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いまは ほかに
「 チサイ、てめえよくも っつ」
土間に膝をつく医者に寄ろうとしたコウドの着物を、ミノワがひいてひきとめる。
「 ウド兄、気をつけたほうがいい。ここで目が合ったあんたの中に、ソイツがはいったなんてことになったら、のっとられちまうんだろ? ―― 《頭》がいねえここで、あんたをとめられるヤツはいねえ」
コウドの頭がすこし冷える。
「ちがう!コウドどの!いまはちがうのだ!」
さけんだチサイはミノワに蹴倒され、動くんじゃねえと、おさえこまれた。
医者は必死で顔をうわむけ、いまわたしはチサイだ!と叫ぶ。
「 コウドどの!あいつはいま、ほかにいるのだ! わたしではないほかに! 」




