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彗星  作者: 道宮真澄
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第一話 平穏

宇宙に瞬く無数の星。長く人類の希望と未知を象徴したそれが、今は戦争という場所の一部に成り下がっていた。

「…今日もか、戦没艦の墜落は」

夜空には彗星の如き光が尾をなして落下していた。それこそまさに戦没艦である。恐らくは中に抱える多くの乗員と共に、大気圏で消滅するか燃えカスが落ちるかするだろう。どっちにしたって人間の骨が残ることはない。

戦没、というからには戦争をしている。ヴェラ帝国とフィノストロ帝国は、その思想、文化、そして根本に巣くう理念の違いから対立していた。戦争は凰歴56887年から行われており、現在の年号が58937年であることを思えば相当長い期間対立は続いている。

なぜここまで長い対立があるかと問うたところで、適切な、もしくは納得できる答えは期待できないだろう。戦争の大義は双方「理念」の違いだけを頼みにして戦い続けている。それすら今では廃れているが、世代をまたぐ悲劇と憎しみが連鎖し、戦争は止まることを知らない。そして、その距離も原因だった。

それぞれが恒星系数個を配下に入れる大国家だが、双方はアスタブル銀河の中心、ブラックホールを中心に直線40光年、迂回では57光年という途方もない距離に昇る。加えて、ブラックホールの生み出す複雑な重力波がワープ航行を妨げ、それによって航路の一部が通常航行に限られる。特にここは双方から距離も同じであったが、ここの距離がこれまた140AUと長く、また重力波が影響して重力レンズを作り出し、事故も絶えず、それを確認できなかった双方が戦闘を始めてしまい、そして重力レンズのことは全く対策されないという負のサイクルが発生していた。全員が半分戦争を忘れ、半分戦慄している。合理的に戦線のフィードバックがなされ、人員はそれの操作要員であればよかった。

だがそんな戦争も今は一定の停戦を見ている。戦争は今一定の平和を守ってはいた。

「でも、まだ平和なほうですね、大尉」と、ディルファイム・カルア・ノーデムルク少尉が言う。

「ああ、平和だな。確か十二年前から戦闘が起きてないのか」これは、スフェラ・ウォルム・ロー大尉だ。

「十二年も経つんですか、ヴィノムーレの戦いから」

「ああ。随分平和ってのも早いもんだ」

「航宇でも時間が経つのが早いですけど、それ以上に早いですね」

「そうだな。俺もそろそろ退役になる」

「とすると、本国へ?」

「いや、ここストルミナに残って余生を過ごすよ。人生の大半を過ごしてきたんでね」

「そうですか」

「そういえば、最近逸材と噂される士官候補生がいると聞いたが?」

「ああ、確か...」

そこで、コンコンとノックがあった。

「ん、入れ」

「失礼します…士官候補生のエーグ・フェスト・ミルです」

「ん?子供か?」

甲高い声で、身長は150を満たしていない。見た目も随分物理的に軽そうなものだった。

「えっと…?あれ?参謀候補生って…聞いてたん…だけど」

少尉が困惑していたが、本人はさも当然だというようにけろっとして続けて言う。

「先にロー大尉に面会しろと言われたのでありますが…」

「うん、ロー大尉とは私だが…面会予定に士官候補生はいたかな?少し待ってくれ」

少ししてから、ロー大尉はひと月先に士官候補生の面会を入れていた。

「もしかして、士官候補生訓練期間終了後すぐにここに?」

「はい?そうでありますが」

「君、説明を聞いていたのか?説明ではひと月先に面会をとされていたと思うが」

「えぇ?話ですか?校長の話が長すぎて寝てましたのでなんとも」

余りに堂々としていたので、ローも苦笑いするしかなかった。

「ったく、素直な奴だ。今夜が幸い空いている、その時でも構わんね?」

「はい」

「じゃあ22時に会おうか」

「10時ですか?随分遅いんですね」

「…君が思うより軍人は忙しいんでね」

「では、失礼します」

ミルはそう言うと部屋を退散した。

「いやあ…問題児かもしれないね、彼」

「ですが、それでもあの年齢で士官候補生とは驚きですよ」

「確かにな。ああいう性格でも士官に向いているのかもしれん」

憶測を語ったが、彼は気にも留めず事務に戻った。

その日の夜、ローはミルと予定通り会合していた。

「ロー…えっと」

「大尉だ」

「ロー大尉、それで、私の配属などは何処なんでしょうか?」

「まあそう早まるな、心配せんでもすぐに配属するさ…書類を催促して君の概要を見たところ、参謀補助候補などの作戦側にけっこう推薦されてるね」

「はい。チェスは苦手ですが」

「はっはっはっ、チェスは苦手なのか、意外だな」

「意外とは何ですか、軍役でしか生きれないとこれでも給料のために必死なんですから」

「…軍役でしか生きれない、というと?」

「私は根本的なほかの知識についてほとんど学習が追い付かないんです、軍役関連の知識だけは例外でしたけど」

「ほう、それで軍に?」

「家は私だけです、とても貧しくて…母は入院生活ですし」

「…戦争孤児か?」

「ならとっくに養子ですよ、母が居るから行政上私は孤児ではないんです」

「そうか…」

「生活はいつもカツカツで、食品を切り崩して税を払ったことも何度だってあります。だから、一刻も早く軍役に就きたくて頑張りました」

「そうか…」

ローはその後に続けようとした言葉を飲み込んだ。

「さて、じゃあ君が望んで止まない配属だが…第234艦隊、参謀補助訓練士官として初期配属、その後第566艦隊の参謀補助官になって正式に配属だ」

「分かりました」

そう言って足早に店を去ろうとするミルをローは慌てて呼び止めた。

「せっかくなんだ、一緒に夕食でも済ませよう。私の驕りだ」

「いいんですか?」

「何を気にする必要がある?ほら、座ったらどうだ」

「じゃあ、遠慮無く」

ローはこの不思議な士官候補生に世間話をして、時計の針が11時を指すころに夕食が終わった。それから、ローは彼を家まで送った。

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