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第10話 志


今日も竜舎の掃除をしながら、最近の気がかりについて考える。

ここに入学してから2週間、同期の人達と講義を受けたり、ご飯を食べたり、今のように竜の世話をしたりしてきたが、一度も会話をしたことがない人物がいるのだ。

ブラシで床を磨きながら、その人物のことを覗き見る。


みんなからレイドと呼ばれている、銀色の髪に赤い瞳を持つ、中性的な彼。

同期なのだから仲良くしたいなと、声をかけようとはしているのだが、それとなく避けられているような気がする。

ラルフ達とは普通に話しているように見えるのに…。

あまりにも話せないので、ラルフにどういう人なのか聞いたことがある。



「入学してから今までの印象だと、まっすぐなやつ、て感じかな?…確かにロゼッタのこと避けてるように見えるけど、でも、悪い奴じゃないぜ?」



うん、悪い人じゃないのは分かってる。

だって、竜を見つめる時のあの瞳…。悪い人だったら、あんな慈しむような眼差しはできないと思う。

それにあの眼差し…どこかで見たことがある気がする。




…………………………



わたしの課題、それは体力だ。

体力育成のために走り込みをするのだが、わたしが一番遅い。



「全員戻ってきたな。今日はこれで終了とする!各自寮に戻るように。」


「「「はい!」」」



それぞれ汗をかいているが、膝に手をついて息を整えているのはわたしだけだ。喉は血の味がするし、足もフラフラだ。

孤児院にいたときは小さい子供たちとかけっこしてたけど、それとは比べ物にならない。自分の体力の無さが恨めしい。



「早くシャワー浴びて飯食おうぜー。俺腹減った。」



ラルフの声に顔を上げれば、みんな少し前を歩き始めてる。

わたしも早く行かなくちゃ。



「うん、今行く!」



なるべく元気に返事をして、みんなの後ろを追いかけた。






寮に帰り、シャワーを浴びるためにみんなと別れて女子棟に入る。

ああ、そういえば、シャワー前に新しい石鹸を取りに来てってハルさんが言ってたっけ。


思い出して来た道を戻り、共有スペースにあるハルさんの部屋に向かっていると、レイドが前から歩いてきていることに気づいた。

挨拶だけでもしておこうと、笑って「おつかれさま!」と声をかける。


すると、わたしに気づいた彼は眉をしかめる。

綺麗な顔の分、迫力があって少し怖い。


しばらく無言だったから、やっぱり話したくないのかなと思ってお辞儀をして通り過ぎようとしたのだが。



「どういう奴がここを途中で出ていくか知っているか。」


「え?」



突然投げかけられた質問に驚く。レイドが話しかけてくれたことにも。



「和を乱す奴、竜騎士として相応しくない言動の奴、中途半端な志の奴だ。」



冷たい目で話される内容は、まるでわたしを責めているようだ。



「あんたは、一体何を考えてここにいる。」


「…竜騎士になりたいと思ってるよ。みんなで頑張って、竜騎士になれれば良いなって思うよ。」



そう言うと、彼はハハッと乾いた笑い声をあげた。しかし、その表情は笑みとは程遠い。



「甘い考えだな。俺達は仲良しごっこをするためにここに来てるんじゃない。…それにお前、ここに来るのに正式な手順を踏んでないだろう?」



彼は冷たく言葉を言い放つ。



「お前、ヴァイツ・シルバーの推薦で、試験を受けることなくここに来たんだろう。」



ヴァイツ・シルバー


ファミリーネームは聞いたことなかったけれど、それはきっと、わたしに竜騎士になる選択肢をくれたあのヴァイツさんのことだ。



「確かに、ヴァイツさんに言われてここに来たけど…。」



わたしの言葉を聞いて、レイドの目付きが鋭くなる。



「お前がどんな事情があってここに入れたのか知らないが、俺は自分の力でここに入った。そして、自分の力で竜騎士になる。…ここは、なんとなくその場にいるような、覚悟がない奴が居て良い場所じゃない。」



わたしはその言葉に何も言い返せなかった。そんなわたしを一瞥すると、彼は去っていった。



わたしはその場から動けずにいた。彼がわたしに言った、「覚悟がない奴」という言葉についてぐるぐる考える。


わたしは、孤児院の助けになればとここに来た。

わたしの大好きな院長と、みんなと、きっとこれから孤児院の仲間になるだろう可哀想な子ども達のために。

立派な動機かは分からない。他の人が何を目指してここで学んでいるか知らない。でも、わたしはわたしなりに考えた結果、ここにいる。

これは、竜騎士を目指す理由として、志として相応しくないのだろうか…。



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