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タクアン
「 ―― で?骸はどうした?」
詰所の庭に面した縁側にこしかけた男は、右目横の傷をかきながらトクジをむいた。
傷といってもトクジがもっていたようなえぐれた傷ではなく、逆に肉がおかしなぐあいにひきつれて、もりあがり、腫れたようになっている。
コウドが茶をいれてさしだすと、礼をいって湯呑を上からつかみあげ、酒のように飲みほした。
またすぐに、あたらしくお茶をつぐ。
「 コウアンたちが《経》でかこって莚ごと穴にいれておいたら、今朝になって腐ってやがった。 念のためスザクが、《経》をかきつけた晒で巻いておいてある」
こたえたトクジを、左目をみひらくようにして、にらみつけた。
「 そりゃもちろん、骸をみつけた河原においてあるんだろうな? 一度、スザクがここに運んだって言うが、よけいなところに、血をまきちらすなよ」
命じるのは、今朝、高山からついたタクアンという坊主だった。




