79/142
坊主らしくはない
右目横の傷は古そうだが、赤黒く変色しているうえ、ちょっとまえに殴られたように腫れているようにみえる。
その、ものごしからしゃべりかた、発する『気』までが、まったく坊主らしくない。
朝早くに詰所の表に着いた坊主たちとは別に、いつの間にか庭にはいりこんだタクアンは、「トクジ、でてこい!」とさけんで、おどろいてみにいったコウドに、「すまんが、のどがかわいたので茶をくれ」と頼んだ。
よばれたトクジは、表に着いたほかの坊主たちを部屋に案内したあと、ようやくタクアンの顔をみて、「表からはいってこい」と言ったが、「どうせすぐ出るんだろ」と、相手にもしない。
けっきょくタクアンは、縁側に座ったままトクジのはなしをきき、部屋のすみにひかえて同じ話をきいていたほかの坊主たちに、それぞれの仕事をいいつけた。
ここでようやく、この坊主が《頭》なのだとコウドは気づく。




