【短編】ダメ王子をそそのかし婚約破棄させた側近 だって「僕」が彼女を幸せにしたいから
「フレイヤ! 婚約破棄を申し渡すッ!!!」
「陛下はご存じですか?」
「父上は関係ない」
「さすがに関係ないわけないでしょう!? 婚姻は王国の問題です」
「また生意気な口を。私はエトランジュと幸せになるのだ。自分で見比べてみよ。美貌の差を。薔薇とカブトムシなら、だれでも薔薇を選ぶだろ?」
ホール中から嘲笑が沸き起こりました。
今は舞踏会。
当然私は一人ではないはずでした。
「はあ。また殿下はエトランジュ嬢と一緒か。フレイヤ。ここで待ってて。側近だから、まず殿下に挨拶しないと」
と、私をエスコートするオルカは、数分前に私を一人にしました。
そして、そのまま王子の隣にいるのです。
婚約破棄そのものより、幼馴染のオルカの裏切りがショックでした。
「婚約破棄、謹んでお受けします。御列席された皆様を証人に、二度と殿下の御前に立たないと誓います。エトランジュ嬢とほんの少し話しても?」
「ここでなら」
エトランジュ嬢に近寄り、できるだけ小声で尋ねました。
「第二王子殿下とご結婚なさるのですか?」
「奪ってしまって、ごめんなさいね。でもォ私、殿下を愛してしまったのォ───! 心が求めて、一生離れられないのォ───!!」
まるでオペラの悲劇のヒロインの歌声。
今にも泣きそう。でも泣かない。
「十年前の敗戦の賠償金で、いまだ王家は火の車。臣籍降下後の殿下に与える領地もないから、私と政略結婚する予定でした。本当に大丈夫ですか?」
「殿下は大公になるのよ?」
「ええ。名ばかりの」
エトランジュ嬢は顔面蒼白に。
「フレイヤ。よけいなこと言うな。エトランジュ。金勘定なんて卑しい女のすることだと、いつも言ってただろ?」
殿下が微笑みかけても、エトランジュ嬢は呆然と立ち尽くします。
「殿下。贅沢三昧のエトランジュ嬢のおかげで、伯爵家こそ没落寸前ですよ。こんな盛大な舞踏会を毎月開催してるのですから」
私の言葉で、エトランジュ嬢は、カッと目を見開く!!
「大公妃になって一発逆転するためよッ! この宝石もッ! 異国から取り寄せた絹でこしらえたドレスもッ! 舞踏会だってそうッ!」
儚げなエトランジュ嬢はどこへやら。
いちいち台詞がオペラ風。
すでに視線が集中してたのに、声までホール中に響いてしまいます。
「落ち着くんだ。エトランジュ。心配いらないから」
「どこまでダメ王子なの? お金がなきゃ生きられるわけないでしょ!」
きな臭くなってきたので、王子とエトランジュ嬢が揉めてる間に退散。
婚約破棄がなかったことにされたら、たまりませんから。
王子が私を「カブトムシ」と呼ぶのは、一度や二度ではありません。
「女のくせに、日焼けまでして金儲けなんてみっともない」
「交易で成り立つ家ですので、港では日焼けをどうしても───」
「見たぞ。女のくせに股をひらいて馬に乗るなんて恥ずかしくないのか?」
「海は天候による事故も多く、一刻を争う時もあり───」
「なんのために家臣がいるんだ」
「お父様もお兄様も、交易も戦争も、先頭に立って働きます。人任せで放置なんてことはございません」
「なんて業突く張りなんだ」
お父様に、王子に言われたままを伝えました。
当然お父様は、婚約解消を求め王宮に向かいます。
なんなら、独立して公国となっても構わんという勢いで。
婚約解消を拒否し、謝罪を繰り返したのは陛下。
「友好関係を維持したいから息子を差し出すんだ」
「要らぬと申してるのです」
「そこを何とか。よく言いきかせるから」
ですが、王子は変わりませんでした。
顔がよく、ダンスが上手く、オシャレな王子はモテるのです。
ちやほやされ、努力もない。
エトランジュ嬢が引き取ってくださるのなら、ありがたい。
これだけ騒いだのです。
エトランジュ嬢は、もう返品できないでしょう?
────── オルカ視点 ──────
「フレイヤ。待って」
「もう帰るわ」
「一緒に帰ろう」
「オルカは婚約破棄すると知ってたわね?」
なんて答える?
落ち着け。オルカ。今が一番、大切なんだ。
幼い時から、ずっとフレイヤが好きだった。
だけどフレイヤは公爵家のお姫様。
僕は、その公爵家の臣下である男爵家の息子に過ぎない。
けどフレイヤが「カブトムシ」なんて嘲笑われるのは我慢ならない。
僕は、将来フレイヤが苦労しないように、王子の側近になった。
王子はアホ。
「フレイヤは恥ずかしい女だ」
「どうしてです?」
「ほら。女のくせに股をひらいて馬に乗ってる」
「海難事故で、遺族の元に馬を馳せているのですよ?」
「たかだか領民だろ」
またある時は。
「フレイヤはあばずれだ」
「どうしてです?」
「ほら。女のくせに海賊と親しくしてる」
「あの海賊は、他の海賊から港の治安を守っています。いわば接待ですよ?」
「海賊ごときに尻尾を振って、浅ましい」
海賊のリオンと笑いあう姿を見ると、ちょっと仲が良すぎかなとは思う。
僕はフレイヤが好きだから。
けどリオンの父親こそが、過去の敗戦で公爵領を護った英雄。
王子のバイキングのイメージは、ピーターパンのそれだった。
おだてに弱く責任感皆無の王子を、婚約破棄に導くのは簡単だった。
王子は、敗戦がどれだけ国を疲弊させるかも知らないんだから。
「フレイヤと結婚となれば、殿下も働くことを強要されるのでは?」
見栄っ張りで、お人よしの王子に交易なんて無理だろうけど。
「見目麗しい殿下の隣には、薔薇のような艶やかな女性が似合うのでは?」
世間知らずのアホじゃないと、お荷物王子を引き取らないだろうけど。
「一生共に過ごす女性の顔と身体が好みでなくて、後悔しませんか?」
僕は、フレイヤがかわいくて愛しくてたまらないけど。
「よし。婚約解消しよう!」
「殿下。後から覆されないように、証人を集めて、派手にやりましょう!」
そして。婚約破棄は成功した。
「僕は婚約破棄した方が、フレイヤが幸せになると思ったんだ」
「あれだけ騒げば、私はもう傷物で、普通の結婚はできないのよ?」
ああ。それを狙ったんだ。
僕とフレイヤでは釣り合わない。
申し訳ないけど、フレイヤに落ちてもらうしかなかった。
「僕がフレイヤを幸せにする。一生大切にする。愛してる」
僕はやっとプロポーズできた。
本当に、ずっと愛してたんだ!
「嫌よ。私がバカにされても助けない男なんて、願い下げだわ」
へ? へええぇぇぇ─────────ェッ!?
「けど。けど、もうフレイヤは傷物なんだよ? 他にはいけない」
「リオンがいる。諦めてたけど、これでお父様も認めてくださるわ」
「海賊だぞ?」
「領土はなくても、王家よりよっぽど裕福で強いわ。それにね」
「ん?」
「私達、愛し合ってるの!」
陛下は謝罪として、リオンに伯爵位を与えた。
それがフレイヤの願いだったから。
財政難の王家にとっても、慰謝料より爵位の方が助かると。
公爵様はフレイヤが困らないように、小さな港を含む領地を与えた。
優秀な二人は、小さな港を交易港と栄えさせ、幸せに暮らしましたとさ。
って、オイ。
僕はどこで間違った?
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