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第27話 黒竜


先遣した竜騎士二名の報告は、『詳細は分からないが確かに何かいる』というものだった。

報告内容として出来の良いものではないが、それが精一杯だったのだ。

というのも、一緒に飛んだ竜が怯んでしまい、火山付近に降りられなかったらしい。


その竜達に話を聞くが、『分からないけど怖かった。』『嫌だよ、行きたくないよ。』とだけ訴える。


だがそれではっきりした。

竜が怯えるものは、より力の強い竜だ。

その火山には間違いなく竜がいる。


しかもそれは力の強い個体。団長のパートナーである赤竜や、ヴァイツさん・ダイスさんのパートナーの青竜のように、色付きである可能性が高い。


それらを考慮し、火山への調査はルーカス殿下、ヴァイツさん、ダイスさんが先導し、その他わたしを含め4名の計7名が派遣されることになった。




「わたし、火山初めて見た…。」



着陸地点を探りつつ旋回しながら、火山を見下ろす。

山というより巨大な盛り上がった岩のよう。ぽっかり空いた穴は噴火口だろうか。


初めて見る力強い景色に圧倒されていると、ヴァイツさんが着陸の合図を出した。



「アル、大丈夫?」



まだ若いアルはこの中で一番恐怖を感じているはずだ。

顔は見えないけれど、飛び方や息遣いから緊張が伝わってくる。



『…大丈夫だよ。ロゼッタと一緒だもん。』


「…うん、行こう。」



そうね、大丈夫。アルは小さい体で兄弟達を守ろうとした強い子だもん。

それに一人じゃないから。わたしがそばにいるし、他のみんなも一緒にいる。わたしも、アルやみんながいるから頑張れる。


先輩達を追って高度を落とし、羽ばたきで砂埃が舞い上がるなか着陸する。


まずは無事に目的地へ来れたことに安堵の息を吐く。アルの背から降り、感謝と労いの意味を込めてその額を撫でると、きゅーと甘えた声を出してかわいい。



色付きの竜達に先導されたお陰もあって、わたし含め緑竜に乗った皆も無事着陸できたようだ。

ミラさん、フォードさん、そしてラルフがいる。

目があったラルフに声をかけられる。



「副団長達の竜は平気そうに見えるけど、こっちはだいぶ怖いみたいだな。」


「うん、緑竜達は緊張してるね。…わたしもドキドキしてる。竜がいるって感じは分からないけど、火山てこんなにエネルギーあるんだね。」



ここに来るまでに見た灰色の大地、飛ばされたであろう礫。そしてこの場所の冷え固まった溶岩、感じる熱。


おそらくこの火山の中にいるんだろうけど、この中でも平気な竜っていったいどんな竜なんだろう。




……………


ルーカス視点




「やはり、ここにいるのは竜だと思うかい?」


『ええ、そうね。…少し面倒な相手かもしれないわ。』



私のパートナーである白竜…ディアナが言うなら相当だろう。いつも毅然とした態度の美しい彼女だが、怯えてはいないものの少し緊張している様子が伝わってくる。


確かめるために竜に接触したいが、どこから中に入ろうか。

この中に自分たちの竜はさすがに入れられないから、人間だけで行く必要がある。だが、度重なる地震は竜が関係していたというならば、その竜を刺激したらまた地震が起こるかもしれない。

ここにいるのも危険なのに、中に入れば脱出が間に合わないかもしれない。


こちらから行くのが難しいとなれば、相手が出てくるのを待つしかないが、どうする?

竜同士の呼び掛けには応えるか?その応えが友好的なものかは分からないが…。



「ヴァイツ、ダイス。君達のパートナーは何か…。」



反応しているか?と言いかけて口をつぐむ。地面が大きく揺れたのだ。


そして聞こえた、咆哮。


耳をつんざくその声は、普段竜と言葉を交わしている私でも意味を理解できなかった。



「殿下、一度避難しましょう!」



ヴァイツの声に全員が飛び立つ準備をする。

…いや、一人を除いて。


まっすぐに声の方を見つめ真剣な表情を浮かべている彼女に気がついた。



「殿下!?」



すぐ傍まで行き声をかける。



「ロゼッタ、君には何か分かるかい?」



咆哮が響く中、ただただ火山を見つめるその瞳が揺らぐ。



「…どうして、どうしてだ。…盟友よ。私はここにいる。」


「!」



やはり。彼女はこの叫びさえも言葉として聞き取っている。


やがて咆哮は聞こえなくなり揺れも収まる。



『貴女は古の言葉さえ聞き取れるのね。』


「!ディアナ。」



パートナーが私より先に彼女に声をかけた。

プライドの高い彼女が自ら人間に話しかけるのは珍しい。



『あれはとうに忘れられた言葉よ。…私の母なら理解できたでしょう。』


「!!」



その言葉に目を見開く。ディアナでさえ聞き取れず、その母ならば聞き取れた言葉とは、つまり古代言語。それを話す竜とは…。



「ここにいるのは古の竜か…!」



伝説上の存在のような生き物が今尚生きているとは。

じわりと汗がにじみ鼓動が大きく聞こえる。

もし、そんな存在が暴れでもすれば恐ろしいことになる。



全員が嫌な汗をかくなか、ロゼッタが一歩前に出る。



「わたしに彼の元に行かせてください。」


「駄目だ。何の計画もなく危険なところに行かせられない。」



ロゼッタの申し出をヴァイツが即座に切り捨てる。


言葉を理解できるロゼッタならば竜へ干渉できる可能性が高い。揺れも咆哮も収まった今、竜と接触するのも手だろう。

それはヴァイツもここにいる皆も分かっている。


しかし危険を犯すのは今じゃない。ここへはあくまで調査目的に来た。あわよくば解決できたらと頭の隅で考えながら。一度撤退して作戦を練り直した方がいい。



「絶対大丈夫、なんて言えません。だけど…多分彼は…。」




……………




ロゼッタが一人で火山へ入って数十分経過した頃、地面が一度大きく揺れた。

警戒とロゼッタへの心配が場を支配するその瞬間、大きな音をたてて火山の側面が爆発した。

…いや、爆発ではない。穴が開いて“それ”が飛び出してきたのだ。


夜を纏ったかのような漆黒、開けられた口は地獄の釜のように赤い。

空に出て翼を広げたのは、巨大な黒竜。


圧倒的なその存在感に、体が動かない。瞬きすら、忘れる。



風を纏ってゆっくりと降り立つと、鋭い金色の目がぐるりと竜騎士達を見渡した。


こちらに敵意があるのか測りかねていた時、不意に黒竜が姿勢を低くした。

それは竜騎士にとって見慣れた姿勢だった。騎士が竜に乗り降りするときの…。



コツンと靴音をならして、漆黒の竜の背から降り立った少女…ロゼッタは、仲間達を見てふわりと笑った。



「ただいま戻りました。」



美しい少女は、あろうことか古竜と絆を結んでいた。




…………………………


ロゼッタ視点




ザリ、ザリと自分の足音だけが響く。


持ってきたランタンで足元を照らしながら暗い道を歩く。

どんどん暗く、暑くなっていく。


そうしてたどり着いた中心部。


広い空間に入ると全身に熱風を浴びる。汗は吹き出し息苦しい。真っ赤な溶岩が黒い岩のつぎはぎのよう。

そんな場所の中央にいるのは、ここの主だ。


その目が開き、金色の瞳が見えた。


わたしは竜が好きだ。訓練所の竜達、騎士団の竜達、そしてパートナーのアルも、みんな等しく好きだ。


でも貴方の寂しそうな叫びを聞いた時、その瞳を見た今、わたしは貴方と翔びたいと思ったのだ。

どこまでも続く青空を貴方と一緒に。



「あなたの長い命、その一瞬をわたしと生きましょう。」



話をしましょう。あなたのことが知りたいわ。あなたのお友達にも会いに行きましょう。

…独りは寂しいもの。わたしがいればあなたは独りじゃない。



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