彗星 第二話
「ミル士官候補生、いるかね?」
「んー、はぁい…いますけどぉ」
ロー大尉の声とは気づかず、ミルは寝ぼけてふにゃけた声を出した。まだ子供の面が残っているんだな、とローは妙に安心した気がした。
朝8時はこの季節では起きるには遅い。冷房が効いていても8時前に目覚めはするだろう。
「ん…ん?あれ?ロー大尉…?」
いまだ寝ぼけているが、さすがに家に上がってきたロー大尉の顔くらいは分かるらしい。
「ったく、上の連中も無理言いよるな、全く…ほれ、起きてくれんか、ミル士官候補生」
このあと、ローは結局20分ほど彼に費やした挙げ句まだ半分寝ているミルを本部まで連れていくことにした。
「朝食は向こうで取ろうか、とにかく起きてほしいんだが」
「はぃ、起きてます…」
「それは起きているとは言わんな。とにかく上が重要な話があると言って君を呼び付けてるんだ」
「うーん…重要な話?」
「とにかく起きてくれ」
「うぅん…」
「っと、到着してしまったか…」
ローはミルを車から引っ張り出した。子供とはいえかなり軽くて、この時ローは一瞬驚いていた。
「ロー大尉、ミルは…」
「この子だよ、朝っぱらから士官候補生を呼び出すとは何用だね」
「なんせここで話すと暴動が起きそうでしてね、中へ...というよりミル士官候補生はまだ起きていないんです?見たところまだ寝ていますが」
「なんですかぁロー大尉ぃ」
「私はロー大尉ではないぞミル士官候補生」
「まあ中に入ろうか」
そのままここの首都であるオーデルフィアの宇宙軍総司令部ビルに入っていった。
「ミル士官候補生、起きたか?」
「...すごく、恥ずかしいです」
「やめてやれ、フォーゼル...で、話とは何だね」
「それが、大三十三連隊が壊滅したと」
「大三十三連隊がか!?」
ローは立ち上がって叫んだ。
「それは本当か!?フォーゼル」
「ああ、死傷者が何十万と出た、上層部はそれを受けて反攻作戦に出るらしい」
「反攻作戦か…果たしてそううまくいくのかね?連隊丸ごとを食ったんだから、敵の将校は中々なやり手だぞ」
「あぁ、そう思う。だが…上の連中は前線を知らんのだろう」
「全く…そうなったら余った士官で艦隊を組む羽目になるではないか」
「新連隊の創立が近々ありそう、ということですか?」
「まぁ、暫定ではあるがね。それで、ミル士官候補生にはその連隊総旗艦の搭乗が予定されている」
「え?」
「おい待て」
ロー大尉が声を荒げた。
「総旗艦だと?士官候補生を総旗艦に乗せるのか⁉」
「人員不足と早期訓練、だそうだ。まったく上の連中は…」
フォーゼルはため息をついて続けた。
「で、ミル士官候補生。ここも重要なんだが、君はこの戦闘で何か作戦に貢献した場合、そのまま小艦隊司令官補佐に昇進になる」
「えっ?」
「おい待て、そこまで人員が逼迫しているのか」
「連隊がやられたんだからな。それに、これまで戦闘が無かったぶん新兵も多い。現役の士官まで模擬戦でぶっ飛ばしたんだし実力が見込まれてるのもあるがね」
フォーゼルは淡々と言ってのけたが、ミルはそれにたじろいでいた。
「…時には覚悟も必要だ。軍隊に入れば、命令ははいが基本だからそれも忘れずに。だが個人的な意見として、死にかけたらさっと逃げてくるのも一つの手立てだ。特に優秀な士官ほど帰ってきてほしくある。ミル士官候補生、いいね?」
「…はい」
「では、話は以上だ。それとロー大尉、これも個人的なお願いだが」
「何だ?できないことでなければ聞くが…」
「ミル士官候補生を優秀な士官に仕立て上げてやってくれ。どうも第六感がこいつはできると叫んでいるんでね」
「そうかい…分かった、ミル士官候補生は優秀な士官にすると誓う」
「あ、あの…そんな過度な期待をされても…」
「なんだ?軍隊以外に生きる道が無いのでは無かったか?」
ローが笑う。
「艦隊が創設された後、君も幕僚の補佐として呼ばれるだろう。それまでは仕事はないが、強くなるという仕事はあるぞ」
フォーゼルも笑顔を見せた。
作戦本部を出た後、ローは朝のことをからかうように言った。
「寝不足の解消は短時間ではできんぞ、しっかり今のうちに寝ておきなさい」
「う…はい」




