第14話 訓練生誘拐事件②
ヴァイツ視点
訓練生二人がいなくなった。
二人がいなくなったことが分かったのは、竜舎の竜が騒ぎ出したから。
竜の言葉を聞いた調教師のザンドさんが速やかに教師陣に伝え、その他の生徒を寮に集めて安全を確保したうえで騎士団へ通報した。
その通報よりも早く、たまたま近くを警備していた俺達の竜が、学園にいる竜の声を聞き付け、いち早く駆けつけることができた。
職員達に詳しい話を聞くと、最後に目撃したのは寮母のハルさんで、現場と思われる場所には洗濯物が散乱していた。
そして、いなくなったのは、レイド・シルバーと途中入学のロゼッタだった。
どちらも俺に深く関わりのある訓練生で、怒りと焦りが募る。
ロゼッタは俺の提案を受け入れて竜騎士を目指してくれた。よく学び、生活態度も良く竜からの信頼も得ていると報告が上がっている。
そして、レイドは俺の大切な弟だ。俺に憧れて竜騎士を目指したことは知っている。幼い頃から周囲の心無い言葉に傷付き、それでも前を向いて真面目に努力してきた。
そんな二人が悪意に晒され、今もどうしているか分からない状況が腹立たしくてたまらない。
肩を軽く叩かれてハッと我に返る。肩を叩いたのは一緒にここに来たダイスだった。
ああ、そうだな。まずはやるべきことをやらなくては。
竜騎士は貴重な存在だ。誘拐してどこかに売り飛ばそうとしているのか、それとも身代金でも要求する気なのか。
急いで足取りを追い保護しなければ、と動き出そうとしたとき、『こちらだ。』という相棒の竜の声が聞こえた。
ダイスも自分の竜の声が聞こえたらしく、俺と目を合わせて頷く。
校舎の外に出れば、竜が待機する場所の近くの木に、大きな鷲がとまっていることに気がついた。
『これが場所を知っている。』
俺達は竜の言葉と、その鷲を信じることにした。
鷲が先導するのを後から合流した地上チームが馬で追い、俺達は空から追う。
訓練所からどんどん離れて行く。この方向からすると、向かう先はおそらく貧民街だろう。
人が多い場所に隠そうという魂胆か。
鷲を目で追っていると、前方から飛んできた烏と合流し、何度か二羽で旋回するとそのまま先へ飛んだ。
…?何だ?
異なる種類の生き物が衝突もせず、むしろ協力している…?
『いたぞ。』
しばらくして相棒が呟く。その目線の先には荷馬車が走っている。あの中に二人はいる。
地上チームも見つけたようで、荷馬車の後を追っていると、突然荷馬車の馬が暴れた。
大きく嘶き暴れる馬に御者が鞭を振るうが、制御不能となっている。その衝撃で荷車は横転し、操縦していた男はひっくり返った。そして荷馬車の幌が外れ中身が飛び出した。
「保護しろ!下手人達は拘束!」
箱やロープ等と一緒に転がり出たのは、紛れもない俺の弟レイドと、竜騎士に推薦した少女ロゼッタだ。
地上チームが横転した荷馬車に追い付き、転がっていた男二人を確保した。そして、訓練生二人を保護しようとしたのだが。
「お前ら寄るんじゃねぇ!ぶっ殺すぞ!」
荷台に潜んでいた三人目の男が、ナイフをロゼッタの首にあてた。男の目はギラギラと光りもはや正気ではない。いつロゼッタの首にナイフが突き立てられてもおかしくない。
…人質を取られては動けない。
すると。
『『グルアァァ!!!』』
「!」
咆哮を上げたのだ。
俺と、ダイスの竜が。
空気を切り裂き大地まで震えるような咆哮に男は震え上がる。
ナイフが首もとから離れたその一瞬、男に飛びかかったのは案内役の鷲だった。
羽ばたきながら何度も男の頭を爪や嘴で攻撃する。驚いた男が鷲にナイフを振るおうとすると、その手に何匹もの鼠がかじりつき、悲鳴を上げてナイフを落とした。
さらに、古びた建物の隙間から野犬が出てきたかと思うと、男の肩に噛みつき、男は悲痛な声を上げる。
誰もがその光景に呆然とした。
種族の異なる生き物達が協力し合っているようにしか見えない。こんなことが、あるのだろうか。
…いいや、見ている場合ではない。止めなければ男が死んでしまう。
竜を地上に降ろし、その背から降りた。そして走り出そうとしたとき、声が響いた。
「やめて。」
それは、ロゼッタだった。
その直後、ピタリと動物達の動きが止まり、ゆっくり男から離れた。男は地面に倒れ気絶している。
そして動物達はロゼッタの周りに集まりだした。
「もういいよ。心配してくれてありがとうね。」
この衝撃を表す言葉を俺は知らない。
異なる種類の動物達が力を合わせ、ロゼッタを救わんとし、そしてまたロゼッタの声に応えた。
さらに、プライドの高い竜ですら、ロゼッタを救わんと自ら咆哮を上げた。
ロゼッタ、君は…。
バキッ!
…!まだいた!四人目!
地面に転がった箱に小柄な男が隠れていた。その男が落ちたナイフを拾おうとした瞬間、
「この下衆がっ!」
レイドに蹴り飛ばされ昏倒した。
こうして、犯人達は確保され、訓練生二人は無事に保護された。




