの足跡が一羽ぶん、ぺんじいが倒れていたところから続いていました。それを見つけるとぺんじいは
「どうやらぺんちゃんは助けを呼びに行ったようじゃな。それにしてももったいないことをしてしもうたわい」
と言って自分のまわりの赤い水を拾いあげて口いれました。南極はとても寒く、赤い水は氷の上にこぼれたのですっかりかちこちに凍ってしまっていました。
「ああ、うまうま、実においしい、実におしいことじゃ」
と言いながらぺんじいはもう一口食べました。
「ぺんじいさん、そんなものを食べても大丈夫ですか、それはあなたの血ではないのですか」
てんちゃんはだんだん心配になってきてたずねました。
「ふぉっふぉっふぉ、なにを言っておるんじゃ、こんなに大量に血を流したらとうの昔に死んじまっておるわい、これはなあ、トマトジュースじゃよ」
と言いながらさらにもう一口食べました。てんちゃんはびっくりするやら安心するやらで目を白黒しましたが、自分も足下にあったトマトジュースをぱきんと割って口に入れました、するとそれはすううと溶けて新鮮なトマトの香りが口の中いっぱいに広がりました。
「ああおいしい」
「そうじゃろう、最上級のトマトジュースじゃからのう。南極では野菜が採れないのでトマトジュースは大切な栄養源なんじゃ。久しぶりに新鮮なトマトジュースが手に入ったので村のみんなに飲ませようと急いでここまで帰えって来たところに走って来たぺんちゃんとぶつかってひっくり返えってしまったんじゃ、ぺんちゃんもとんだあわてもんじゃわい。そのときトマトジュースがみんなこぼれてしまってなあ。」
ぺんじいを真ん中にして丸く広がっていた赤い水の正体はこぼれたトマトジュースだったのです。
「村の衆に言ってあとでトマトジュースを拾いに来てもらおう、なんせ大切なものじゃからな」
トマトジュースはすっかりかちこちに固まってしまっているので簡単に拾うことができそうでした。
「ところで、こんなところまでてんちゃんはなんのために来たのかね」
そうです、大事なことを忘れるところでした。ここはもう地・の・果・てといってもいいくらいに地球の端っこです。ここでぱんつを見つけることができなければもうどうしていいのか分からなくなります。そこでてんちゃんは風に飛ばされて落っことした自分のぱんつを探して旅をしていることを話しました。ふむふむとぺんじいはお話を聞いておりましたが、てんちゃんが話終わると口を開きました。
「それならペンタのうちにあるのがそうかもしれん」
と言いました。やっと見つけたかもしれないとてんちゃんは大喜びしました。でもぺんじいは難しそうな顔をしていました。
「ともかく、ぺんたのうちに行ってみよう」
ぺんたさんのおうちに来るとぺんたさんの奥さんが寝ていました。ここは南極です、ぺんたさんの奥さんは氷のおうちの氷の部屋で氷でできたベッドに寝かされていました。そしてそのおなかにはてんちゃんのぱんつが掛けられておりました。
「あっ、ぼくのぱんつだ」
てんちゃんは思わず叫びました。ぱんつを掛けられているぺんたの奥さんは苦しい表情で寝ておりました。その横にはおばさんペンギンが心配そうに看病しておりましたのできっと病気にかかって苦しんでいるんだということに気がつきました。大声を出してしまったてんちゃんはしまったと思いました。てんちゃんの言葉を聞くと奥さんの枕元で心配そうに見守っていたぺんたさんの顔つらそうに歪みました。
「こんにちは、天使さん、わたしはぺんたと申します、こちらで寝ているのは妻のぺんみです。お願いです、あなたのぱんつをもう少しの間貸していただけないでしょうか、ほんのもう少しの間だけでいいんです」
とお願いしてきました。
「こんにちは、ぺんたさん、ぼくは天使のてんちゃんです。このぱんつは神さまからいただいた大切なものなのです、だからぼくが勝手に他人に貸すことはできません、神さまにしかられてしまいますから」
てんちゃんはなんとかしてあげたいとは思いましたが、自分が勝手に決めることができない訳を説明しました。
「そうですか、神さまには逆らうことはできません、ぱんつはお返ししなければなりません」
そう言って奥さんからぱんつをはがしました。すると突然奥さんが苦しみだしました。ぺんたさんは奥さんから顔を背けてぱんつをてんちゃんに差し出しました、その目には涙がにじんでいます。でもてんちゃんはそれを受け取ることはできませんでした。そしてなんとかしようと考えてぺんみさんに天使の癒しを与えました。天使の癒しは病気や怪我を直すことができるのです。でもぺんみさんの苦しみは少しも和らぐことがありません。
「ぼくの未熟な癒しではぺんみさんを救うことができないんだ」
てんちゃんは、これまで癒しの練習をさぼっていたことを後悔しました。天国の物である天使のぱんつを取り戻すのは大切なことですが、目の前の病人を苦しめてまで取り上げるのは何かおかしいと思いました。もっと大切なことがあるんじゃないか、そうしてさっき自分が言った言葉を思い返えしました。『神さまにしかられてしまいますから』そうだ、しかられるのはぼくじゃないか、ぺんたさんやぺんみさんがしかられるわけじゃないんだ。そう気がつくとぺんちゃんはぺんたさんからぱんつを受け取り、もう一度奥さんに掛けてあげました。するととたんに奥さんの苦しみは和らぎ、落ちついた寝息をたて始めました。ぺんたさんや看病していたおばさん、ぺんじいも驚いててんちゃんの方を向きました。ぺんちゃんはにっこりとして
「かってに他人に貸すのはいけないんです、だから貸していただけるように天国の神さまにお願いしてきます」
そうしててんちゃんはぺんたさんのおうちを出ました。その後ろではぺんたさんとおばさんが深々と頭を下げておりました。
「いいのかい、本当に、あんたは大丈夫なのかい、ずいぶんとしかられたりはしないのかい?」
ぺんじいが心配してくれました。
「もちろん大丈夫ですよ、こっぴどく叱られるかもしれません。でもぺんみさんの苦しみに比べれは全然大したことではないですよ。では、ちょっと行ってきますね」
そう言うとてんちゃんは軽やかに飛び上がってすぐに昇天し始めました。地上ではぺんじいと家から出てきたぺんたさんが天に昇ってゆくてんちゃんを見送りながら、翼を合わせて『てんちゃんがあまりしかられませんように』と天国の神さまにお祈りをしていました。
てんちゃんは天国へ向かってゆっくりと昇ってゆきました、急ぐ必要はありません、ゆっくりのほうがいいとてんちゃんは思いました。だってぱんつはぺんみさんにところにあります、神さまにすぐに取りに行くよう言いつけられても天国を往復する間はぺんみさんがぱんつを使うことができるからです。それでもすぐに天国に着いてしまいました。天国の入り口には天使の中でも一番偉いミカエルさまが難しいお顔で待っておられました。てんちゃんはばつが悪かったのですが、逃げるわけにはまいりません、正直にこれまでのことをミカエルさまに説明して、ぱんつを貸すことを許してもらうために神さまにお会いしたいとお願いしました。するとミカエルさまは
「わかっておりますよ、神さまがお待ちです、さあすぐにまいりましょう」
と言っててんちゃんを神さまの元へ導きました。
てんちゃんはもう一度ことのいきさつを神さまに説明しましたそして
「ぼくはどんなにしかられてもかまいません、どうかぺんみさんにぱんつを貸すことをお許しください」
と心を込めてお願いしました。すると神さまはおっしゃいました。
「てんちゃん、ぱんつを返してもらいにすぐに地上へ引き返しなさい」
てんちゃんはすべての望みが断たたれたような顔で神さまを振り仰ぎ見ました
「お願いです、あのぱんつがないとぺんみさんはとても苦しいのです、どうかお助けくださいませんでしょうか」
神さまは少し困まったようなお顔をしましたがすぐに気を取り直しておっしゃいました
「もう、その必要はなくなったのじゃ」
それを聞くとてんちゃんの心は大きな音がしたんじゃないかと思うくらい震えました。ぺんたさんが「もうほんの少しの間でいいんです」と言っていたのを思い出したからです。それはもうすぐぺんみさんが亡くなってしまうということだったのではないかしらと思い当たったのです。
「なにか勘違いをしとらんか、ぺんみさんはもうすっかり良くなっているよ。元気になったのでぱんつはもういらなくなったんじゃ」
そう神さまがおっしゃいました。それを聞いててんちゃんはやっと安心しました。今日は心配になったり、しかられる覚悟を決めたり、絶望したり安心したり気持ちが目まぐるしく変わって大変な一日です。
「それでは、すぐに返してもらいに行って大丈夫なんですね」
「うん大丈夫だよ」
そうしててんちゃんはお礼を言ってから神さまの前を退きました。天国の出口に向いながらミカエルさまが説明してくださいました。
「ぺんみさんは罪を犯してしまったので病気になりました。ひとつひとつは小さな罪でしたがそれが積み重なって重い病気になったのです。病気の苦しみは罪に対する罰ですからどのようにしても和らげることができなかったのですよ。でも、あなたはぺんみさんにぱんつを貸し与えその罰として神さまにしかられる覚悟をしましたね。そのときあなたが罪を肩代わりすることになってぺんみさんの罪が消えたのです。ぺんみさんの病を癒したのはぱんつではなくあなたの行いなのですよ」
「それでは、もうぺんみさんは大丈夫なのですね」
「ええ、だからすぐに行ってきなさい、元気になったぺんみさんに会ってくるといい」
てんちゃんはあることを思いついてミカエルさまに尋ねました。
「ミカエルさま、ぼくの犠牲の決意がぺんみさんを罪と苦しみくるしみから救ったのなら、他の人の罪や苦しみも救うことができるのですか」
「いいところに気がついたね、でもわたくしたちの心には限界がある、苦しんでいる人を救うにも限りがあるのです。無限の愛と犠牲の決意があれば全人類の罪を肩代わりしてその苦しみを取り除くことができるでしょう。それを成し遂げることができたのは神さまが天地をお創りになられてからたったおひとりだけですが。でも身近な人々、自分のまわりの人々の苦しみを和らげることは誰にでもできることなのですよ」
そう言い終わるとふたりは天国の出口に到着しました。
「さあ、お行きなさい、あなたの成し遂げたことを自分の目で確かめてきなさい」
そう言ってミカエルさまはてんちゃんを送り出しました。
てんちゃんはぺんたさんのいる南極へ向かってずんずんと降りてゆきました。
てんちゃんの翼は今は軽やかに羽ばたいています、とっても幸せを感じていました、自分の行いが誰かの役に立ったのですから、こんなに幸せなことってありません。
今度は大急ぎでてんちゃんは飛んでゆきます、まるで落っこちてゆくみたに。だって少しでも早く元気になったぺんみさんに会いたいんですもの。
「ただいま、ぺんたさん」
南極のぺん村に到着すると真っ先にぺんたさんのおうちへ行きました。
「おかえりなさい、てんちゃん」
おうちではぺんたさんとぺんみさんが出迎えてくれました。ぺんみさんはすっかり元気になってにこにことお日さまのように明るく笑っています。
「元気になったんですね、ぺんみさん、よかった」
するとぺんみさんはてんちゃんの手を取ると涙を流しながらお礼いを言いました。
「たいへんお世話になりました、あなたのぱんつを掛けてもらったら苦しみがすうぅっと消えたのです。おかげですっかりよくなりました、今は全然辛くありません、助けていただきどうもありがとうございました」
そう言ってぺんみさんはてんちゃんの小さな手を両の翼で包み込んでぎゅっと握りしめました。てんちゃんもすっかり嬉しくなってぎゅっと握り返しました。ぺんたさんも看病してくれていたおばさんペンギンもぺんじいもとっても喜んでくれました。
「ぼくのぱんつがお役に立ててこんなに嬉しいことはありません。それではもうぱんつは要らなくなりましたね」
てんちゃんの言葉にみんなの顔色さっと暗くなりました。
「てんちゃん申し訳ありません、あのぱんつはもう少しの間お借りすることはできませんでしょうか」
ぺんたさんがすまなさそうに言いました。
「実は、お隣のお子さんのぺんぞうくんが海で泳いでいるときにシャチに襲われて大けがをしてしまったのです。とても痛がっていたのですが、てんちゃんのぱんつを掛けてあげると痛みが和らいでとても楽になったんです」
そしててんちゃんをお隣のぺんぞうくんのおうちに案内しました。そこではぺんぞうくんが氷のベッドの上で苦しそうにうなっていました。シャチに齧られてぺんぞうくんのしっぽが無くなってしまっていたのです。いくらてんちゃんのぱんつでも痛みを完全に取り除くことができないような大けがでした。てんちゃんはぺんたさんに向かって意外なことを言いました。
「ひとに借りたものをまた貸しするのはよくありませんよ」
「ええ、よくわかっています、でも痛みに苦しんでいるぺんぞうをそのままにしてはいられなかったのです、わたしはどんな罰でも受けます、そのかわりあなたのぱんつをぺんぞうくんに貸してあげてください」
そういうとぺんたは深々と頭を下げました。
「だめです、ぺんたさん、今のあなたにはぼくのぱんつを他人に貸す権利はありません」
そう言っててんちゃんはぺんぞうくんに掛けられているぱんつに手を伸ばしました。
ぺんぞうくんのお母さんはぺんちゃんの手をぎゅっと握ると涙を浮かべた目でなにかを訴えるようにてんちゃんを見ました。
「てんちゃん、どうもありがとうございました、あなたのぱんつのおかげで少しの間でもぺんぞうの痛みが和らぎました。あなたの大事なぱんつはお返しします、どうぞ持って行ってください」
ぺんぞうくんのお父さんは辛そうにそう言うと下を向いてしまいました。その足下には涙がぽたぽたと落ちてゆきます。お母さんも涙を浮かべてうらめしそうにお父さんを見ました。てんちゃんは自分のぱんつをつかむと「えいっ」と力を込めて天使の癒しのパワーをぺんぞうくんに与えました、するとぱんつのしたでぺんぞうくんのしっぽの傷がみるみる癒えていったのです。てんちゃんがぱんつをはがしたときには怪我はすっかりよくなっていました。ぺんぞうくんはぱっちりと目を開くと、傍で泣いているお母さんに抱き着きました。
「お母さん、もう大丈夫だよ、泣かないで、もうどこも痛くもなんともないんだ」
お母さんはとても喜んでぺんぞうを抱きしめました。お父さんも駆け寄りぺんぞうくんとお母さんを大きな翼で包み込むように抱きしめました。
「ありがとうございます、てんちゃん。ほんとうにありがとう」
そこまで言うとお父さんは言葉に詰まってしゃべることができなくなりました。ぺんぞうくんの家族はしばらく抱き合ったままでした。
「わしからもお礼を言わせてください、どうもありがとう」
ぺんじいが言いました。
ぺんぞうくんの怪我でぺんぞうくんの家族はとても辛い思いをしました。てんちゃんの言葉は途中までぺんぞうくんのお父さんとお母さんを苦しめました。でも、最後にはみんなが喜び、幸せになることができました。神さまや天使さまのなさることには間違いはありません。どんなに辛い試練でも乗り越えることができます、最後にはきっとよい結末になるのです。正しい心を持ち、正しい行いをする人、他人を思いやり親切にする人には最後には祝福が与えられるのです。だって、神さまも天使さまもみんなに幸せになって欲しいと願っておられるのですから。
「ぺんぞうくんの傷を治したのはあなたの思いやりの心と優しい勇気のおかげですよ。あなたにぼくのぱんつを預けます。これからも困った人がいたらこのぱんつを貸して助けてあげてください」
てんちゃんはぺんたさんにそう言うと持っていたぱんつを託しました。
「でも、これは大切なものではないのですか、これがないとあなたはおなかが冷えて風邪をひいてしまいますよ」
そういってぱんつを返そうとしますと
「大丈夫です、だって、ぼく元気ですから」
てんちゃんは胸を反らせるとくるりと一回転してみせました。てんちゃんの屈託のない笑顔にその場にいたみんなの心も暖かくなりました。
「わかりました、それではこれは大切にお預かりします、そして困った人がいたら必ず助けると誓います」
そうぺんたさんが決意しますと、天から光が降って来たようにあたりがぱぁっと明るくなりました。それはたくさんの小さな光の花びらとなってみんなに降り注ぎました。神さまが正しく清い心を持った人々に祝福を与えてくださったのです。
こうして、てんちゃんは結局真っ裸のまま、ぱんつもはかないで天国に帰ることになりました。
天国に帰ったてんちゃんが全てを報告し終わると、神さまはてんちゃんを褒めてくださいました。ミカエルさまはてんちゃんに言いました。
「てんちゃん、今回はたったひとりでぱんつを探す冒険をしてついに見つけることができました。よくがんばりましたね」
「いいえ、ひとりじゃありません、ゆく先々でいろんな人に助けてもらいました。ぼくひとりでは決してこの冒険をやり遂げることはできませんでした。今度は助けていただいた方々にお礼をする旅をしたいと思います」
そう言うてんちゃんを神さまはにこにこ優しい笑顔で見ておられました。
「それがわかればよろしい、今度の旅でぱんつを取り返しにゆこうと言わなかったから合格だ」
いつも厳しく天使を監督しているミカエルさまもついにてんちゃんを褒めてくださいました。
「ぱんつはあげたのでも、取り返すのをあきらめたのでもありません。あれが人々を幸せにするのなら、できるだけ長く地上にあって大勢の人に幸せ分け与えてほしいのです。いろいろな人の手を渡って、あのぱんつはこれからも長い旅をするのです」
いつも威厳に満ちたお顔のミカエルさまもとうとうにこにこの笑顔になっててんちゃんの頭の輪っかの下に手を差し入れて頭を撫でました。
こうしててんちゃんのぱんつは今も地上のどこかにあって、人々に笑顔を届けています。だからてんちゃんは今もぱんつをはいていません。ぱんつがなくてお尻が少しばかりすーすーするくらいなんともありません、そのぶん誰かが幸せになるのならその方が何倍もいいとてんちゃんは考えています。
ぱんつをはいていない天使さまがいらっしゃるのはこういう訳があったのです。今度教会へ行ったらぱんつをはいていない天使さまを探してみてください、もし見つけることができたらそれはてんちゃんかもしれませんね。天使さまは天国からいつもわたくしたちを見守ってくださっています、ぱんつをはいていない天使さまはそのなかでも特別にやさしくて親切で素敵な天使さまなのかもしれませんね。
おしまい
漢字を使ったら読みやすくなったと思います。漢字は偉大ですね。昔漢字を廃止しようとする計画があったとか。実現しなくてよかったなとあらためて思います。