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第29話 竜の耳を持つ者

レイド視点



翌日、ロゼッタが彼女の竜から聞いた話を報告した。


北の地に住む竜が何か不穏な動きをしていて、それにはおそらく人間も関わっている。賢い竜がただ人間に利用されるなんて考えられない。ということは、その人間と絆を結んでいる可能性が高い。

さらにその竜は、ロゼッタの竜が友と呼ぶことから考えてもおそらく古竜だろう。

古竜と絆を結んだ人間が、何か企んでいるという可能性が出てきた。



「まさか、古竜が関わっているとは。」



ロゼッタの報告が終わり、団長の言葉を最後にその場に重い沈黙が落ちる。

古竜と呼ばれる存在が一体存在しただけでも驚いているのに、それが北の地にもいる。そして、離れた地で眠っていたロゼッタの竜を起こすほどの不穏な気配とは…。



「その何者かも、ロゼッタと同じように古竜と絆を結んでいる可能性があるんですよね?そんな人間なんて一体…。」



驚きの内容に、思わず口に出してしまう。

今この場には、ルーカス殿下、団長、兄様、ダイスさん、ロゼッタと俺の6人がいる。色付以上の竜と絆を結んでいる者達だ。


俺の絆の相手である水竜は、ロゼッタが鍵になると言った。それは、古竜の言葉さえ理解することができる才能を持っているから。…竜の血筋であるから。

王族達も正式な竜の血筋ではあるが、今はもう力が廃れていて、鍵とはなり得ない。

では、北の地で古竜と絆を結んだと思われる人間は?一般市民ではないないのか?


まさかとは思うが、その人間も竜の血筋…?



「…わたしと同じということ?」



ポツリとロゼッタが呟く。



「古竜の声は普通は聞こえないんですよね?じゃあ古竜と絆を結べる人間って、わたしと同じ…?」



チラリとルーカス殿下を見る。顎に手を当てて思案しているようだ。

陛下には、要らない心配をかけないようにロゼッタへ伝えなくて良いと言われていた。ロゼッタが知っているのは、自身が王家の血を引いていることだけだ。王家の血筋が竜の血筋であることは伝えられていない。

しかし、誤魔化すのも潮時ではないだろうか?

…これ以上、当事者のロゼッタを騙し続けることは、彼女のためになることなのか?



その時、ノックの音が響いた。

団長が返事をすると、部屋に入ってきたのはラルフだった。

北の地域で竜がいる伝承があるところというと、ラルフの出身地である白銀の町だ。そのため、ラルフから何か知っている情報はないか聞くために呼ばれていた。



「すみません、待たせてしまったみたいで。」


「そんなことはない、仕事中にすまなかった。単刀直入に聞くが、白銀の町では、どんな竜の伝承があった?」



ルーカス殿下からラルフに質問が当てられる。

話の焦点をうまくずらしたようだ。



「はい。俺のいた町は夏でもそこまで気温は上がらなくて、冬は雪が降り積もります。町に残ってる話だと、溶けない氷の山に白銀の竜がいて、それが町を守っているというものでした。」



溶けない氷の山…。北の方には行ったことがないから分からないが、そんなに寒い地域があるのか。では、その溶けない氷の山を探せばそこに竜の手がかりがあるのではないか。



「俺は子どもの頃、竜を見たくてその山がどこにあるか聞いて回ったんです。でも、そんな山はありませんでした。」



ルーカス殿下と団長が口を開く。



「…確かに、地図上でそのような山は記録されていないね。」


「長い年月で氷が解けたのか、それとも実際は竜がいない作話なのか…。」



あの山に竜がいた、あの洞窟に竜がいるらしい…など、竜にまつわる話は多くあれど、必ずしも全て真実とは限らない。



「しかしロゼッタの竜は、北の地にいると言っている。白銀の町を探しつつ、付近の伝承のない町でも探してみるべきでしょうか。」



兄様の言葉に皆頷き、だいたいの方針が決まる。

「白銀の町を探すなら、」とラルフが手を挙げた。



「地元の俺の友達に声をかけておきます。探し物とか得意な奴がいて、役に立ってくれると思います。」


「探し物が得意か。情報を集めるのが得意ということか?」



団長が問いかけると、ラルフは頷いた。



「はい。その友達、動物と話せるんですよ。動物達が探し物を手伝ってくれるんです。」




…今、何と言った?


さらりと言われた言葉に、誰もが驚きに固まる。

そんなみんなの様子にラルフは「あれ?」と困惑している。



「ロゼッタだって、動物と話せるよな?」


「…どうして、そう思うの?」



ロゼッタが肯定しないのは、ラルフにその事実を伝えていないからだ。動物と話せることを知っているのはラルフ以外、竜の血筋について知っているのはラルフとロゼッタ以外のはず。



「訓練生の頃、ロゼッタが鳥に笑いかけてるのを見たんだ。俺の友達もそうやって話してたから…。もしかして、違った?」



ラルフは困ったように頬を掻いて笑う。

その場にはしばらく沈黙が落ちた。




「まさかと思っていたが…。ラルフ、ロゼッタ。この話は他言無用だよ。」



沈黙を破ったのはルーカス殿下だった。

まず、ロゼッタの竜が話したことがラルフへ伝えられる。北の古竜が人間と手を組んで何かを不穏なことをしていること、その人間はロゼッタのように古竜の言葉を聞くことができ、おそらく古竜と絆を結んでいること。


ラルフは「まさか…」と小さく呟いた。話の内容から、自分の友人が古竜と絆を結び何かを企てている可能性に気付いたのだ。


そして、竜の血筋のことが話された。

動物達の声を聞くことができる才能は竜の耳と呼ばれ、その才能は竜の血を取り込んだ、竜の血筋である者だけが持つ才能であること。竜の血筋とはすなわち、王家の血族だということ。



「ロゼッタも、あいつも、王族の血を引いてるのか?…あいつは、竜と何をしようとしてるんだ?」



ラルフの顔色が悪い。予想外のことばかり伝えられ、混乱しているようだ。



「ラルフ、座って。」



ロゼッタが椅子を差し出して座るように促す。ラルフは促されるまま座り、やがてロゼッタを見た。



「ロゼッタは知ってたのか?自分が王家の人間だって。」


「…うん、知ってたよ。ブルメディアの人達に教えてもらったの。王家の血の秘密は、昨日わたしの竜から聞いたよ。」



眉を下げて困ったようにロゼッタは微笑む。


血の秘密はやはり彼女の竜が教えたのか。俺の竜もロゼッタを竜の血筋だと見抜いたのだから、彼女の竜が見抜けないはずがない。



「そうか…。ロゼッタ、君に謝りたい。大切なことなのに今まで黙っていてすまなかった。」



大切なことを本人に秘密にしていたことに対して、ルーカス殿下がロゼッタへ謝罪する。



「そんな、謝らないでください。ブルメディアの養子にしてくださったのはわたしを守るためでしょう?王家の血が利用されないように。…わたしに、家族を作ってくれて嬉しかったんです。」



そう言って微笑むロゼッタ。ロゼッタだって混乱はあるだろうに、自分の状況を受け止めて前に進もうとする健気さ。

彼女は、本当に強いなと改めて思う。



「ねえラルフ、あなたのお友達のことを聞かせて。この件に関わっているかは分からないけど、情報を整理しておかなくちゃ。」



項垂れていたラルフが顔を上げ、ロゼッタを見つめる。

しばらくの後、ラルフは一つ頷いて口を開いた。




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