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まえのウツワは猫
それはしかたなかろう、とコウアンが肩をもつ。
「わしでも、いまから天宮に住め、などと《くちだし》されたら、こわくなる」
それにうなずいた絵師は、「で?」と、すすめられてもいないのに、椅子にこしかけた。
嫌そうな顔をしたドウアンの代わりに、コウアンがはなしだす。
「 ジュフクさまは、もともと下界の商家の跡取り息子として育った方だ。 おまえたちの育ちに似ておるかもしれんな。 家は裕福で勉学もさせてもらえ、頭もよく物覚えがはやい。 幼いころから兄のジュフクさまが店を継ぎ、弟のキフクさまは新しい店をかまえる、ということが決まっていたようだ。 ところが、あるとき、二人は天宮によばれてしまい、 ―― 帝にあう」
ちょっとまった、とセイテツが手をあげる。
「そのときの、帝って・・・?」
「だから、まえの『ウツワ』の帝だ。 ―― そのときは、『猫』だったようだ」
「っげ。あの白猫か? ってことは・・・」
ほかにも白いネズミやヘビの姿が思い浮かぶが、口をおさえて、ださずにおいた。