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第04話 素質①



パキパキと木の葉や小枝を踏みしめながら慎重に前へ進む。

幼い竜とそれを拐った人達の場所が近いということで、馬をとめて徒歩で進んでいた。


鳥達の『こっちだよ。』という声に導かれて歩けば、さっきの高い場所に着いた。騎士達が崖下を覗いたところ、密猟者達はまだそこにいたようだ。



ヴァイツさんが指示を出すと、騎士達はぱっと散る。岩影に隠れる私とニコルフに、危ないからここで待っているようにと告げて、ヴァイツさんも同じ竜騎士の人と一緒にあとに続いた。

残ったのは、私とニコルフと、甲冑の騎士さん一人だ。



「すげぇ緊張する…。俺が何かする訳じゃないけどさ。」


「わたしも。あの子、無事に助かると良いな。」



そんな話をしていると、いよいよ捕り物が始まったようだ。


テントを中心とした拠点を囲むように騎士が配備されていて、一斉に飛び出す。

密猟者達は突然のことに慌てて抵抗するが、騎士達の訓練された動きには着いていけず捕まっていく。


ヴァイツさん達がテントの中に押し入り、そこでも乱闘が起きているようだ。


すると。



『たすけて』



あの子の声が聞こえたのだ。



声がしたテントの方を見ると、あの緑色の幼い竜がヴァイツさんの腕に抱えられて出てきた。

そのことにホッとして、見慣れない人が来たから驚いているのかな、と思って見ていたが、何か様子がおかしい。


宥めようとするヴァイツさんの腕の中で暴れて、尚も『たすけて、たすけて』と声を上げるのだ。



「あの小さい竜、パニックになってるのか?」



ニコルフの言う通り、パニックになっているのか…。ううん、違う。あの子が伝えたいのは…。





……………………………………





やっと保護した緑竜は、キュウキュウと声を上げ続けながら、腕の中で暴れている。

安全な場所へ移したいのだが、幼いとは言え力が強い。



「収まらないな…。」


「この子まだ小さいから、何言ってるか分からないね。」



捕縛されていく密猟者達を横目に、幼竜をダイスと宥めようとするがうまく行かない。


何だ?何を訴えているんだ?



「ヴァイツさん!」



そこへ、男だらけの場にそぐわない少女の声が響く。



「テント裏の二人組!騎士じゃありません!」



その方向にバッと振り向くと、甲冑を着た二人組が、それぞれ木箱を手にしていた。



「お、俺たち、これを運び出してただけ…「あの女!」



片方は繕おうとしたが、もう片方は激昂し、箱を足元に落として弓矢を構えた。


それが引き絞られる前に、ダイスが男と少女の間に立ち、剣で弓矢を凪ぎ払う。

ダイスはそのままの勢いでよろけた男を蹴り飛ばして昏倒させ、隣の男には、冑の首の隙間から剣を突き入れた。



「痛い思いしたくなきゃ、その箱を下に置きな。」



男は短い悲鳴を上げると、震えながらゆっくり箱を地面に置いた。




…………………………



捕縛した密猟者は8人。

騎士の甲冑は万が一のときに紛れるようにと、闇ルートから事前に用意していたものだった。

近く、そのルートは潰されるだろう。


捕縛した順に護送用の馬車まで誘導させている。


騎士と偽った密猟者が抱えていた箱の中身は竜の卵で、それはクッション材と一緒に入れられていたため、落とされた木箱に入っていたものも無事だった。

そのうち、箱の中で孵ったばかりの幼竜が一体確認された。


結果として、保護したのは、竜の卵3個と幼竜2体だ。


鳴いて暴れていた幼竜は、今は機嫌良く孵ったばかりの幼竜と卵の回りをぐるぐると歩いている。




そこへ、協力してくれた少年少女が騎士に連れられてやってきた。

すると。


キュウ!


少女を目にした幼竜が、不器用な飛び方で少女に飛び付いた。

その勢いで少女はよろめいたが、少年がそれを支えた。



「偉いわね。兄弟を守りたかったのね。」



少女はキュウキュウと鳴く幼竜に相槌を打っていて、幼竜の言葉さえも届いているのだと知る。



「…騎士の真似をした密猟者を見分けることができたのは、その竜から何か聞いたからか?」


「はい。『助けて、弟達が連れていかれちゃう』ってこの子が言ったんです。そうしたら、どこからか小さな声で『助けて』って聞こえて…。声の方向を見たら木箱を抱えて逃げるような騎士がいて、おかしいと思ったんです。」



少女の話を聞きながら、内心その能力に驚く。

竜の言葉を理解すること、そして、離れた場所から上げられた小さな声の方向を辿った耳の良さ…。


彼女は間違いなく、“素質”を持っている。



「君のお陰で早期に対処することができた。礼を言おう。」



捕縛した密猟者達をダイスに任せ、協力してくれた少年少女を送るべく、数人の騎士と共に元来た道を戻った

頭の中では、稀有な才能を持った少女の処遇を考えながら…。


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