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おのれに腹立つ
「まーだ、このあとも、まわんのか?」
タクアンがあきれたように足をとめるのに、コウドはかまわず先にすすむ。
「まわるさ。 なにしろチサイ先生がほんとにあやしいとなりゃあ、いままでずっと近くにいたシュンカがあぶねえかもしれねえ」
コウドは腹が立っていた。
そりゃたしかに、すこし変わった男だとは思ったが、トクジから、先生のことでなにか気になったら知らせろ、といわれたときも、そりゃ考えすぎだ、とかえしたほどだ。
チサイを信用していた。いや、いまのところまだ、信用したいと思ってはいる。
誰に対しても、おなじ扱いをするし、ひとりひとりに時間をかける《みたて》も、感心していたのに・・・。
「 ―― あんた、じぶんに腹をたててんのか?」
タクアンが、ようやく飯をとるのに寄った料理屋で、早々に食い切ったコウドをわらった。




