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第26話 動き


南方の地方で度重なる局所的な地震が観測されていた。そこは人の住む地域ではなく、旅人から地震が多発しているようだという報告で発覚したことだった。

幸い近くに居住区はないため人的被害は出ていない。

一度地震が起きると、その後に立て続けに地震があることはよくあることだ。

そのため、あまり重視されていない出来事だった。



…………………………



騎士は意外と書類仕事も多い。

日照時間が長くなり気温が上がり始めたが、室内は空気が循環されて温度が保たれている。

城の敷地内だからこんなに快適に過ごせているけれど、訓練所は暑かったなー、と思いつつペンを走らせる。


一区切りつき、大きく伸びをすると、グラスに入った冷たい飲み物が差し出された。



「お疲れ様。悪いけど、これ飲んだらできた書類を経理課に届けてほしいのよ。…ラルフも。」


「はい。」


「わかりました。」



ヴァネアさんから頂いたのは氷が入った果実水だ。飲むと冷たさが喉を通っていき心地良い。すっきりした甘さもちょうど良い。


飲み干して、ラルフと一緒に詰め所を出た。

経理課までは吹き渡りの廊下を少し歩く必要がある。つまりほぼ屋外だ。扉を開けた瞬間に暑い風を全身に浴びる。



「あちー。」


「ラルフの家は元々寒いところだったね。」



寒い地方出身のラルフは暑いのがめっぽう苦手だ。「夏期はずっと地元にいたい…。」と、嫌そうに顔を歪めている。

書類を抱える腕が汗ばんで紙が貼り付きそう。時折吹く風が気持ち程度の涼しさを運んでくる。



「…ロゼッタ最近どう?嫌なこととかない?」


「わたし?わたしは…。」



ラルフからの突然の問い。曖昧なそれに何を聞きたいのだろうと少し頭を悩ませる。彼を見ると、何でもないような顔だけれど、心配そうな眼差し。

嫌なことは別に無いと思うけど、多分ラルフが聞きたいのは…。



「ブルメディアの皆さんはとっても良い人達だよ。わたしはここに勤めてるから長期休暇くらいしか会いに行けないけど…。本当にもったいないくらい優しい人達。」



ブルメディア家の一員になって、公爵夫妻…アルベロさん、ヴィオラさんはじめ、交流会のため滞在に着いてきていた執事や侍女とも会った。

皆わたしが家族の一人になることを喜んでくれて、拒絶されていないことにまず安心した。

わたしの出生についても教えてもらって、それは今でも信じられないような気持ちでいるのだけれど。


アルベロさん達は地方に住んでいるから一緒に住むことはできないけれど、いつでも来てと言ってくれた。そう言って頭を撫でてくれたヴィオラさんの手が、とても優しかったのを覚えている。


そして、ブルメディア家がわたしの後見人になったことはあっという間に広まり周知のこととなったのだった。



「そっか、安心した。」



ほっとしたように笑うラルフを見るに、彼の聞きたいことはわたしの予想と合っていたようだ。それと同時に、そんなに心配してくれていたんだと嬉しくなる。


他愛ない話をしながら歩く廊下。暑いけど良い天気だし、晴れやかな気持ちになる。



「俺の地元は、冬はロゼッタ達には寒すぎるかもしれないけど、夏は涼しくていいんだ。ロゼッタにもレイドにも遊びに来て欲しいな。」


「そうね、わたしも行ってみたい。ラルフがどんなところで育ったのか見てみたいわ。」



ラルフは「良い所だぜ。」とへへへと笑う。



「前に妹みたいなやつが地元にいるって言っただろ?そいつにも会ってみて欲しいんだ。ロゼッタは仲良くなれると思う。」


「そうかな?仲良くなれたら嬉しいな。」



孤児院を出て以来、わたしには同性の同じ年代の友達がいない。ラルフとレイドは大切な友達だけど、女の子同士のおしゃべりもしたいと思う時がある。もしラルフの言うように仲良くなれたら、女の子の友達ができるかもしれない。



「俺、あいつとロゼッタは絶対に仲良くなれると思うんだ。なんたってあいつ…。」



そこに聞こえてきた、小鳥達の会話。



『怖いね、怖いね。』

『地面が揺れるんだよ。』

『知ってるよ、知ってるよ。』

『知ってるよ、竜でしょ。』



「…え?」



囁くように、噂話のように聞こえてきたのは不穏な内容だった。




…………………………



〜団長視点〜




大きな音をたてて扉が開き、先程出ていったばかりのロゼッタが戻ってきた。



「びっくりしたー。ロゼッタか。」


「どうしたの?忘れ物?」



そんなに慌てて彼女らしくないとみんなが驚くなか、目があった瞬間に駆け寄ってきた。



「団長!お仕事中申し訳ありません。最近、南で地震が起きていませんか?」


「あ、ああ。確かに報告が上がっているが、人への被害は出ていないそうだ。…それがどうかしたのか?」



質問に答えると、ロゼッタは眉を寄せて「やっぱり」と呟く。



「…そのことで、少しお話ししたいことがあるのです。」



彼女はちらりと周りを伺うように視線を巡らせた。皆が集まる場所では言いにくいことなのか。



「ロゼッタ、詳しく話が聞きたい。こちらへ。」



書類を届けにいったはずのロゼッタがどこで誰から何を聞いたのかはわからない。


一先ず会議用の個室へ入り、話を聞くことにしたのだが…、個室に連れてきて正解だった。

ロゼッタが話を聞いた相手は人間ではなく鳥だった。

遠く南の地で起きた出来事を動物達が伝え合い、こんなところにまで届いたのだという。


もしこの事を他の誰かが同じように報告したのならば、働きすぎだと休ませるところだ。

だが報告者はロゼッタ。その話の信憑性が格段に上がる。

ロゼッタが動物と意思疏通を図れることはその出自を勘繰られかねないため、同じ竜騎士といえど、皆には伝えられていない。



「竜が関係しているというのは、見た動物がいるのか?」


「直接見た動物がいるかはあの鳥達からは分かりませんでした。でも、竜のせいだと言うのです。」



その鳥達の話をどこまで鵜呑みにして良いものか。



「…とりあえず、竜騎士を数名送って報告させるか。」



竜の可能性があるとなると、何かが起こる前に調べておかなくては。

2日後、二人の竜騎士を南へ派遣した。その報告が不吉なものでないことを祈るばかりだ。




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