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第24話 湖の竜②


森から帰還して、レイドのパートナーにはとりあえず色付き専用の竜舎に入ってもらった。湖の中にいた竜なので、きっと水辺があった方が環境的に良いだろう。環境整備はなるべく早めに取り掛かってもらわなければ。


ただでさえ貴重な竜のなかでも強い個体である色付きを迎え、更にその相手は入隊して一年にも満たない新人騎士。

こんなにおめでたく驚きのニュースはあっという間に広まったのだった。


竜騎士の詰め所に戻ると、新たに加わった竜を目撃した先輩方からレイドは質問攻めにあった。その様子を見た先輩達もレイドを取り囲む。


そんなみんなを見て、フォードさんは「レイド疲れてるからほどほどにしろよー。」と言い残し、団長の執務室へ向かった。今回のリーダーとして報告してくれるみたいだ。

わたしはラルフを見つけてそばに行き、レイドを中心とした熱狂の渦から少し離れた。困ったような顔をして先輩たちに応えるレイドは、なんだか可愛く見える。


竜と絆を結ぶというのは竜騎士にとって憧れだ。先輩騎士達は「俺も」「わたしも」と士気が上がったようだし、国にとっても色付きが増えたことは喜ばしいことだそうだ。



「すげえなレイド!まさか絆を結んでくるなんてな!」



熱い先輩達にやっと解放されてレイドはわたし達のところへ来た。グラスに入った水を差し出しながらラルフが声をかける。

レイドはグラスを受け取って、ゴクリと嚥下し喉を潤した。



「正直自分でも信じられない。あの綺麗な竜と絆を結べたなんて。」



片手で持ったグラスのなかを見つめながら思い浮かべるのはあの湖の竜だろう。本当に綺麗な竜だった。まるで湖の神様と言われても信じてしまいそうなくらい。



「…あの老竜が来た時、俺はロゼッタに用があるんだと思ったんだ。」



手の中の揺れる水に視線を落としながらポツリと呟く。



「色付きと絆を結んだ時もロゼッタのことが頭をよぎった。ロゼッタと絆を結んだ方がこの竜にとって幸せなんじゃないかって。」


「…何言ってるの?湖の竜は最初からレイドと絆を結びたかったのよ?」



そのためにあの老竜をレイドの元へ送り、自分の元へと案内させたのだ。老竜がレイドを湖に突き落としたというのは、お茶目で笑ってしまったが。


そうだろうか…と、瞳に不安を浮かべる彼は珍しい。

…もしかして、わたしが竜達に気に入られやすいから、湖の竜もわたしが良かったと言い出すんじゃないか不安なのかな。



「レイドのパートナーはレイドと翔びたいって思ってくれたのよ。他の誰でもない、あなたと。…その愛を疑うの?」



赤い瞳をまっすぐ見つめれば、同じ強さで見つめられる。



「…いいや、疑わない。…どうかしてた。」



レイドはフッと笑ってグラスの水を飲み干した。その顔はスッキリしたように見える。



「これから共に翔べること、心の底から嬉しいと思ってる。それに、…少しは気に入らない奴等を見返すこともできただろ。」



先程までの穏やかな笑みとは一転、彼はニヤリと笑った。



「……。」


「…お前、そんな悪い顔もできたのか。」



わたしが思ったことを代弁するかのようなラルフの言葉に頷く。

いつもの彼らしからぬ笑い方に少し驚いたけど、新たな一面を見れた気がして嬉しかった。




……………




「…愛だのなんだの、あいつらの会話…。」



にこやかに笑い合う可愛い後輩達を、その先輩達が少し離れたところで観察していた。


一人がボソリと呟いた言葉に一様に頷く。

言いたいことは皆同じだ。


あの三人にはヒヤリとさせられることがある。

ロゼッタは恵まれない環境で育ったとは聞くが、それでもまっすぐに育ったのだろう。あの年頃に似つかわしくないほどの純粋さを持っているので、聞いているこちらが気恥ずかしくなるような言葉を自然に言うことがある。愛とか、好きとか、大切だとか。

それも、あの美しい顔と声でだ。


それは主に同期の二人に向けられるのだが、あの二人は照れることもせず当たり前のように受け流している。


訓練生時代からの付き合いで慣れたのだろうと思うが、若く綺麗な男女が近い距離で親しく微笑み合っているのを見せられる側にもなってほしい。


ヴァネアとミラのように、目の保養だと微笑ましく見守っている者もいるが、そわそわと落ち着かない気持ちになるものがほとんどだ。



「いいんじゃないか?悪い虫が付かないように牽制になるだろ。」


「副団長…。」



団長との話が終わったようで、執務室から出てきた。今回のことを報告したフォードは先に出て仲間に混じっている。

そこに、ずいっとヴァネアが詰め寄る。



「副団長はやっぱりレイドとくっついて欲しい派ですか?それともラルフ派?」



ロゼッタ達三人に聞こえないような小声で、しかし好奇心の抑えられないキラキラした目を向けるのを、「おいおい」と周りが慌てて止めようとするが、意外なことにヴァイツは「そうだなぁ…。」と考え始めた。



「自分の弟とくっつけば、可愛い妹ができるわけだからそれもいいが、ラルフも良いやつだからな。…まあ、本人達が幸せなら、周りがとやかく言う必要はないだろう。」



確かにそれはそうだ、と皆頷く。聞いた張本人のヴァネアは、「さすが副団長!私も同意見です!」と嬉しそうにしていた。







部下達が楽しそうにしているのを見ながら、ヴァイツは先程までの団長との会話を思い返していた。


フォードから報告があったように、レイドは色付きと絆を結んで帰ってきた。レイドが三日月の森の主をパートナーとして連れてきたことは、同じ竜騎士として、また兄として誇らしかった。


昔から存在が知られていながらも動くことのなかった色付きが、今回、人間と交流を持ち絆を結ぶまで至った。


そう、長らく湖の底で動かなかった竜が、だ。


単純にその竜のお眼鏡に適う人間がたまたま現れただけかもしれないが、長い間人間の前に姿を表さなかったような存在がどうして今になって…?


俺とダイスのパートナーは双子竜だ。

西方の双子滝と呼ばれる場所で出会い絆を結んだ。

色付きにふさわしく体は大きく力も強いが、竜のなかでは若い方だ。


殿下の白竜も、団長の赤竜も、年を取っているとまでは言えない。

過去の例からみても、人間と絆を結ぶのは、好奇心や知識欲の深い若い竜が多いのだ。


それと比べ、レイドの竜はだいぶ年を取っていると思われる。その体の様子や、何十年も前から記録が残っていることなどからの予測でしかないが。


これは、レイドのパートナーから色付きが動き出していることとの関係性を聞けるかもしれない。


同期達と談笑する弟を見つめる。


今日は人生の中でも突飛なことが起きたばかりで疲労が溜まっているはずだ。まずはしっかり心と体を休ませてあげなければ。

十分に休んだあと、レイドを通してあの竜に何か思惑があるのか聞かなくては。



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