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第15話 力

レイド視点


王の執務室にて



その場には長い沈黙が落ちていた。


竜騎士副団長…兄からの報告の後、自分の目で見たことを述べるようにと言われ、誘拐されてから救出されるまでのことを話した。


俺達が監禁されたあの古い部屋で、ネズミ達は明らかに彼女の願いを聞き入れ、それを叶えようと動いていていた。

先に兄から報告されたことと結びつけると、ロゼッタと話したネズミは屋外へ出て烏に情報を伝えた。そして烏は鷲に情報を伝えた。その間に他にも動物が関わっているかもしれないが、動物達のリレーで俺達が監禁されていた場所が人間へ伝えられた。

とても信じられないことだが、実際にそれが起きてしまっている。


追手の騎士達から逃亡するために荷馬車に乗せられたときは、ネズミが服に忍び込んで付いてきて、敵に気づかれないように俺の縄を噛み切っていた。

そのおかげで、最後に出てきた男を蹴り飛ばすことができた。


自分でもまだ整理しきれていないことをなんとか話し終えると、そこから長い沈黙が落ちたのだった。




「力を持つものがいると報告は上がっていたが、…まさかこれほどとは。」



沈黙を破ったのはこの場の最高権力者、すなわち国王陛下だ。やや顔を伏せ、深く溜息を吐いた。

今この場にいるのは、竜騎士団団長・副団長、陛下護衛の近衛騎士、そして俺だ。


この国の始祖たる初代国王が、竜とともにこの地を平定したという話は小さな子供でも知っている。しかし、実はその他の動物とも心を通わせることができたという話はあまり知られていない。


団長の家も、兄や俺の家も、初代から竜騎士を輩出している。だからこそ知っていた。

竜と話すことができるのは才能を持つ者だ。遺伝も関係するとされているが、本人の資質が備わっていれば誰にでも可能性はあるし、竜との相性や訓練次第で心を通わせることができる。

しかし、その他の動物達とも話すことができるということは…。



「その娘はおそらく王家の血筋の者だろう。」



その言葉に息を飲む。

この場にいる皆が思っても口に出さなかったことだ。


尊い血は不用意に増えないように管理されるものである。

それが、市井の…それも孤児院育ちの少女が尊い血を受け継いでいるなんて、あってはならない話だ。

以前から、ロゼッタが動物と話せることは報告されていたようだが、今はじめて陛下が血縁を認める発言をした。



「箝口令を敷く。その娘には、動物と話せることは他者に伝えないようにとだけ話せ。あえて真実を全て話すこともなかろう。」



国を揺るがすような事実を本人にも伝えず、この場にいる者達の心の内にだけ留めろというのだ。


臣下である俺達の選択肢は、「肯定」ただ一つだけだ。苦い思いを抱えながら、頷くことしかできない。



「内々に調べてくれ。」


「御意。」



陛下は近衛騎士に短くそう命じると、その場は解散となった。



……………



執務室を出て歩きながら考える。


なぜ王家の血を受け継ぐ者が孤児院で育ったのか。ロゼッタの親は王家の血筋の者となると、一体誰なのか。ロゼッタが孤児院に入った経緯は聞いたことがないが、まだ小さいうちに捨てられたのか、不慮の事故に遭ったのか…、謎ばかりだ。


そして、懸念することが一つある。

王家でも、その他の貴族の家でも、意図せず見つかった血は、余計な争いを避けるために不幸な事故に見舞われる形にすることもある。

事故までいかずとも名目上は病気療養という形で幽閉したり、不用意に増えないように飼い殺したり。


穏やかに微笑むロゼッタの顔が頭に浮かぶ。


もし、ロゼッタがそんなことになったら。その笑顔が曇るようなことが起きたら…。



「あの子の心配か?」


「!…はい。」



一緒に歩いていた兄に問いかけられた。俺の顔を見てやや表情を緩めると、「大丈夫だ。」と言った。



「報告を聞く限りでも、あの子は竜騎士としての才能がある。不幸な結末にはならないだろう。」


「そう、ですよね。」



兄の言葉に、ああそうか、と少し肩の力が抜ける。


そうだ、彼女は貴重な力を持っている。それをなきものにするのは、国の損失だろう。

もしかすると行動制限くらいはかかるかもしれないが、最も不幸なことは起こらないはず。



「レイド。」



名前を呼ばれて兄様を見る。



「無事でよかった。」



慈しみの目で見つめられ、優しい声で無事を喜ばれた。

優しいアメジストの瞳を見て改めて思う。

この人が兄で良かったと。

無事に帰って来れたとはいえ、自分も誘拐の被害にあった一人だった。ロゼッタのことの衝撃が大きすぎて自分のことは自然と頭から抜けていたが、兄は俺のことも心配してくれていたのだ。


長く、兄と自分を比べて貶す声ばかりを聞いていて、兄の声を聞いていなかったように思う。いや、聞こうとしていなかったのは俺自身だ。


兄は、自分を大切に想ってくれている。


それに気付かせてくれたのはロゼッタだ。




今日はロゼッタにばかり守られてしまった。

自分の判断ミスや、あの時こうしていればなど、後悔することはたくさんある。

今度はロゼッタを守れるくらい強くなりたい。

大切なことに気付かせてくれた彼女を、今度は俺が守るのだ。



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