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岩と樹(き)
トクジがシュンカに経の手ほどきをする部屋は庭に面しており、開け放したままの部屋の障子のむこうは縁側なので、むかえにきたスザクなどはそこに座っていつも待つ。
その庭に入るための戸口に、番をして立つ男衆とセイテツが言葉をかわすのがきこえきて、すぐに、木戸をくぐりぬけ、岩のような《気配》の男と、樹木のような《気配》の男が庭に来た。
「おお、トクジ、ずいぶんと立派な家だな」
「こいつの家というわけではなかろう」
坊主が身に着ける墨染のケサをまとった男二人は、《詰所》をみあげて笑いあっている。
こちらが、この詰所の頭をまかされているのを知りながら、からかいで口にしているのだ。




