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第21話 交流会②


そうして迎えた交流会当日。


竜騎士は新人は全員参加、先輩達は職務もあるためスケジュールに問題のない者のみ参加となっている。


一方貴族は結構な数が集まっているらしい。竜騎士と顔馴染みになっておきたい、息子や娘の相手を見繕いたい等、様々な思惑が渦巻いている。



「まあ竜騎士の相手はだいたい竜騎士なんだけどね。…はい、できた!」



ヴァネアさんが化粧筆を置くと、ミラさんに手を引かれて鏡の前へ立つ。



「ほら、とっても綺麗。」



お二人に挟まれるようにして鏡を見る。

竜騎士の色である青のドレスを身に纏ったヴァネアさんとミラさん。そして、新人恒例の白一色のドレスを着たわたし。


化粧を施してもらって、髪も綺麗に結い上げてもらった。



「すごい…。」



こんなに綺麗な服を着たのは初めてだし、お化粧も髪も全体的にキラキラとしていて素敵だ。これならヴァネアさん、ミラさんと並んでも恥ずかしくない。


そう伝えると、「何言ってるの、いつも可愛いんだから大丈夫よ。」と優しい言葉をかけてくれた。

孤児院にいた時に、年上のお姉さん達が花冠を作って被せてくれたことをふと思い出す。わたしは昔から、ありがたいことに優しい人達に囲まれているなと思うと、胸があたたかくなった。



それからわたし達は、会場建物内の別室の控え室へと向かった。そこが竜騎士達の待機場所となっている。

入場順は貴族、竜騎士、王族となっており、貴族達の入室を待ってからわたし達も入室する。


控え室前のドアマンが扉を開けてくれて、三人で中へ入る。そこには既に男性陣が揃っていて、みんな燕尾服を着こなしている。



「おっ!お嬢様方が来た……。」



わたし達に気が付き一人が声を上げると、皆こちらを向き…固まった。


あれ、どうしたんだろう。

…もしかして。



「何か変、ですか…?」



ヴァネアさんとミラさんは誉めてくれたけど、どこか変なところがあったかなと不安になる。



「ロゼッタが綺麗すぎてビックリしただけよ。まったく、男共!誉め言葉の一つぐらい寄越しなさいよ。」



ヴァネアさんが戸惑うわたしの肩を抱き寄せて言い放つと、ミラさんはうんうんと頷く。

するとハッとしたように「似合ってます!」「お三方お綺麗です!」などとあちこちで声が上がった。


みんな正装をしているけど、女性が強いいつもの職場の雰囲気のままで、なんだか可笑しくて笑ってしまう。



「みんな揃っているね。」



そこへ入室してきたのはルーカス殿下だ。



「やあヴァネア、ミラ。ロイヤルブルーのドレスよく似合っているよ。その姿を見られるのが毎年の楽しみなんだ。」



入室してわたし達を見てすぐ、王子様スマイルで息をするように誉め言葉が出てくる。

誉められた二人は恭しく礼をとった後で、「これよこれ。全男性にこうあって頂きたいものだわ。」と周りに視線をめぐらせている。視線を向けられた先輩達は苦笑いだ。



「ロゼッタ。」



名前を呼ばれるとそっと手をとられる。



「とても綺麗だね。咲き綻んだ花のようだよ。今日は是非わたしに君をエスコートさせてくれ。」



間近で向けられた美しい微笑みと言葉に、頬が熱くなる。なんとか返事の代わりの礼をとれた。





貴族達が入室し終わり、次はわたし達竜騎士の番だ。

団長から順に先輩達が入場していく。

その後ろから、レイドはヴァネアさんを、ラルフはミラさんをエスコートして、わたしはルーカス殿下にエスコートされて入場する。


会場に入った途端、シャンデリアの眩しさに目が眩む。それとなく視線を巡らせれば、豪華な装飾や色とりどりの衣装を身に纏った華やかな人々が目に入り、なんだか別世界に来てしまったように感じる。

しかし、これまでの練習を無駄にするわけにはいかない。

緊張で震えそうになる足をなんとか動かして、ヴァネアさん達と特訓した微笑みを浮かべながら前を見つめて歩く。


決められた立ち位置まで来て待機すると、続いて王族の入場だ。

煌びやかな会場の中でも霞まない金色の髪と金色の瞳。シャンデリアの光に照らされて輝くそれは、建国の王様が竜に愛された証だとされる。


国王陛下、妃殿下、第一王子殿下が入場し、それぞれ会場一番奥に用意された椅子の前に立つ。



「今宵は我が国が誇る竜騎士達が主役。皆、楽しんでくれ。」



陛下の挨拶が終わると楽団の演奏が始まり、人々の賑やかな声が響いた。



「ロゼッタ、私の側を離れないで。多分とても疲れるだろうけど、その笑顔を絶やさないでね。」



満を持して交流会開始となった直後、ルーカス殿下にそう言われた意味を後々知ることになった。





……………




貴族って、大変なんだなぁ…。


艶々した桃色のケーキを口に運び、その甘さに癒されながら思う。


主催者である殿下への挨拶が終わった後、本当に多くの人に声をかけられた。



「私は__家の_と申しまして。」

「ご機嫌麗しく。いやはや、貴女が噂の…。」

「是非お知り合いに…。」



老若男女、多くの華やかな人達に話しかけられた。


けれどわたしは一言も言葉を発していなくて、全て殿下が相手をしてくれた。

にこやかに穏やかに、それとなく貴族をいなす手腕は鮮やか。


わたしをダンスに誘おうとした男性もいたけれど、右手は殿下の腕に置いたまま、左手にはヴァイツさんにそっと渡されたグラスを持っていたので、みんな視線を泳がせて諦めていった。



目がチカチカしてしまったし、ずっと微笑んでいたから頬も痛い。人々の勢いに気疲れしてしまった。



殿下はそんなわたしを見て、邪魔者は来ないように見張っておくからと、中からカーテンを引いたバルコニーに逃がしてくれたのだった。


備え付けの椅子に座って、スイーツを頬張りながら遠くを見ていると。



「ああー疲れた。」



ラルフとレイドが入ってきた。

おそらくヴァネアさん達が逃がしてくれたのだろう。



「三人揃っていなくなって大丈夫かな?」


「まあ少しくらいいいだろう。先輩方の厚意に甘えよう。」



二人とも椅子に腰かけて、持ってきたドリンクをゴクリと飲んでいる。二人もお疲れのようだ。



「人を獲物みたいにわらわらと…ロゼッタも疲れただろ?」



ネクタイを緩めながらラルフが言う。



「わたしはほとんど殿下が相手してくださったから…。でも人の勢いに疲れちゃった。ヒールも履き慣れないもの。」



靴は歩きやすいものを選んだけれど、踵が高いだけでも疲れるものだ。



「んん、…足は隠そうか。」



靴が見えるようにドレスの裾を持ち上げると、ラルフに止められた。子供っぽかったかな。






しばらく無言で夜空を見上げる。


会場から漏れ聞こえる喧騒とは対照的に、涼やかな風が吹き月明かりが照らすこの場所は心休まる。


静かだし、二人と一緒だし。


最近はそれぞれが先輩に着いて業務を行っていたし、わたしは慣れない準備で忙しかったから、三人一緒なのは久しぶりだ。

沈黙も心地良い。



「…綺麗だ。さっきは出遅れて言えなかったが、とてもよく似合ってる。」



不意に響いた声に「え?」と振り向くと、穏やかな赤い瞳がこちらを見つめていた。

その真っ直ぐさに、思わずドキッと心臓が跳ねる。



「俺も!さっきはヴァネアさん達の言う通り、あんまり可愛くて言葉が出なかった。綺麗だよ。」



すると今度はラルフからも微笑みを向けられる。大好きな二人から誉め言葉を贈られて、気恥ずかしいけどとても嬉しい。



「ありがとう、嬉しい。レイドもラルフもとっても格好いいよ。」



頬がほんのり熱く感じる。レイドは少し目線を反らして、ラルフは頬を掻く。気恥ずかしいのは二人も同じようだ。



「…よしっ、じゃあそろそろ戻るか!」



そんな空気を振りきるように、スッと差し出されたラルフの手。

エスコートかな?と顔を見上げる。



「つまらない奴相手にするのも疲れるだけだろ?それなら一緒に踊ろうぜ!」



手をとられてカーテンを潜る。眩しさと賑やかさの中に戻ったが、ラルフが楽しそうなのでわたしまで楽しい気持ちになってしまう。


ダンススペースに入ると、ちょうど、少しアップテンポな曲に変わった。この曲は若い男女が好み、軽いステップが特徴的だ。


マナー講座と同じくらいダンスの練習も頑張った。あまり上手ではないけれど、ラルフがカバーしてくれる。



「ダンス誘っておいてだけど、足は大丈夫?」



ダンスを続けてしばらくして、ラルフが声をかけてくれた。さっき疲れたと言ったのを気にしてくれたようだ。



「大丈夫、楽しいわ!」



ラルフの足を踏まないか心配だけれど、先程のような緊張がないから気が楽だ。純粋にダンスを楽しめる。



「良かった。…俺も楽しいけど、そろそろかな。」


「え?」



くるくる回って離れ、戻るタイミングで別の手がわたしの手をとらえた。

驚いて見上げると、それはレイドだった。


ちょうど曲が変わり、今度はしっとりした演奏になる。



「びっくりした。レイドで良かったわ。」


「それは光栄だな。」



フッと表情を緩めたレイド。

レイドの家は代々竜騎士を輩出している名家だと聞いていたが、今日の装いと上品な仕草を見て、改めて貴族なんだなと思う。

重ねた手も、腰に回された手も、こんなに近い距離も…。何故だか胸が高鳴る。練習の時や、さっきラルフと踊った時はこんな風じゃなかったのに。

練習の時は余裕がなかったからかな?

ラルフの時はポップな曲だったけど、今は落ち着いた曲だからかな?

胸の高鳴りの原因を探してしまう。



「おっと。」


「あっ…ごめん。」



余計なことを考えていたら、ステップを間違えそうになってしまった。すかさずレイドがカバーしてくれる。



「大丈夫、ダンスは二人で作り上げるものだからな。…ほら、騎竜と同じだ。言葉やそれ以外を通してコミュニケーションを取りつつ二人で息を合わせる。」


「騎竜と同じ…。」



そうか、そういう考え方もあるのだ。

わたしは騎竜が好きだから、そういう考え方をするとやりやすいかも。



「そう、上手。…ダンスでは他の考え事は無しだ。」


「えへへ、ごめんなさい。」



ダンス中なのに他のことを考えていたのがレイドにはお見通しだったみたいだ。何を考えていたかは、なんだか恥ずかしくて言えないけれど。


それからは、余計なことを考えずダンスを楽しむことができた。交流会前半のストレスを晴らすように、ラルフとレイドと一緒に踊ったのだった。





……………




夜が更け、王族の方々は退室された。

今年も大した収穫は得られなかったと、貴族達も続々と帰っていく。わたし達もそろそろ帰る準備かなと思っていると、ルーカス殿下に呼び止められた。


三人ではしゃぎすぎてしまったかなと少し恥ずかしくなっていると、着いてくるように言われ、会場の外のとある部屋に入った。



するとそこには、壮年の男性と女性がいた。


何度も見た貴族名鑑を思い出す。そうだ、この方々は…。



「ブルメディア公爵並びに、公爵夫人だ。…こちらが竜騎士のロゼッタです。」



ルーカス殿下に紹介されて慌てて礼をとる。


王家の特徴である金の髪と瞳…、ブルメディア公爵は王家の血筋の方だ。グレーの髪と瞳の公爵夫人と共に地方に住んでいて、あまり社交界に出ないと聞いたことがある。お二人とも、年齢を重ねても綺麗な方だ。



「ああ…。」



漏れるように聞こえた声に顔をあげれば、公爵夫人が瞳に涙を溜め、白いハンカチで口許を押さえていた。


揺らぐ瞳は悲しそうにも嬉しそうにも見える。

どうして、わたしを見てそんな顔をするのか不思議に思う。

…どこかでお会いしたことがあったのかな。


公爵はそんな夫人を気遣うように、そっと背中を撫でている。そして、わたしへ声をかけた。



「はじめまして。交流会の途中で呼び出して悪かったね。…君に大切な話があるんだ。」



“大切な話”と聞いて身構えるが、対して公爵の表情はとても穏やかだ。



「君にはね、ぜひ私達の孫になってもらいたいんだ。」


「!…孫、ですか?」



突然すぎる話に困惑する。

市井出身のわたしが公爵家の孫に?何故?どうして?竜騎士だから?



「公爵、気持ちが逸るのはわかりますが、彼女にはまず説明が必要です。」


「ああ、そうだな。」



驚きに固まるわたしを見て、公爵は穏やかに笑う。



「竜騎士は貴重な存在だ。それ故に喉から手が出るほど欲しがる者達もいる。…後ろ楯のない君は一番狙いやすい。」



交流会前に先輩方から聞いている。竜騎士より貴族の方が身分が高く設定されているから、竜騎士の価値を見誤って手を出してくる者がいると。

過去に、個人やその家のモノになるように手を回してくる例もあったそうだ。

竜騎士本人の意思も考慮されるらしいが、とある例では、その竜騎士の家を助けるからと交渉され従った者もいたそうだ。


それを聞いて思ったことがある。

わたしの育った“家”を助けてくれると言われたら、どうする?と。

大好きなシスターや、一緒に育ったみんなを思い浮かべた。みんなが生活に困らず、これ以上かわいそうな子供達が出なくなれば…。わたしはその手助けをしたくて竜騎士になった。

わたしのその夢を叶える手助けをしてあげると言われたら、たとえ団長達に注意してと言われた貴族でも、その手をとってしまうかもしれない。



「私達は下らない者に人生を狂わされるのを危惧している。そのためにロゼッタ、公爵ご夫妻に君を頼みたいとお願いしたんだ。」



ルーカス殿下…、いやおそらく王家の計らいだろう。

下手な貴族に狙われるならば、それを凌駕する存在に守られれば良いと。



「…どうして、ですか?」



近づかない方が良い人には赤丸をつけられた貴族名鑑を思い出す。信頼のおける高位の貴族は何人かいるはずだ。

なのにどうして、王家の血が入った最高位の貴族にわたしなんかを頼んだのだろう。


そこまでする価値が、わたしにあるだろうか?



「…娘に、似てるのよ。」



わたしの不躾な質問にポツリと答えたのは公爵夫人だ。

涙に濡れたグレーの優しい瞳。それは、竜騎士に誘われたあの夜に、院長がわたしに向けてくれたものと同じ温かさを感じた。



「亡くなった、私達の娘に似ているの。…貴女さえ良ければ、家族になってほしいわ。」




その数週間後、わたしは正式にブルメディア家の一人となった。



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