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誤解が生みだした契約

~セドリック聖王国~


 「何⁈ 勇者と魔王の遺物が二つとも盗まれただと⁈⁈ ええい、言い訳など聞きたかないわ、至急可能な限りの人員を動員して捜査にあてさせろ!! 必ず手がかりを見つけ出すのだ!!!」


 申し訳なさそうにする大臣を片手で抑え、兵士の動員をすぐに許可する。


 魔王と勇者の亡骸は二つの教会が厳重に保管していたはずだが、その二つともが盗まれただと?


 警備をしていた人間は侵入者を見す見す見過ごしたというのか。報告がそのままの通りならば、あまりにも杜撰すぎる。


 「絶対に、隣国に知られてはならない。情報が洩れる前に、速やかに対処せよ。これは国家の存命が掛かっている」


 はっ、という返事を返した後に大臣は慌てて玉座の間から飛び出していった。


 ………普段なら玉座の間を走った無礼者は刑に処すが、今回ばかりは特別に許してやらねばならない。


 この国がほかの国より抜きん出ているのは、結局なところここに歴史的な価値がある二つの遺体が安置されているためでしかない。それがなくなれば、この国の優位性は一挙に崩される。


王は、ユリウスは片手で顔を覆い、自分以外の人間には聞こえないように小さくため息をついた。


ーーーーー

~セドリック聖王国郊外~

「これで、もう、終わりだ」


 そう言って男は火を放つ。


 百年前に動かなくなった亡骸は、焦げた匂いと共に黒い煙を吐き出し続けついに完全に消滅する。


 「ふはは、ふはハハ、フハハハハハハハ」


 狂ったように笑い続けた後に、聖王国の滅びを願った男は快調な足取りで森の奥深くへと消えていった。



ーーーーー

ーーーーー

  サクッ、という子気味良い音が断続的に耳に入る。

  

 「ほら、あなたも食べてみない?」


 「い、いいのか?」


 「リンゴは人と人とを結びつけるもの。絆を深める為には二人で一つのリンゴを食べるのが手っ取り早いの」


 そういって、メルと名乗った少女に芯以外あらかた食い散らかされたリンゴの残りかすを手渡される。


 ………俺は残飯処理係なのだろうか、とそう思いながら食べれそうな部位を探して一口食べた。


 「その文句は人生で一度も聞いたことがないが……おお、すごい甘くて美味しいな。それに何だか力が湧いてくるような気もする。手に届かないところに実るから今までしっかりと見た経験すらなかったが、やっぱり世界樹産は伊達じゃあないな」


 「でしょでしょ? 想像してた数倍も美味しくてびっくりって感じよね。力が湧いてくるっていうのは多分事実。戦ってたあの時は気づかなかったけど、素の能力の数倍は力が出せてたから。流石に全盛期の私には(かな)わないと思うけれど」

 

 「全盛期ってどういうことだ? お前は多分俺と同い年くらいだろうし、これから更に強くなるんだからそれはずっとずっと先の話だろ。 あ、その食べようとしてる最後のリンゴ俺に頂戴」

 

 「ちょっと待ってて……はい」


 そういって渡してきたのは、やはり芯の部分だった。いや、一つまるごと食べたいってことだったんだけれど…………こいつ、さては人の心無いな?


 トウモロコシのようにして回しながら食いながら、俺は切り出した。


 「こいつら、どうするつもりだ?」


 横には気絶したままの兵士達と男爵が数本の木に裸で縛り付けられていた。


 防具や武器はすべて回収して別の場所に移してある。


 「あなたが命じてくれれば全員息の根をとめるし、まあ、あなた次第ね」


 「殺すのはなあ」

 

 「一応言っておくけど、こいつらは命を狙ってきた。ならばこっちが命を刈り取ったとしても誰からも責められないわ」


 寝込んでいる金髪で憎たらしい男の顔を見る。


 いや、やっぱり。


 「生かす方向で行きたい。命は狙われたけれど、俺は死んでないしな。それに恨みで人を殺すようなことはしてはならないよ」


 「ふーん」


 適当な相槌をうちながらその少女、メルは目を細めた。それ以外に反応がなかったので本当にどちらでも良かったのだろう。


 「そういうことで、こいつらを土地管理協会に引き取って貰うのがいいと思う」


 「土地管理協会って?」


 「土地の争いについてのプロフェッショナルだ。そいつらに渡せば、取り調べが行われた後十分な証拠を見つけ次第勝手に罰してくれるらしい」


 風の噂によると、うそ発見器と呼ばれるものをその人たちは持っていてそれを使いながら尋問するらしい。


 少しの間俺も取り調べを受けることになるが、短時間で終わるだろう。


 「問題は、こいつらを二キロ先のそこへどう運ぶかだけど」


 「それは私に任せてくれたら大丈夫」


 「そうか、よろしく頼む」


 自信満々に言うもんだから、何の疑いもなく肯定してしまったがどうやって運ぶのだろうか。

 まあ、後になれば分かるか。真正面から笑顔のメルを見つめて新しい議題に移る。


 「ところでさ」


 「うん!」


 「なんでメルは事後処理まで手伝ってくれるの? もう助ける義理なくない?」


 そうなのだ。メルはもう既に俺の願いを叶えてくれた。全員気絶させた後、すぐに姿を消してもおかしくはないのだ。それなのにこうして今も俺を手伝ってくれている。


 メルがグーにした手を顎に当て首を(かし)げたので俺も首を(かし)げる。


 「いやだってさ。リンゴはもう食べたんだし、俺を助けても何のメリットもないだろう」


 「? 何を言ってるの?」

 

 「??」


 ?が頭を埋め尽くす。なにやら誤解をしていたのかもしれない。彼女は何といっていたのだっけ。


 『世界樹のリンゴが、食べたいの……』

 『私を、世界樹に、連れて行って』

 『なんでもするから』


 はっと気づき、顔を上げる。


 「お前、いつまでここのリンゴを食べる気だ?」

 

 「うーん」


 固唾を呑んで続きを待つ。そして悪びれもなく言った。


 「最低でも1年くらいは?」


 ズバンと言い放たれたその言葉は、俺の胸の突き刺さった。い、一年。


 「それまでは、あなたの家に居候させてもらおうかな」


 メルは、友達の家に一日泊まるくらいのテンションで、簡単に言ってのけたのである。


 どうやら俺はとんでもない契約を知らず知らずのうちにしてしまったようだった………。


 世界樹が葉を揺らす。空に浮かんだ満月が綺麗な、そんな日のことだった。

 

お読みいただきありがとうございます。

正直なところ筆休めとしてこの作品を書き始めたので、あんまり今後の展開とかは軽くしか考えていません(もっというと投稿されてある作品は全部、大事に温めている本命の作品の筆休めとして投稿してます)。

評価次第で続きを書こうとは思っているので(もしくは気が向いたら勝手に)。まあ、一人でも読みたいという方がいらっしゃったら再開します。では。

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